春烙

寒いなあ…

神の劇 ~A drama of God~

2009年08月13日 20時51分20秒 | 神の劇~A drama of God~(神×竜×テニ)

 次の日。
 転入手続きはしたものの、制服は数週間しないと届かないという事。なので、年少組の三人は共和学院の制服で登校することになった。
「(水紀先生に会えるといいなぁ。同じ校舎だしね。それに……)」
 いおりは目を閉じて、昨日出会った青年のことを思い出していた。
『また、明日な。いおり』
「(あの先輩に会いたいな~)……かっこよかったし…」
「誰がなの、いおり?」
 口からこぼれた言葉を隣にいる余に聞かれてしまい、いおりは「なんでもないよ!」と言って首を横に振っていた。

「やべっ、遅刻だ!」
 服装が乱れたまま、いちは青春学園の方に走っていた。
「(やっぱ、遅くまでするんじゃないよな。兄貴達じゃあるまいしっ。あーでも、なんか触っておかないと、おかしくなるし……)」
 心の中で反省をしながら、中等部の駐車場へと駆け込む。と、ちょうどその時。竜堂兄妹の乗っている車が駐車場に入ってきた。
「(うわ、やば!!)」
 車が入ってくるのを見たいちは、慌てて近くにある木の上に身を隠して様子をうかがっていた。
「(たしか、今日だったか)」
「……?」
 車から降りた余が、いちのいる木をじっと見つめていた。
「どうした、余」
「……さっき。木が揺れたから、気になって」
「(気づいたのか? まあ、いい)」
 いちは枝を揺らし、空中で一回転して地面に降りてきた。
「あっ、人だ!」
「(……『あっ、人だ』は、ないだろっ)」
 顔を引きつきながら、いちは兄妹に近づいていった。
「すみません。脅かしてしまって」
「いや、別に。どうして木に隠れていたんだ?」
「急いでいたら車が来たんで、やばいと思って隠れました」
「もし見つかったら、どうするつもりだったのですか」
「まぁ……その時はその時で、何とかしますが」
 気楽な顔が真面目な顔に変わると、いちはとんでもない事を言った。
「すみませんが……見逃してくれませんか?」
『……はあ?』
「おれの姉貴が、ここの先生をやっているのですが。この事を知られたらおれ、姉貴に殺されてしまうんですよ!!」
 このとおり! と、いちが手を合わせて頼んでいた。その姿を見て、教師である始は悩みながらもいちにこう言った。
「まあ。いいだろう」
「本当ですか!?」
「次から気をつけるならね」
「ありがとうございます!!」
 いちは始の手を掴んで、お礼を言った。
「それより、いいのですか。早くしないと、遅刻になりますよ?」
 続に言われ、いちは腕時計を見た。
「あー……走れば間に合うんで。じゃあ、これで」
「遅刻しないでね」
「そっちもな。――また後でな、竜堂」
 と言って、いちは全力で走り去っていった。
「もう、見えなくなったよ」
「あの声……昨日聞いた声と、同じだ」
 それになんで苗字を知ってるんだっと、終はいなくなった青年に言った。

 中等部。
「違うクラスになったね」
「うん」
 いおりと余は、それぞれのクラスの担任の後ろをついて行っていた。
「でも隣だし。遊びに行くよ」
「うん。それじゃあ、あとでね。いおり」
 7組の前で余と別れ、いおりは先生の後を追って8組の教室へときた。
「では。名前を呼ぶので、入ってくるように」
「はい」
 担任が先に入り、いおりは高等部にいる兄の事を考えていた。
「(終兄ぃ。本当に、お昼こっちに来るのかなぁ?)」

 一方、高等部の方では。
「竜堂の席は、竹村の隣だ。おい竹村、手を上げろ」
 担任に言われ、大助は手を軽く上げた。
「あいつが竹村だ。分からないことがあったら、全部竹村に聞け」
「先生。それは無責任だと思います」
 と、大助は反論した。
「だったら、他の奴も巻き込めばいいだろ」
「「それは駄目だろ!?」」
 大助だけでなく、転入生である終も言った。
「おー。初対面なのに同時だ」
「すごい~」
 周りのクラスメートは、それを見て受けていた。
「竜堂、席についてろ」
「…はいっ」
 なんだよ、この先生はっと思いながら、終は大助の隣に座った。
 と、後ろから声をかけられる。
「言ったとおりだろ」
 振り向くと、駐車場で会った青年・いちが座っていた。
「ここのクラスだったのか?」
「そっ。おれは月神いち。お前の隣は、竹村大助っていうんだ」
「おいこら。何勝手にしてるんだっ」
「別にいいだろ。減るもんじゃないんだからさ」
 と笑っているいちに、大助は怒りの色を浮かべつついた。
「こらそこ! しゃべるんじゃない!!」
「ほらみろ。先生に怒られたじゃないか」
 と、次の瞬間。
貴様のせいだろうがあぁ――!!
「うわっ、おちつけって!」
 怒鳴りだし殴りかかろうとする大助を、終が止めていた。
 そんな中、いちは不思議な笑みを浮かべていた。

「入ってきなさい」
「はい」
 いおりは教室に入ると、担任の隣へと向かう。
「竜堂、自己紹介を」
「共和学院から転入してきました、竜堂いおりです」
 と言って微笑むと、男女関係なく顔を赤くなってしまった。
「竜堂の席は、そうだな……桃城(ももしろ)、手を上げろ」
 と言うと、一人の少年が手を上げた。
「あいつの隣だ」
「はい」
 いおりは指定された席に座り、隣にいる少年に挨拶した。
「よろしく! 私は、竜堂いおり」
「俺は桃城武(たけし)! お前のこと、いおりって呼んでいいか?」
「うん! 私も、武って呼ぶね」
 と言ってニコッと笑うと、桃城の顔が赤くなっていった。
「あ。まだ教科書ないから、見せて?」
「おー、いいぜ!」

 この時、彼女たちは。
「楽しめそうだよ、竜種は。時が来るまで、ぼくを見つけられるかな……天将の皆さん」
 鏡の向こうで微笑んでいる青年に、見られていることをまだ気づいていなかった――



 <次回予告>
 昼休み。屋上で昼食を取ろうとするいおり達だが、すでに先客がおり!



コメントを投稿