春烙

寒いなあ…

ルールマナーを守ろう!

2009年07月30日 19時38分44秒 | 二次創作(少年&小説系)

 総合病院の個室。
 泳地はベッドの上から外の風景を眺めていた。
「はぁー……」
「?」
 隣にいる小柄な少年が首を傾げていて、泳地は少年の方を向いて言った。
「いやな。今から騒がしくなるなぁ、と思ってな」
「どうしてなの?」
「余。お前は入院したことがあるか」
「うーん……。分かんない」
「じゃあ、覚えておけ――入院しなさそうな奴が入院したら、周りの奴は騒ぐと
 泳地が言い終わった、その時。
 個室の扉がゴドッと倒されてしまう。
「にいさんっ!」
 余を横に飛ばすと、その人は泳地に抱きついた。
「大丈夫なのですか!?」
「平気だ、水奈。それと」
「はい?」
「走ってくるな」
 水奈に突き飛ばされた余は、床に座り込む状態で様子を伺っていた。
「すみません。でも、でも!」
「女子学生のつもりか!」
 ドアの前で、白銀の青年が怒鳴り、近づいてくる。
「わりぃ、泳地兄貴。目を放した隙に先に行ってた」
「ああ。気にするな、壱鬼。分かっていたことなんだからな」
「やっぱ、分かってたじゃん」
 ドアを元の場所に貼り付けている金髪の青年が言った。その近くには、余より10㎝小さい子供がいた。
「よし、できた」
「ジュン兄、やる~」
「ありがとうな、ジュン君」
「いやいや。翼乃ならやるかな~、とおもーてな」
 手を振ると、ジュンは床に座っている余を立たせた。
「あ、どうも」
「いやいや~。こちらこそー」
「?」
 余はジュンの言葉に理解できず、首を傾げた。
「なあ、泳地。お前って、運悪い方か?」
「そう取っていい」
「何が、何が!」
 アスカははしゃぎながら、ジュンの服を引っ張った。
「泳地はな、足を怪我をしたんだ」
「どうして?」
「余がな、道路に出ていてな。それを見た泳地が道路に飛び出してな。飛び出したのはいいが、助ける途中、トラックに跳ねられて、トラックに跳ねられて――。合計7台のトラックに跳ねられ、足を怪我をしたってわけだ」
「わあ、7台も跳ねられても生きているんだね!」
 目を輝かせているアスカを見て、泳地はため息をついた。
「そういえば、翼乃は」
「築嶋(つきしま)さんといろいろと話してるぜ」
「そうか」
「兄さん、にいさん!」
 もう一人のはしゃぎ者は泳地の首を締め付けるかのように抱きしめていた。
ぐっ……!
「うわ! 締め付けるなよ、水奈! 足にも響くぜ!!」
「泳地兄貴を殺す気か!!」
 壱鬼とジュンは、泳地の首を締め付けている水奈の腕を外そうとしていた。
「触らないで下さい!」
「やばいだろ!」
「何だろう……この人たち」
 余は騒ぎを見て、小さく呟いた。
「ブラコンにもほどがあるで!」
「ブラコン以上だ!!」
ぐっ……ぐるしいっ
「兄さん?!」
「「うわ!」」
 水奈が急に腕の力を抜いたので、壱鬼とジュンは軽く飛ばされてしまった。
「死ぬかと思った」
「すみません。でも、心配したんですよ?」
 目をうるっとさせて、水奈は見つめていた。
「(うるっとするのか。てか、できるのか!?)」
「ああ。悪かったな」
「本当に、心配したんですから……」
 そう言うと、泳地の頬に軽いキスを送った。
「こらぁー! 子供がいる前でキスすんな――っ!!」
 壱鬼がアスカと余の目を塞いで、怒鳴った。
「別にっ」
「(ひねくれてる!?)」
「別にってなんだよ! そんな事だから、翼乃があんな風にっ」
…俺が……なに?
 背筋が凍るようなオーラを感じた壱鬼は、恐る恐る扉のほうを見た。入ってきた翼乃が、黒い瘴気に身体を覆われて壱鬼を見ていた。
「よよよよっ、翼乃っっ!!」
「なんだよ、その言い方。まるで俺が、驚かせているような感じだじゃねぇかっ」
「いや。あってるからな」
 扉からすぐ近い位置にいるジュンは、瘴気に当たりながらも普通にふるまっていた。
「翼乃……」
 泳地は哀れむような声で、翼乃を呼んだ。
「何?」
「頼むから、病院内で瘴気を出すな。患者が死ぬだろうが」
俺は死神かっ
半分な
……
 翼乃が目を閉じると、周りを覆っていた瘴気が翼乃の身体へと入っていく。
「……これでいいでしょ?」
「ああ」
「泳地兄さん。足、平気なの?」
「平気、と言いたいんだが。さっき、暴れられたからな」
「ふーん……暴れたんだ?
 翼乃は目を細めて、近くにいるジュンを見つめた。
「俺とあいつは止めたんだぜ。水奈を」
「そうだろうね」
 分かっているかのように翼乃は言うと、長男にすがっている水奈(頭にウサギの耳が……)を見た。
「……重症だな、こりゃっ」
「たかが怪我だろ?」
されど怪我、だ。とてつもない心配性だから」
「お前は心配してないのかよ?」
「しているよ。水奈兄さんには及ばないけど」
 いや及ぶとかそういう問題じゃないっと、足の悲鳴を我慢しながら泳地は思った。
「明日にでも退院だって、奇酉(きとり)さんが言ってた」
「そうか」
「まぁ。退院できそうだったらね」
「……確かにな
 窓から外を眺めながら、泳地は顔を引きつけていた。
「んじゃ、俺。余を一階に降ろしてくる。余の兄弟が来ているから」
 ちなみに、ここは7階。(病院は、13階)
「ああ、頼む」
 翼乃は余の方へ近づくと、ヒョイっと抱きかかえた。
「結構、軽いな」
「……」
「普通こんな事をされたら、なんか言うだろ」
「かっこいい――」
「それは知ってる。否定するだろ、そこは
 ま、いっかと思い、翼乃は病室を出て行った。
「いいのか?」
「知るかっ」
「さてと。明日はどうなることやら」
「やら~」
 面白がって言っているジュンとアスカを、泳地と壱鬼は暗い顔をしていた。

 翌日。
「……すまん」
すまん、ですむのか!
 病室で、翼乃の短めの言葉に泳地は怒鳴った。
「荷物を持たせたの、間違えたな」
「いやー。まさか、入院期間が延びてしまったとはな~」
お前、自分が悪いとは思ってないだろっ……
「みずっち、とっても嬉しそ~~」
 泳地の隣で眠り続けている女神の寝顔を眺めながら、アスカは言った。




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 『ルール』についての話で、第一弾は『病院』です。
 入院する人によって、周りが騒いでしまうんですよ。
 特に、しないと思っている人に限っては(困)



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