春烙

寒いなあ…

大地の序曲 15話

2013年12月19日 12時42分18秒 | 新なる神


「お邪魔しま~す」
「あれ、続にーちゃんどっか行くのか?」

 本日も竜堂家にやってきたいち・くよん・凍華・スバルの4人は、玄関で靴を履いている続と遭遇した。

「ええ。演習場での一件で、こうき君たちとお出かけすることになりまして」
「ああ、茉理悪代官さまか」
「失礼だよ、凍華っ」
「いえ、ある意味あってますよ。女の子とデートさせようとするのですから」
「こうきさんも入るからWデートじゃない?」

 首を傾げて告げるくよんに、あぁっといちは納得するとバックからある物を取り出して続に渡した。

「はい、続にーちゃん」
「折りたたみ傘ですか?」
「あたしの友達におは朝信者のやつがいてよ、今日行く前に電話してきたんだ。”今日のお前とあきは、デート行く人に折りたたみ傘を貸さないといけないのだよ”って。今晴れてるけど、途中から降るかも」
「そうですか。ならご好意に借りましょうか」
「ん~。出かけるんだよな、いってらっしゃーい」

 続が出かけるのを見届け、いちは先に上がっていった3人の後を追うように靴を脱いだ。

 

 姉と共に約束の時間より早く到着したこうきは、空を見上げて柳眉をわずかに歪ませた。晴れていたのだが、だんだんと雲が厚くなってきている。

「……一雨くるかもな、これは」
「おは朝ばんざい、てか」
「そうかもな」

 出かける直前、出てくるのを待っていたかのようにじゅのとあきが玄関前に立っていて、自分達の傘を貸して去っていった。どうも二人もどこかに行く途中で寄ってくれたらしい。

「おや、お二人の方が先に着いていたのですか」
「あ、続くんこんにちは」
「よぅ、今日はよろしく頼むな。色男」
「姉貴……」

 こうきは呆れた表情を浮かべ、続は不機嫌そうに目を細めてれいなを睨みつけていた。
 髪型をボブヘアーにし、Tシャツにショートパンツとブーツの組み合わせをしている。

「ほう、誰のことですか?」
「てめえの事だよ。見ろよ、周辺にいる女性がてめえを見てやがるぜ?」
「それをいうなら、こうき君も同じですがね」
「こうきは仕方ない、どうしようもないからな」

 どういう意味だよっと呆れていると、こちらに走ってくる真希の姿を見つけた。

「すみませんお待たせして!」
「約束の時間前だから、走らなくて大丈夫だったよ」
「よかった」

 少し乱れた息を胸に手をあてながら、真希は整える。
 今日の彼女は可愛らしいワンピースを着ており、髪型も少し変えて涼しげな印象を与えていた。

「おめかししてきてくれたんですね。よく似合ってます」
「えあ、ありがとうございます」
「おい、あたいには言ってくれなかったじゃないか」
「貴方の場合は、その口調を正しくすれば服とぴったり似合いますが?」
「褒め言葉として取っておこうじゃないの」

 火花を散らせる姉と友人に、こうきは苦笑しながら真希の方に顔を向けた。

「何か飲み物でも買ってこようか?」
「ううん、大丈夫。こうき君の服、とても似合ってるよ」
「適当に選んだだけなんだけどね。それだったら、真希ちゃんも似合ってるよ」
「そ、そうかな? どんなの着ていけばいいのか、よく分からなくて……」
「何着ても可愛いと思うよ」
「お、大げさだよっ」

 頬を赤く染めて告げる真希に、可愛いなぁとこうきはクスリと笑っていた。

 


「……あのさ、スバルさん」
「なっ何でしょうか?」
「今ならスバルさんの呼び方に同情したい気分になったわ」
「す、すみませんっ」
「えー、いいと思ったんだけど。終ちゃん」

 くよんの隣で高笑いを上げつづける凍華に、いちと始はため息をついていた。
 笑うなよっと叱りつけるが、腹を抱えだす彼女に呆れかえってやめてしまう。

「じゅの君とあき君は一緒じゃないんだな?」
「あの二人は一緒にお出かけ。多分、先輩の所だと思う。ていうか、まだ余の奴寝てんの?」
「そういえばまだ姿を見ていないな」
「凍華の笑いで起きないもんな。起こしに行ってくるわ」

