春烙

寒いなあ…

白い花を求めて

2009年01月30日 20時54分16秒 | 二次創作(少年&小説系)

「――誕生日?」
 壱鬼は自分のベッドに座り込んでいる二つ下の少年に、話を聞き返していた。
「お前らのか?」
「ああ。17日にな」
 そう言って、終はため息をついた。
 1月17日。その日は、竜堂兄弟の生まれた日であった。
「そうかそうか。お前は俺に何かやってほしいというわけか?」
「それもあるんだけどよ……ちょっと相談があってよ」
「相談?」
 シャープペンを置き、壱鬼は終の方を向いていった。
「プレゼントのことなんだが」
「なんだよ。まだ決めてないのか??」
「始兄貴と、余のは買った。あとは……」
「ああ、なるほど。続の兄ちゃんの分がまだなわけか?」
 壱鬼の言葉が当たって、終はコクリと頷いた。
「なあ。何やればいいと思うんだ?」
「そうだな。ブランド物とかが似合いそうだけどな」
 と言いながら、壱鬼は椅子から立ち上がった。
「けど、続兄貴は持っていそうだぜ」
「まあ。あの人なら自分で買いそうだしな――」
 壱鬼は歩きながら、ドアの近くで本を呼んでいる青年に、ドスとハンマーを食らわせた。
「いってェ――!!」
「おめえはどうなんだよ、あぁ?」
 ジュンは打たれた箇所を手で押さえながら、壱鬼を睨み返した。
「打つ事はないだろ!」
「うるせえ! てめえが俺の許可なくして入るのが悪いんだろうが!」
「いいだろ、別に! 翼乃に部屋、追い出されたんだからよっ」
「そりゃ、可哀そうに(どっちにもだけど)」
 何やってんだ? と、終が聞くと。
「言ってくれねえんだ。なんか頼まれたとか」
 そう言って、ジュンはまた本を読み始めた。
「(って。また読んでる)」
「あ、そうだ」
 読みかけの本をあけたまま、ジュンは2人に話しかけた。
「続に何かあげたいんだろ?」
「そうだけど」
「いい物があるぜ。ぴったりなのが」
 悪魔な笑みを浮かべながら言うと、「やな予感がする……」と終は思った。
「それでなんだ。いい物って?」
「花だ」
「……は?」
「花だよ。花に縁のないお前がやれば、驚くだろ?」
「花に縁がなくて、悪かったな」
 と、終は顔を引きつけてジュンに言った。
「けどよ。花をやるのは、普通じゃねえのか?」
「これだから、半人前は。花は花でも――。人間世界にない花だ」
「「人間世界にない、花??」」
「トラから聞いた話なんだけどよ。妖怪の里に、珍しい白い花があるんだとよ」
「へぇ。あの里にそんなのがあるんだな」
 妖怪の里に行ったことがある壱鬼は納得したが、一度も行った事のない終にはどういう所なのか分からなかった。
「里の奥深くにあるんだと」
「よし。誕生日前に取りに行くか」
「て。明日じゃんっ」
「まあ、いいだろ。別に」
 ていうか明後日だったんだなと、ジュンは思った。

 翌日。
 三人は朝から、妖怪の里へとやってきた。
「ここが、妖怪の里か……」
 初めて訪れた終は、朝とは思えない暗い風景に見とれていた。
「ここって、暗いんだな」
「朝夜関係なく、暗いぞ」
「妖怪は、暗いところが好きなのさ――さてと。そろそろ行くか」
 と言うと、壱鬼は手を組み、詠唱しだした。
「我が名は白虎。我と契約し風の妖よ。契約により我の前に姿を現せ! 来い、鳥妖!」
 唱えると、風の五芒星が現れて、両腕に羽根を生やした女の子が姿を見せた。
「頼むぞ、鳥妖(ちょうよう)」
『翼乃はいないのね。ちょっと残念っ』
「あいつは今、忙しいんだ。駄々こねるんじゃねえ」
『こねてないわよ』
 と言って、鳥妖は顔を横向けた。
「それをこねているって、言うんだろうが!」
『何よ!』
「はい、はい。そこまでにしろよな」
 壱鬼と鳥妖の間に入り、終は止めた。
「さっさと行こうぜ」
『う~!』
「なんで、そんな声を出すんだよ。おかしいだろっ」
『五月蝿いわよっ』
「いや。五月蝿くしてないから」
「まあ、いいから。行こうぜ」
 と言って、ジュンは先頭を立って歩いていった。

