青春台。
とあるマンションの前に、一台の車が止まっていた。
「やっと、ついたぜ!」
「わあ~」
「このマンションだよね? 今日から住む所は」
車から降りた、三人の少年少女。
竜堂(りゅうどう)家の三男・終(おわる)、四男・余(あまる)、末女・いおりである。
「そうだ」
「さあ。はやく部屋に持っていきますよ」
運転席と助手席から、長男の始(はじめ)と続(つづく)が降りる。
「「「はーいっ」」」
三人は返事をして、荷物を取りに車へと戻ろうとした――その時だった。
ザ――ッザ――ッ
「?」
何かがすべる音を聞いた5人は、周りを見渡す。
横の方を見ると、ヘルメットとゴーグルをつけ、ローラースケートを履き、赤い服を来た少年が走っていた。
「……」
少年は前に人がいるのを関わらず、止まらずに加速していた。
「止まらないのかな?」
「しないんだろ……って、違うだろ!」
変なことを言う弟に、終は思わず突っ込みをいれた。
だが。少年はそんな彼の方へと進んでいた。
「なっ!?」
激突寸前のところで、少年は高くジャンプし、軽やかに一回転をし、着地を成功させる。
「「すっ……すごい!!」」
少年の動きに見取られて、余といおりはつい感心してしまう。
少年は軽く一礼すると、半回転させた。その時、誰かに向けて、フッと鼻で笑っていた。
「あのやろう!」
少年が走り出すと、終は少年の後を追いかけていった。
「まったく。つい挑発に乗りますね」
飛び出していった三男を見て、続はため息をついた。
「ん?」
始は地面に置いてある一輪の花と小さなカードを拾うと、カードを読み出した。
「『あなたはこの花のように美しい。また会えると嬉しいです。紅き死神より』……紅き、死神…」
一体何者で、誰の事を言っているのかと、始は思っていた。
「待ちやがれ――っ!」
少年が後ろを見ると、数メートル先に終が追いかけてきていた。
「(ふ~んっ。追いつけれるんだっ)」
「追いついたぜ!!」
終が少年の隣に並ぶと、少年が話しかけてきた。
「すごいなー……白竜王どの」
「なに!?」
「じゃあな、竜堂終っ!」
少年はローラースケートの先で回転すると、平手で終の背中を叩いた。
「うわっ!!?」
衝撃により、バランスを崩し、街灯に背中をぶつけてしまった。少年はナイフを取り出すと街灯にさして走り去っていった。
「チッ」
終は立ち上がると、街灯にささっているナイフを取った。ナイフには1枚のカードが付いていて、読み出した。
「『今度あった時には避けろよ。紅き死神』」
終はカードを握りつぶすと、街灯に叩きつける。
「紅き死神……!」
総合病院のとある病室。
「まだかな~」
柳沢(やなぎざわ)のぞみは、ベッドの端に座り込んで外を眺めていた。
と。ドアをノックする音が聞こえてくると、のぞみは嬉しそうにドアの方を見た。
「どうぞー」
のぞみが言うと、ドアが開かれた。
そこにいたのは、のぞみが待っていた人ではなかった。
「こんにちは、のぞみ君」
「ユッキー!」
入ってきたのは、立海大(りっかいだい)附属中3年の幸村(ゆきむら) 精市(せいいち)であった。
「来てくれたんだね!」
「うん」
幸村は以前、この病院に入院していて、その時に同年ののぞみと会っていたのだ。
「どう? 調子は」
「もう少しってとこかな~。テニスの方は?」
「頑張っているよ」
幸村は立海大附属中男子テニス部の部長をしているのだ。
「誰か待っているの?」
「友達。前に話したよね?」
のぞみは立ち上がると、テーブルに置いてある写真立てを手に取る。
「たしか……翼乃(よくの)ちゃん、だっけ?」
「翼乃ちゃんは同じクラスで、ぼくの学校じゃあ有名でね。不思議な力を持っているんだよ」
その時、勢いよくドアを開ける、炎のような紅い髪と瞳をした少年。
その少年は、竜堂兄妹が会った少年であった。
「きた!」
「わりい! ちょっと遅くなった!」
「ユッキー。この人がぼくのクラスメートの、神(じん)翼乃ちゃんだよ」
翼乃は幸村のほうを向くと、挨拶(あいさつ)をした。
「俺は神翼乃。のぞみのクラスメートだ」
「幸村精市です。のぞみ君とは、仲良くしています」
「のぞみから聞いてるよ。よろしく、立海大テニス部の部長さん」
翼乃は笑みを見せると、握手を求めるかのように手を差し伸べた。
「よろしくね、翼乃ちゃん」
幸村は差し伸べられた手を握った。
「どうして、部長だってこと分かった?」
「いったでしょ。翼乃ちゃんには力を持っているって」
「『心読み』……紅き死神の力の1つだ」
運命という時の歯車が
今、動き出す――
<次回予告>
翌日。竜堂兄妹は青春学園に入学手続きへと向かった。
その時、いおりは白衣を着た青年とぶつかってしまう。
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