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生活保護を「ナマポ」発言、コロナ感染で即入院、 「生い立ちを売り物にしてる」とディスり…引退を表明した石原伸晃(68)の政治家人生

■「政界を動かしているのは石原伸晃である」という説
石原伸晃氏が政界引退を表明。都議選の翌日に流れてきたニュースだ。
私は以前から「政界を動かしているのは石原伸晃である。ただし本人の知らないところで」という説を唱えてきた。

例を挙げる。まず2012年の自民党総裁選。当初、本命とも言われていたのは石原伸晃氏だった。ところが失言などで失速。安倍晋三氏が予想を覆して2度目の総裁になった。第二次安倍政権は長期になったので「安倍一強を生んだのは伸晃」と言ってもよい。
さらに同年の衆院選では東京都知事だった父親の石原慎太郎氏が国政復帰をした。伸晃氏がピリッとしないから父親がまた国政に出てきたように見えた。政界に第三極の波が起きた。さらに俳優の山本太郎氏が伸晃氏の東京8区から出馬。1年後に山本氏は政界入りし、現在はれいわ新選組の党首である。なんという伸晃氏の政界再編力だろう。本人の知らないところで。
圧巻は2016年の東京都知事選だ。小池百合子氏が立候補して保守分裂。小池氏は自民党東京都連にケンカを売ってブームを起こした。当時の都連会長は伸晃氏。またしても本人の意思とは関係なく政局のかませ犬となった。
2021年の衆院選でも大きな動きがあった。伸晃氏の東京8区は野党共闘を巡り一気に注目選挙区になってしまったのだ。伸晃氏は落選。また政界を動かした。本人の意思とは関係なく。
驚くのはこの後だ。伸晃氏は東京8区ではなく2025年の参院選へのくら替え出馬を目指す考えを表明したのだ。当時の読売新聞オンラインの見出しを見てみよう。
『石原伸晃氏の参院くら替え方針、自民関係者「敵前逃亡とみられても仕方ない」』(2023年6月28日)
敵前逃亡って! 伸晃先生に対して失礼じゃないか!
記事では「石原氏が地盤にしてきた杉並区では、自民党勢力の衰退が続いており」と解説され、伸晃氏に投票してきたという男性は「参院に挑戦というのは、杉並が見捨てられた感じがする。もう一度挑戦してもらいたかった」。
では参院選出馬作戦はうまくいったのか? しかし伸晃氏の名前は出てこず。今年の4月、Xでこんなポストをしている。
■名前が飛び交うのを見て「困惑」する伸晃氏
「昨日、自民党東京都連 参議院議員候補者選考委員会に出席をしました。 報道では既にお名前が出ているようですが、私には都連会長はじめ事務局からも、未だ何の連絡もありません。困惑しております。」(2025年4月12日)
自分ではない名前が飛び交うのを見て「困惑」する伸晃先生。ただ、本人以外は誰も困惑していなかったことを補足しておきたい。
さて今回、政治家・石原伸晃のラスト演説を見ることができたので報告したい。都議選が告示された6月13日に伸晃氏は小宮安里氏の応援に駆け付けた。小宮氏は伸晃氏の元秘書なのだ。伸晃氏は叫んだ。

「悪いことはしていない。どんなに厳しかろうが、世間の風当たりが強かろうが、小宮安里は勝つ!」
小宮氏は都議会自民党の裏金問題で自民党非公認となっていた。応援に力が入るのはわかるがマイナスなことばかり並べているのが気になった。面白かったのは他の演説者が小宮氏について「世襲でもないし、お金持ちでもない、有名人でもない!」と力説していたことだ。これってぜんぶ石原伸晃のことじゃないか。必死な選挙戦では身内からもつい本音が出てしまうのだろうか。これには後ろで聞いていた伸晃氏も苦笑いしていた。
■「生い立ちを売り物にしてる」と誰かをディスっていたが…
伸晃氏の応援演説は選挙戦最終日も見ることができた。
「今回ね、(小宮さんは)大変厳しい。自民党がね、ちょっとだらしないからね。いいよ~、外にいると。ホントのこと言えるから」
昔の自分のポスターを見たら眉間に3本しわが入っていたが、最近はしわが無くなったことをご機嫌に語りだした。かなりリラックスした演説だった(今にして思えばもう選挙に関係なくなったからかも)。
続いて17名が立候補した杉並区について触れ、
「見てるとね、自分の生い立ちのこととか、それを売り物にしてる人とか、ここがブームだから乗っかって議員になろうかみたいなね、そんな人がたくさん出てるからこういうわけのわからないことになっているんだと思います」
しみじみした。「生い立ちを売り物にしてる」と誰かをディスっていたが、石原軍団をバックに選挙戦をしていた伸晃氏の姿が走馬灯のように浮かんだ。
■「外から政治を見ていこうと決めた」と政治家引退表明
小宮氏は落選したが最後の1議席を争った相手は国崎隆志氏だった。国崎氏も伸晃氏の秘書を務めた人物だ。ちなみに小宮氏も国崎氏もSNSでは演説場所の事前告知をほぼしていなかった。伸晃氏も2021年の衆院選ではステルス選挙をしていたので二人とも「師匠」に似たのだろうか。
伸晃氏の最終日の演説に話を戻すと、トップバッターで応援演説を終えた伸晃氏は会場を後にした。初日は最後までいたが今回は一段と早い。なかなか会えない伸晃氏に話を聞きたいと思った私たちは伸晃氏を追った。姿を見つけると、伸晃氏は赤信号で横断歩道を渡っており、待たせてあった車に乗り込んだ。速い! 次の応援演説だろうか? その背中は自民関係者が言った「敵前逃亡」という言葉とオーバーラップしてしまった(失礼)。

この2日後に伸晃氏は政治家引退表明をテレビ番組でする。「まだ元気なので国を思う気持ちは変わらない。憂える事態が、イランとアメリカの話みたいにたくさんある。こういうことに対して意見を述べていこうと」と、「外から政治を見ていこうと決めた」と述べた。
今後はコメンテーターとして露出するのかもしれないが、それならまず聞いてみたいのは「生活保護引き下げ、違法」と 最高裁が判決を下したことだ。国が2013~15年に生活保護費を大幅に引き下げたのは違法だとした。引き下げ前の2011~12年ごろ、生活保護制度や利用者を狙った「生活保護バッシング」が過熱した。
石原伸晃氏は2012年の自民党総裁選に出馬中、「報道ステーション」で生活保護のことを「ナマポ」というネットスラングを使って語った。あれも生活保護に対するバッシングを高めた一因ではなかったか? 2021年には伸晃氏はコロナに感染するとすぐに入院でき、リアルな格差を見せつけたことも話題になった。格差社会と言われる中で「コメンテーター石原伸晃」にはそんなことも聞いてみたい。
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文春オンラインで好評連載のプチ鹿島さんの政治コラムが一冊の本になりました。タイトルは『お笑い公文書2025 裏ガネ地獄変 プチ鹿島政治コラム集2』。


1970年生まれ。長野県出身。
時事ネタと見立てを得意とする芸風で、新聞、雑誌などにコラムを多数寄稿。TBSラジオ『東京ポッド許可局』『荒川強啓 デイ・キャッチ!』出演ほか、『教養としてのプロレス』(双葉文庫)、『芸人式 新聞の読み方』(幻冬舎文庫)などの著書がある。
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