 3人と鳥妖は、里の森へと足を進んでいた……のだが。
「何処まで行けばいいんだ?」
「知るか!」
「『はぁー……』」
 何処に白い花があるのか分からず、さ迷い続けていた。
「トラに何も聞いてなかったのかよ」
「う~ん……。トラも見た事ないんだと。山姥(やまんば)に聞いたんだと」
『あ。私も聞いたわよ。でも、行くのは初めて』
 終の頭に座りながら、鳥妖が言った。
「前進めば、いいんじゃねえの?」
「「『……そうだな(ね)』」」
 左右に目を向けず、前だけを進んでいると。
「ん……?」
「どうした?」
 先頭に立っていたジュンが足を止め、周りを見渡し出した。
「なんか、甘い香りがしてくる」
『何のにおいよ?』
「……花の蜜、だな……」
 何で分かるんだよっと、終は真剣ににおいを探しているジュンに疑いの目で見ていた。
「(しかも、真面目に嗅いでるしっ)」
「この先だ」
 そう言ってジュンは歩き出し、壱鬼と終は後を追いかけていった。
「(やっぱあいつ……犬だ)」
「あったぞ!」
 ジュンが叫ぶと、二人は走って彼の隣へと立った。
「これが、人間界にはない花――」
 3人が見つけたのは、雪のように真っ白な花畑が広がっていた。
「綺麗な花だな」
「お前が言うと、なんか変な感じがするんだが?」
「悪かったな」
 終が顔を引きつけて言うと、頭に乗っていた鳥妖が花の近くへと飛んで行った。
『いい香り~。きっと喜ぶわよ』
 だといいけどっと、3人はある男の事を浮かばせていた。
「さてと。早く摘んで帰ろうぜ」
 と、花を摘もうとしたその時。後ろからガサと草を掻き分ける音がし、3人は振り返った。
「なんだ?」
「誰か来るみてぇだぞ」
「……あれ?」
 茂みの中から現れたのは、余を肩の上に載せている佑希であった。
「終兄さん? それに壱鬼さんにジュンさんも??」
「お前ら、なんでここにいるんだ?」
「それは、こっちが言いたいぜ」
「僕達は、続兄さんにあげる花を探していたんだよ」
「俺達もだ。なんだよ。同じ事考えてたのかよっ」
 なんかつまんねぇと言い、ジュンは頭の後ろに腕を組んだ。
「それで。どうするんだ、お前ら」
「何が?」
「プレゼントだ」
「大体、トラが珍しい花があるって言うのが悪いんだよな?」
 と言って、壱鬼は佑希のほうを見た。
「なんだと!?」
「だってそうだろ。この花探すのに大変だったし」
「言うけどな。一番最初にこの話を話したのは、翼乃だからなっ」
「翼乃が、か? 何でだよ」
「知るかよっ」
 そう言って、佑希は余を下ろした。と、ジュンが思いついた事を言った。
「どうせなら、お前らで送れば?」
「あ?」
「お前ら一緒のものをやるんだしよ。少しは喜ぶんじゃねえのか」
「……どうする、余?」
 終は考えながら、弟の方を振り向いた。
「僕は別にいいよ」
「そっか。じゃあ、やるか」
「うん!」
「んじゃ。俺達は白い花をプレゼントにする、に決まりだな」
 とジュンが言うと、4人は目を見開いて彼を見た。

