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「小池知事はパラ学校観戦を強要してはいけない」と専門家 江東区など直前取り止め
東京都江東区と江戸川区はパラリンピック開会式当日の24日、東京パラリンピックの観戦機会を児童生徒に提供する「学校連携観戦プログラム」への参加をそれぞれ中止を発表。いずれも新型コロナウイルスの感染が拡大しているためとしている。
厚生労働省のまとめなどによると、新規陽性者全体に占める10代以下の割合は、7月12~18日に14.7%だったが、8月2~8日には17.1%に増加。1カ月ごとの数字も3月以降、増加が続いており、7月には過去最高の14.8%となった。
江東区では25日の競技開始初日から競泳会場に出向く予定の中学校もあり、まさに直前の判断となった。山崎孝明区長は「感染拡大防止と子どもたちの命を守るため、学校連携観戦の参加を中止とした」とのコメントを出した。
それでも完全に中止とはなっていない学校連携観戦プログラムに関して、教育研究家で、各地の教育委員会・学校のアドバイザーを務める妹尾昌俊さんに話を聞いた。
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――江東区、江戸川区は開会式当日に中止を判断しましたが
いろんな考えがあるとは思いますが、わざわざ感染爆発の時に児童生徒をパラリンピックに連れて行くのかということを疑問視されている方は多いと思います。僕も現地で競技を観戦することの教育的意義を否定しているのではありませんが、だからと言って、子どもたちに感染リスクの高い、いまの時期に行かせようとするのは理解に苦しみます。コロナでなくても、途中で高熱が出たり、熱中症の症状が出たりしたら、医療現場のお世話になりますから、医療体制のひっ迫にも影響があるかもしれません。特に首都圏では医療現場の受け入れ先がないことが問題になっている中で、そこまで危険を承知で観戦に行かせることには否定的です。
江東区と江戸川区は直前で中止の判断をしましたが、自治体によって考えは様々で、パラ学校観戦に賛同されている方は、そこまで騒ぐほどのリスクはないと考えられているのかもしれません。例えば、修学旅行だって、交通事故やトラブルに遭うというリスクも考えられますし、海遊びをする修学旅行では実際に死亡事故が起きています。どんな教育活動においても、リスクをゼロにすることはできません。リスクはもちろん低い方がいいですが。そもそも、コロナ禍で学校を開けることだってリスクはゼロではありません。
小池都知事はより一層の安全対策をして観戦と言うが
――小池都知事は“保護者に安心してもらうために、より一層の安全対策をする”としていますが?
安心安全と言っても、リスクはゼロにはなりません。コロナ感染者が増えている中で、相当高いかもしれないリスクを“安心安全”という言葉で装飾したって、「本当にそうなの?」って疑問を持たれるのは当然です。コロナ以外のリスクもあります。まだまだ暑いので熱中症の心配もありますし、集団で移動すると「〇〇さんがいません」といったトラブルも想定されます。児童生徒にPCR検査をするといっても潜伏期間だったら検査に引っかかるのか……言い出すとキリがないですよね。
僕は感染の専門家ではないので、感染リスクが高いのか低いのかは評価できませんが、感染症の専門の先生の中にはリスクが高いとおっしゃっている方もいるわけです。それを考えると、そこは重く受け止めるべきで、楽観視はできないと思います。
――リスクがあっても観戦に行く教育的意義とは?
学校観戦をこのまま強行したとしても、本人の希望や保護者の判断で休む子もいます。そうなると、限られた子たちだけが観戦して、どこまで教育的意義なり効果は高いのでしょうか?しかも、引率の先生たちも子どもたちもかなり不安な中行くわけですからね。
テレビやネットで観戦できるものは観戦すればいい。パラリンピック観戦の教育的意義をそれ程強調されるのであれば、パラリンピックの選手たちと学校がもっとつながって、コロナの感染が落ち着いた頃に講演会や出張授業をやってもらったりすればいい。知事や教育委員会、大会組織委員会はそういうことのほうに汗をかいてもらいたいです。オンラインでつないで、子どもたちと対話する機会を設けたりするのもいいと思います。
もちろん、現地で観戦するのに代えがたいものはあるのは理解しています。とはいえ、障害を乗り越えて活躍をした人たちを見て、共生社会の在り方やさまざま人たちが挑戦し続けていることを考えるという意味では、今挙げたような代替案でも学ぶことはできるわけです。そう考えると、学校観戦それしかないというわけではない。そこまで無理して行かなくてもいいんじゃない!? が、僕の率直な意見ですね。
パラで感動するかしないかは子ども次第
しかも、学校によっては、以前からパラリンピックについて学習していたわけでもなく、全く知らない競技を観戦することになる児童生徒もいます。果たしてそれで深い学びになるのでしょうか? 「感動するから」とも言われるかもしれませんが、感動するかしないかは子どもたち自身が決める話。実際は感動する子もいるでしょうけど……、押し付けられるものではない。今回の学校観戦はリスクと教育上の意義と効果を考えた時に、いろいろ疑問符がついてしまう。
――学校観戦が始まってしまいますが……。
実施するなら、さまざまなリスクを想定して配慮した上で、教育上の効果や意義が得られる形で、リスクを減らして実施するのが、教育現場の普通の考え方です。今回は教育上の意義、効果の上でも、子どもの健康や医療体制の安全リスクの点でも、様々な疑問があるまま、見切り発車しています。なぜそこまで学校観戦にこだわるのか? 僕はよく理解できません。
学校観戦は誰も強制できないはずなんですよね。学徒動員なのではないかという批判をされる方を見受けますが、実際、強制的に子どもをどこかへ連れて行くということはどんな法律においてもできない。知事に“観戦に来い”と命じる権限はないし、学校行事ですので校長の考えにおいて実施するかしないかの話。校長先生には本当に観戦するのか、最後の最後まで問い直して欲しい。あとは、各ご家庭で判断いただく。保護者が観戦に反対しているのに強制的に子どもを連れて行くというのもあり得ないですから。
パラ観戦に子どもたちが出かけることが“不要不急”かの判断が問われる。
妹尾昌俊
教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表。5人子育て中。ライフワークは、元気な学校を日本中に増やすために、優れた実践や真の課題を分析、翻訳すること。著書『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学』、『学校をおもしろくする思考法』等。
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