 と言った瞬間いちの姿が一瞬に消え去り、風が少しだけ流れていった。
 突然姿が消えたので始は驚き、終はテレポートだ! と叫んでいた。

「あ、いえ。テレポートではなく、『瞬間移動』という能力ですっ」
「いちって、風と雷だけじゃなくて能力も使えるんだな。すげえ」
「『瞬間移動』は、こうき兄様も使えるよ」

 とやっとのことで笑いが収まった凍華がそう告げていた。

「十二天将にはそれぞれ能力があってね、その天将にしか使えない能力もあるんだよ」
「私は『念動力』と『心読み』と『洗脳』使えるよ! 『念動力』は零さんが使っている能力と似ているけど、そんなに疲労はかからないの。『洗脳』は視覚と聴覚を利用して相手を操れるって、お父さんが言ってた~」
「『心読み』は言葉どおり、心を読む能力だよ。ちなみに、『念動力』は水月さん、『心読み』はじゅのも使えるよ」
「凍華は何使えるんだ?」
「それは秘密だよ」

 フフッと怪しく笑いだす凍華に、少し寒気を感じたのはなぜだろうか。

「スバル君は?」
「お、俺は『予知』と『治癒』と『増幅』、ですっ」
「『予知』は予言みたいなものだね。『治癒』はそのまま意味で、傷を癒す能力。『増幅』は、僕たちの能力を上げてくれるものだよ」
「俺の『予知』は、じゅの君や時任さんよりも、弱いですけどねっ」
「あ、だからあの時薫たちが来ることを分かったんだ?」

 コクコクと素早く頷くスバルに、首は大丈夫だろうかとつい心配していた。

「時任さん?」
「私の父方の従兄でーす。民俗学者で、今海外を飛び回ってるの!」
「むろん、時任さんも十二天将の一人で、長である木の天将の貴人になるけど」
「ちなみにうちは、貴人の夫である太陰の現世になるけどなー」

 突然声が聞こえたかと思えば、トランクを片手に持った女性がリビングに上がり込んできた。茶色のかかった黒髪に黒い瞳をし、費えない笑みを浮かべている。

「あ、千薙お姉ちゃん! 戻ってきたんだね」
「くっぴー、元気そうやな~。といっても、また海外にUターンやけど」
「なんでここにいるんですか?」
「凍華、落ち着いてっ!」
「ほんま暴力的やな、とかりんは~」

 火の柱を作り出し投げようとする凍華を、スバルは取り出した衣で必死に止めておた。千薙は笑ってはいたが、トランクを盾代わりにして前に少しずつ進んでいった。

「お兄がここに行けば会えるいうからな、来てみたんや。ほんま、お兄の『予知』は外らへんで」
「まあ、時任さんですから」
「凍華っ」
「おっと、そちらさんが竜王さんらかいな? うちは二之宮千薙っていうねん、氷の天将である太陰の生まれ変わりやさい」

 よろしゅうと軽く手を振りながら告げる千薙に、変わった人だなあっと終は思った。

「ていうか、今おるの3人だけ?」
「いちちゃんが余くんの部屋に言ってるよ」
「まあ、れいな姉様とこうき兄様も後でこっちに来るって言ってたけど」
「なんや泳奈ちゃんおらんのか、残念やなあ」
「泳奈お姉ちゃんに会う前に、お兄ちゃんと水月お兄ちゃんに殺されちゃうだけだよー」
「残酷な事いわんといてや、くっぴー……!」

 ガクッと深く落ち込みだす女性に、凍華はざまぁと冷たく放し、その妹をスバルは叱っていた。

 

「おーい、余ー。起きてるか……うおっ」

 無断で部屋に入ったいちは、ベッドから浮き上がっている少年を見て驚いていた。
 これは以前見た、夢遊病ではないのだろうか。

「余ー?」
「……白虎、様…」
「起きろー、朝だぞ、余」
「……? あれ……いちちゃん?」

 ぼんやりと覚醒した少年はベッドの上にぽふんと落ちる。その衝撃に不思議な表情を浮かべて余は首を傾げた。

「おはよう……?」
「おはよーさん。なんか夢でも見たわけ?」

 自分のことを白虎と呼んだことに、いちは眉を寄せながら尋ねていた。

「えっと……あ、恵ちゃんとじゅの君に似た女の人が出てきたよ」
「…そっか……」
「それとね、いちちゃんと感じが似た男の人も出てきたよ」
「……ふーん」

 早く準備して降りてこいと余に告げると、いちは部屋を普通に出ていった。

「何がしたかったんだろう、うちらのご先祖様はっ」

 ため息をつき、いちは階段を下りていった。

 

 



コメントを投稿