 そして、1月17日。
「ほらよ、続。俺達からのプレゼントだ」
 ジュンはそう言って、妖怪の里で取ってきた白い花を続に渡した。
「へえ。お花なんだね」
「とても綺麗ですわ~」
 千一とスミレは白い花を見て言ったが、2人の間にいる沓馬は別の感想を述べていた。
「珍しい事があるんだね。5人全員がお花なんかあげるんなんて」
「いいだろ、別にっ」
「まあ。壱鬼さんと余くんはいいけどね」
 と言って沓馬が薄笑いを浮かばせているのを見て、そりゃそうだっと終は顔を引きつかせた。
「綺麗な花をくれるのは、嬉しいのですが――」
 玲花と茉理が追加料理を持ってきた頃に、白い花を見つめながら続は言った。
「せめて花瓶に添えてから、にして下さい」
「……悪かったな。そこまで頭が回らなくてよ」
「そういえば。泳地達はどうしたんだ?」
 始が聞くと、とても嫌そうな顔をして壱鬼が言った。
「声はかけたけど、来ないんじゃねえの。人の誕生日あってもなくても、いちゃつくからよっ」
「それって。トラピョンの時みたいだね」
 楽しそうにアスカが言うと、佑希が。
「トラピョン言うんじゃねえ!」
 と、アスカの頭を軽く叩いた。
「いたい~っ!」
「翼乃は後から来るって、言ってたけどよ。何か作っていたから結構遅いかもな」
 ハンマーを佑希に叩きつけながら、壱鬼が言った。
「何を作っているの?」
「さぁ。いわねえから、あいつ」
 茉理にそう言って、壱鬼はアスカの頭を撫でた。
 とその時。玄関の方から慌しい足音が鳴り響き、居間の入り口にゼェハァと息を切らしながら姿を現した。
「わりぃ……遅くなった………」
 翼乃は足をよろめきながら歩き、始に細い包みを渡した。
「泳地兄さんから……。花瓶だって」
「あいつらしいよ」
「言伝がある……。またには花でも添えろ」
「添えればいいんだろっ、て伝えてくれないか?」
 わかった…と言って離れ、翼乃は隣にいる続に手紙を渡す。
「これ、水奈兄さんから……」
 片手で受け取り、続は手紙を読んだ。
「……翼乃ちゃん。水奈さんに『確かに受け取りました』と、言って下さい」
「分かった……。あ、そうだ」
 思い出すかのように、翼乃はポケットから色違いの包みを二つ取り出した。
「ご注文の品。特別にラッピングしたから」
 ほとんどの人が分からないまま、翼乃は始と続に渡すと、その場に座り込む。
「寝ないで作ってさ……。特に始さんが頼んだ物は、時間がかかったよ」
「そうなのか?」
「うん。あれを完成するまで、いろいろと失敗した――」
 交換しないのか? と翼乃が言うと。
「い、いや。あとから渡すよ」
「楽しみは後で、ですから」
「……ふーん……」
 ふあぁ~とあくびをすると、「ケーキいりますか?」と続が聞いてきて、翼乃はコクッと頷いた。
「白い花を加工に使うのって、結構難しい。分量を間違えると、違うものに変わるから」
 続がもらった花を見て、翼乃はハァッとため息をついて言った。そしてこの後。翼乃が信じられない事を口にする。
「火飛と座敷わらしが場所を知っててよかったよ。あいつら、たまに白い花のところに行くんだって」
『はあ!!?』
「おかげで俺、迷わずにすんだし」
「そうなのですか」
 周りがギャーギャー騒がしくなっている中。翼乃は続から手渡されたケーキをパクパク食べていた。
「まあ。こんな誕生日も、あってもいいと思うのよね」
 玲花は呟きながら、いつの間にか眠りついたアスカと余に毛布をかけた。

 あ、そうそう。
 里を出る前に、山姥(やまんば)に白い花の事を聞いたんだ。
 その花には、花言葉があってね――
「あなたと、あなたの大切な人が永遠でありますように」 だって!

 この花言葉。あなた達にぴったりの言葉だよ。
  ハッピーバースデー!


 翼乃+始×続 前提で、ジュン+壱鬼+佑希+鳥妖+終+余でした。
 13日は神家の、17日は竜堂家の、兄弟がバースデー!
 寝ずの番で翼乃が作っていた物は一体何なのかは、想像してみてください。



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