諏訪山岳会公式ブログ

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大天狗の登攀

2018年08月16日 | 八ヶ岳 マイナールート
ルート:八ヶ岳 大天狗正面壁のつもりが隣の岩稜
日時:8月4・5日(土日)
メンバー:N原、O石、U山

7月に2回の偵察を行った大天狗正面壁に行ってきました。が、神奈川ルートに取り付いたつもりが、ルートを外して大天狗手前の岩峰に抜け出てしまい、結果として通算4回目の偵察になってしまいました。とはいうものの、未知の岩稜に冒険心を掻き立てられた楽しい登攀でもありました。


<ツルネ東稜からの大天狗>
4日 晴れのち一時雨

ほとんど情報がない登攀への不安からいつもの倍近くに増えた登攀具とキレット小屋の水枯れに備えての+4リットルの水で膨らんだザックを背負って美しの森駐車場を出発。
アプローチはツルネ東稜を登る。これまでの3回の偵察では都度アプローチを変えて比べてみたのだが、結局この尾根が一番無難という結論に落ち着いた。

2200m付近から沢を挟んで大天狗が真正面によく見えてTOPO(本文末に掲載)とじっくり見比べる。昨年の初回の偵察はやはりツルネ東稜から行ったのだが、この時はガスに阻まれ今回のような観察ができなかった。その時、今回並みに観察ができていれれば、その後の大天狗行はもっとはかどっていたかもしれない。
いろいろ子細に岩の構造を眺めるうちに、大天狗の右の岩峰付近から左に落ちるように見える岩稜(下図矢印)がそうではないかという話になった。


<これが神奈川ルート???>

この岩稜、パッと見ると明らかに大天狗ピークから外れているが、神奈川ルートのラインの特徴と考えていたいくつかの点と合致し、また、肉眼では上部の岩の奥行方向の構成が分かりにくかったことも手伝ってこの時点ではそうに違いないと判断するに至った。そして岩稜までのアプローチとなる天狗沢の下りラインも大よその見当がついて、ようやく登れそうな気になってきた。

その先しばらく重荷の急登にしごかれて同行の二人にはるかに後れを取ってしまったがなんとか10時過ぎに稜線着、11時過ぎにはキレット小屋にテントを設営することができた。


<ツルネと周辺のコマクサ>

テント設営後、取り付き確認に向かう。昨年の偵察時と同じくキレット下り口の梯子付近から天狗沢上部の急な草付きを下ったが、N原さん、O石さんともに、かなり怖かったそうで下りのペースが大幅にスローダウンしてしまった。


<天狗沢上部の下降>

明日の朝もこんな調子だとかなり時間をロスしてしまいそうで困ったなと思っていたら、N原さんが先々週詰め上がった天狗尾根に上がる沢筋付近を探りに行って、安心して上り下りできるいいラインを見つけてくれた。自分は内心、どこを下っても急なセクションは避けられないと思っていたので、多少の恐ろしさには目をつぶっていたのだが、この発見でそのプレッシャーも大きくやわらいで大収穫となった。

その後、大天狗を見上げるところまで下ったところで、大粒の雨が降ってきたので偵察を中止し、N原さんが見つけたラインをたどって今度は天狗尾根に上がり、そこから一般路に合流してテントに戻った。

テント設営時は我々だけだったテン場もこの頃にはすっかり埋まっていて、やはりこのテン場は早い時間の到着が欠かせない。
まだ時間も早かったので、昼寝を挟んでゆっくり飲み食いし、明日に備えて早めに就寝する。

美しの森駐車場 5:00 ~ツルネ東稜 7:30 ~稜線 10:30 ~キレット小屋テント設営 11:00 ~偵察 11:30 ~帰幕 14:30


5日 晴れ

この日は暗いうちにテントを出発して、天狗尾根への下り口で日の出を迎えた。甲府方面は一面の雲海で見事な光景である。


<天狗尾根下り口から甲府方面を望む>

昨日のラインに沿って急傾斜部を下り、ツルネ東稜から観察した通りに左に見える岩稜が尽きる辺りで左に向けてトラバースを開始。


<天狗尾根から天狗沢への下り。下に見える岩塔の右を下る>

<天狗沢の下降>

運がいいことに、トラバースラインにはここを通ってくださいといわんばかりの明瞭な獣道がついていて、懸念していた藪漕ぎをすることなくスムーズに目標としていた岩稜に到着することができた。

が、下から見上げる岩稜に残置物は一切見当たらず、どこが取り付きなのか判然としなかったが、岩稜の右は草付きになっていてロープなしでも上がれるので、スピード最優先で奥に見えるバンド(第一バンド)目指して、草付きをどんどん上がる。
この時点では、神奈川ルートの下部岩稜は、簡単なマルチに出てくるような”無理をして登らなくてもよい”ピッチなのかなとも思ったりもした。

