いおりが、月神水紀と出会ったころ。
「なんか、狭いよなっ」
終と余は、中等部の校舎の中を探索していた。
「そうかな? 広いと思うけど」
「……広いか?」
終がおっとりとして答えた弟を見た、その時。
「どおぉ――ケェ―――っ!」
後ろのほうから、ドドドドッという足音と高い声が響いてきた。
「じゃまだぁ――!!」
二人の間を、風が吹き荒れていた。
「悪かったなあ――」
強い風とともに青年は、校庭へと出て行った。
「……なんだったんだろうね?」
「さあな」
「えと、えーと……」
水紀と別れた後。いおりはテニスコートへと向かっていたのだが。
「こっちだったかな~」
教えられたのにもかかわらず、迷っていた。
そして。
「きゃっ!」
本日、二度目の衝突に会ってしまう。
「おっと」
だがしかし。ぶつかった相手に支えられて、いおりは倒れずにすんだ。
「大丈夫か?」
「はっ、はい!」
今度の相手は、180近くで青春学園の制服を着た、顔立ちの良い男だった。
「歩く時は、気をつけろよな」
「……」
いおりは、男の忠告を聞き流すかのように、じっと眺めていた。
「(かっこいい――)」
「聞いているのか」
「あ、はい! すみません!!」
我に返ったいおりは、顔を赤くさせて謝った。
「それならいいが……顔、赤いぞ」
竹村(たけむら) 大助(だいすけ)は空いている手を、いおりの額にあてる。
「熱はないな」
「あ、あのう…」
「なんだ? ……あっ」
大助は身体が密着している事に気づくと、慌てていおりから離れた。
「わっ、悪かった!」
「い、いえ!」
二人は顔を赤くして、相手を見ず、しばらく口を閉ざしていた。
「……あのさ」
先に口を開いたのは、大助だった。
「お前。ここの生徒じゃないだろ?」
「明日から、入るんです」
いおりは大助の顔を見ずに、下を向いて答えた。
「……そうか」
大助は、いおりの髪をそっと撫でると、ゆっくりと声をかけた。
「また、会えるといいな」
「はい……あ、あのっ」
顔を上げて、いおりが大助に名前を聞こうとした。が。
「おーい。いおり――っ! そろそろ帰るってよ――」
「……」
突然の呼び声に、一瞬口を閉ざしてしまう。
「あー……」
「兄が呼んでいるようなので!」
「そ、そうか」
いおりが声を上げるので、大助は少し驚いていた。
「はい――では、また明日に! 先輩!」
「ああ。また、明日な。いおり」
大助に見送られ、いおりはもと来た道を戻っていく。
「(もう! 名前聞くの、忘れたじゃない!!)」
いおりは、自分を呼び出した兄に対して怒っていた。
「(会えるといいなぁ~。かっこよかったし……)って。何思っているの、私!!」
いおりは恥ずかしくなって、全力で走り出した。
いおりがいなくなると、大助は近くにある気のほうを向いた。
「いつまで隠れている気だ」
言うと、木の影から終と余が出会った青年が現れて、大助の方に近づいてきた。
「可愛かったよな、あの子」
「いつから、いたんだ」
大助は鋭い目つきで、月神 いちを睨みつけていった。
「そうだな……しらねえー」
「……用事は済んだのか」
「ああ」
いちはなぜかニタッと笑いながら、大助を見ていた。
「それにしてもよ」
「なんだ」
「大胆な事やるよなぁ~。女の子の髪を撫でるなんてよ」
「マジでお前。どこから見たんだ」
「いわねエー。あー、それにしても」
いちは背を伸ばしながら、頭の後ろに腕を組んだ。
「5人のうち、3人見れた」
「…なるほど……」
大助は、いおりが去った方向を向いて、いちに言った。
「あいつが」
「竜堂いおり。俺が中等部であったのは、三男と四男だ」
「たしか、終といったか。俺たちより一つ下なんだろ」
大助が振り向くと、いちは髪を掻き揚げた。
「あいつが言ったんだ。間違いはない」
掻き揚げたいちの黒い髪が、銀色に輝く白色に変化していた。
「それで。クラスの方は?」
「同じクラスだと。泳地(えいじ)兄貴が言うには」
「早い人だな。お前の兄さん」
「そう思うのか、大助?」
「なんだ。違うのか、神壱鬼(いつき)さん」
白銀色の髪をした壱鬼は、違うっと手を振ってこう言った。
「泳地兄貴は鈍い方だし。翼乃が話している時に見た、水奈(みずな)兄貴の笑い顔ときたら……」
そう言って壱鬼がガクッと深く肩を落とすのを見て、大助は励ます言葉が見つからなかった。
<次回予告>
翌日。竜堂兄妹は、青春学園に初登校する。
だが、駐車場で謎の青年に出会うが!
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