52年も前のヒット曲に『あなた』(小坂明子)というのがある。
──もし家を建てるなら、大きな窓と小さなドア、部屋の中には暖炉。
真っ赤なバラとパンジーを飾り、あなたのそばには子犬がいる。
小さな家だけど、それが私の夢。いとしいあなたは今どこに──
「一億総中流」と言った頃の歌で、まさにそれを象徴するような歌詞だ。
あの頃の日本は1960年代以降の高度経済成長下、
68年にはGDPは世界第2位となり、所得倍増計画が打ち出されたこともあり、
国民の間に「自分は中流階級だ」との意識が急速に高まっていた。
70年の国民意識調査では約9割、要するにほぼすべての国民が
「自分は中流」と思っていたという。
『あなた』はまさに、それを象徴するような歌だったのである。
だが、あの高度経済成長はうたかたの夢と消えてしまった。
浮かれに浮かれたあのバブル経済が崩壊し、世界第2位だったGDPは、
今や米国、中国、さらにドイツにも抜かれ第4位に転落している。
また、これが国民一人当たりとなるとさらに驚く。
2023年のそれは、何と世界34位だし、
OECD加盟国の中ではお隣の韓国にも抜かれ22位に転落。
日本人の豊かさは思いのほか低くなっているわけだ。
そう言えば、訪日外国人がひどくリッチに見えるのも、
彼らの所得水準自体が高まっているのに対し、
日本のそれは上がっていないことも大きいのだろう。
ところが、専門家によると国民の間にはそうした
「中流」意識がいまだに残っているのだそうだ。
ただ、かつてのように「総」というわけではない。
一方では80年代以降所得格差が急速に拡大し続けており、
いまや「格差社会」とまで言われているになっている。
国民が「総中流」と思えるようなかつての勢いを取り戻すには、
為替、物価、金利、人手不足、米国・中国経済などさまざまな要因が絡み合う。
日本経済が復活するのはいつになるか、見通すのは簡単ではないが、
一日も早くそうあってほしいと誰もが願っているはずだ。
テレビなどで70年代の歌がカバーされ、盛んに歌われている。
「あなた」もそうだし、「喝采」(ちあきなおみ)、「ロマンス」(岩崎宏美)、
「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)、「化粧」(中島みゆき)、「異邦人」(久保田早紀)……。
やはり、「総中流」と思っていたあの頃が懐かしいのだろうな。
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