 
<第一バンド>

第一バンドから上にはいかにも八ヶ岳といった溶岩を固めたような壁が立ちはだかり、いよいよ登攀開始。

1P目 Ⅲ 漏斗状の凹状部 ~草付き ~リッジ 45m

壁の中央付近の傾斜が緩い漏斗状の凹状部から取付く。


<1P目 取り付き>

一段上がったところは緻密な岩でなんとか見つけたリスにナイフブレード#1を叩き込む。その上で、草付きに移る箇所にもろそうな岩があり、チェックをしてしっかりしていそうだったので持つ場所を変えて体を上げようとしたら、岩の表面の30cm□×厚さ5cmぐらいが見事に剥離してビレイをする二人めがけて落下。幸い、二人の直撃は免れたがさすが八ヶ岳の岩は油断ならない。

少しラインを変えて草付きに上がり、左上方に向けてカンテを目指す。


<カンテ目指して左上>

しばらくすると、草付きの中に割としっかりした岩が現れ、カムでランニングが取れるようになって一安心。ふと目を上にやると、浅いリスに首を曲げて打たれた残置ハーケンがあって、ルートに乗っていることを確認できた(つもりになった)が、これがこの日見かけた唯一の残置物であった。その先、岩に沿って左上を続け45mでカンテラインに出たところで小ぶりのピナクルにビレイをとってピッチを切る。


         <1P目終了点>


2P目 Ⅲ~Ⅳ 岩稜 40m

2P目は目の前に続くすっきりした岩稜を辿る。岩稜を構成する段々を一段一段乗り越えていくという感じ。岩は八ヶ岳としてはしっかりしていて快適。ピナクルへのスリングのタイオフやカムでランニングを取る。背後にはいつもの八ヶ岳とは違った風景が広がってとても新鮮。ロープを40mほど伸ばしたところの一抱えはありそうな大きなピナクルでピッチを切る。




<2P目>

3P目 Ⅲ~Ⅳ 岩稜 40m

3P目も2P目同様、岩稜を辿る。見た感じ、2P目と似たよう内容に見えたのでトップをN原さんに交代。岩稜左手のチムニー状からリッジに出てそのままリッジを辿るが上部は一部もろい。このピッチもプロテクションはピナクルとカムで取れる。


<3P目>

リッジを抜けた所から岩稜ピークの下をトラバースし、第2バンドに出てビレイ・・・のつもりだったのだが・・・
フォローしてリッジを抜けたところから目にしたN原、O石ペアの居場所は、まさかの天狗尾根縦走路。ということは、大天狗のピーク手前で縦走路に出てしまったわけで・・・。どうやら、神奈川ルートどころではなく、大天狗の隣の岩稜を登ってしまったというのが真相のようです。(登ったラインは本文末)


<3P目終了点 → 天狗尾根縦走路>

まあ、それが分かったところでいまさらやり直しというわけにもいかないので、気持ちを切り替えて登攀継続。いったんロープを畳んで7月に登ったばかりの大天狗直登ルートの取付きまで歩き、そこからO石さんリードで大天狗ピークまで登って登攀終了。


<ロープを畳んで大天狗直登ルートまで移動>


<大天狗直登ルート>

今回の登攀を振り返ると、ルートを外してしまったのは残念だったけど、間違って登った岩稜も冒険的な内容があってとても楽しめたねというのが我々の偽らざる感想。
整備された快適なルートもいいけれど、こういった未整備の情報が少ないルートをその場その場の判断で切り抜けて登っていくことにもまた違った楽しさがあります(そういった山登りってがっかりすることの方がはるかに多いことも承知していますが・・・)。

大天狗ピークを後に、キレット小屋に戻ってテントを撤収し、往路を下って明るいうちに美しの森に下山。


<下降路から望む大天狗>

神奈川ルートについては、またしても先送りになってしまったけれど、今回の”偵察”で、ラインのありそうな場所をかなり絞り込むことができたので次回はきちんとトレースをして一区切りつけたいものです。が、今シーズンはスケジュールが詰まってしまっているので、また来シーズンに持ち越しかな。。。

テン場 4:00 ~ 天狗尾根下降 5:00 ~ 岩稜下部 6:00 ~ 第一バンド 6:20 ~ 取り付き 7:00 ~ 天狗尾根縦走路 9:20 ~ 大天狗 10:00 ~ テン場 11:00 ~ 美しの森駐車場 17:00




<大天狗正面壁神奈川ルート>



<今回の登攀ルート>




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