セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

短期間代用教員

2011年02月26日 00時57分04秒 | クエスト184以降
 冒険を終えて帰ってきたある日の夜。パーティーに加わっていたリッカが、普段着に着替える前に、装備品袋から何かを取り出し、しげしげと見つめていた。
「リッカ、どうしたの?」
 気になってミミが覗き込むと、リッカが見ていたのはエルシオンブレザーとスカートだった。
「あ・・・あのね」リッカはしみじみした顔で呟いた。「考えてみたら私、学校ってとこに行ったことなかったなあ、って思ったの」
(そうか、リッカは小さい頃は体弱かったし、大きくなってからは、ずっと宿屋のお手伝いしてきたんだものね・・・)
 ミミは少し考えてから、にっこり笑って言った。
「じゃあ、学生気分だけでもどう?リッカ」

 数日後。ミミとリッカは、エルシオン学院の制服姿で、エルシオン校内を歩いていた。リッカも冒険に付き合って何度か訪れたことはあったけれど、授業見学までさせてもらったのは初めてだった。
 目をきらきらさせて、嬉しそうなリッカに、ミミも嬉しくなった。
(そうだよね、ほんとならリッカ、この学校に通っててもおかしくない歳だものね・・・)
 宿屋ゲストのトロデ王も言ってたっけ。リッカはうちのミーティアより幼いのに頑張ってて偉い、って。
 学院内ですっかり有名人なミミが、あまり見馴れない可愛い女子生徒を連れているので、あちこちで注目の的となっていた。
「私、けっこう何回も来てるのに」リッカが笑う。
「制服姿だと、けっこう違って見えるみたい」とミミ。ニードがこの様子見たらヤキモチ妬いちゃいそう、と内心呟き、笑いを堪える。
 途中からモザイオもはりきって校内案内に加わり、それから学食でおいしい夕食を食べて、楽しい一日は過ぎた。
「今日は楽しかったなあ。ミミ、ありがとう」
 デザートの雪だるま形の可愛いスフレを食べながら、リッカが楽しそうな方の溜息をついて、呟いた。
 すると、隣のテーブルから、こちらは困惑の溜息が聞こえてきた。二人が思わずそっちを見ると、棍の教師クレイブが、デザートに手を付けないまま溜息をついていた。
「あ、クレイブ先生。どうしたんですか?」
 ミミが尋ねると、クレイブは顔を上げて、彼女に気が付いた。
「ああ、君か。・・・実はね、リリアンの墓参りに、ガザールと一緒に行きたいと思っていたんだけど。
ほら、例の生徒行方不明事件の時に、教師が大部分出かけてしまったことで余計たいへんだっただろう?君が解決してくれたんだったよね。
それで懲りた校長がね、複数の教師が休暇を希望する際は、必ず代用教員を探してから出かけるよう決まりを作ったのさ。
ところがなかなかいい人が居なくてね。二人も代わりを調達は難しくて。剣と棍両方の使い手が居れば一番いいけど、そんな人を探すのは更にたいへんだし」
 できれば二人一緒に行ってやりたかったけど、ムリかなあ。クレイブの溜息が更に大きくなる。すると、リッカがにこにこして言った。
「クレイブさん、誰か忘れてない?ここに居るミミは、剣も棍も究めているのよ」
 それを聞いて彼はああ、と頷いた。
「ミミ、確かに君も素晴らしい剣と棍の使い手だけど・・・でも、生徒たちにとって君は、先生というより仲間ってイメージが強そうだからねえ。どうかな・・・」
 確かに先生として教えるのは苦労するかも。マリア先生も、それで苦労してたし。と、ミミも腕を組んで考え込む。
「だったら私、他にもとっても先生に相応しい人、知ってるわ!私と入れ代わりに来てもらうね!」
 リッカは顔を輝かせてそう言うと、ミミたちがそれが誰かと尋ねる前に、行ってしまった。

 それからしばらくしてエルシオン学院の食堂に現れたのは。
「リッカから事情は聞いた。私で良ければ力になりたい」
 現在職業バトルマスターだが、全ての職業で棍も装備できる、イザヤールだった。
「イザヤール様!・・・クレイブ先生、イザヤール様なら条件ぴったりですよ!」
 その後しばらく相談して、君の元師匠なら間違いないね、とクレイブも納得し、ミミは・・・正確にはイザヤールは、クエスト「短期間代用教員」を引き受けた!

 こうして、翌日からイザヤールは学院の剣と棍の授業を担当することになった。やはりもう剣も棍も究めているミミだが、イザヤールの授業風景を見たくて、生徒としてうきうきと授業に参加した。
 まずは剣の授業。慣れたバトルマスター装備で授業に臨むイザヤール。新しい教師に、生徒たちは緊張とわくわく感が入り交じった顔を向けている。
 穏やかな声で的確に指導するイザヤール。生徒たちは、穏やかな中にも威厳を感じているのか、熱心についていっている。そんな姿に、あの頃、まだ見習い天使だった頃を思い出して、懐かしさでミミの胸は疼いた。
 間もなく、校内は「ガザール先生とクレイブ先生の代わりの先生」の話題でもちきりとなった。剣も棍も鮮やかに振るう、堅物そうだが男前な「イザヤール先生」は、単調な学院生活には格好の刺激となったのだ。
 剣術や武術を志す生徒たちはイザヤールを尊敬と憧れの眼差しで見つめ、クールな男性に目がない女子生徒たちの視線もちらほら集まり始めている。ミミはイザヤールが教師としてうまく受け入れられたのは嬉しかったが、彼が可愛い女子生徒たちにも注目されていることに、ちょっぴり複雑な気分だった。

 自主訓練や課外活動の時間も終わって、ようやくイザヤールの手が空く頃には、もう夜になっていた。ミミはすぐに職員室から彼を引っ張り出した。
「イザヤール様、一緒に晩御飯食べませんか・・・それとも・・・先生方とお約束が・・・?」
 潤んだ瞳でおずおずと見上げる制服姿のミミに、イザヤールはかすかに戸惑いの表情を浮かべた。少し眉をひそめ、彼は答えた。
「約束はない。・・・ミミ、食事を終えたら、少し出かけようか」
 彼の言葉に、ミミは花がほころぶような微笑みで頷いた。
「それから」イザヤールの表情が、からかうようなものに変わった。「学院内ではイザヤール先生と呼びなさい」
「はい、イザヤール先生」
 ミミが笑顔で答えると、彼はくすぐったそうな顔で笑った。
 学食で食事の間にも、たくさんの生徒がミミにもイザヤールにも話しかけてきたが、そしてもちろんその中にはイザヤールにアプローチしたいらしい女子生徒もちらほら混じっていたが、彼女にはもうそれは苦にならなかった。この後イザヤールと二人で、出かけられるのだから。

 食事を終えて出かける前に、イザヤールはミミに言った。
「出かける前に、制服から着替えてきてくれ」
「え?この格好、案外寒くないですよ?」
「いいから」
 首を傾げながらも素直に寮でミミは着替えてきた。ゆったり長い暖かい生地のワンピースに着替えてくると、彼は微笑んだ。
「その方がいい。さあ、行こうか」
 イザヤールも暖かそうなマントに身を包み、ターバンで頭を覆っている。学院の門を出るとすぐに、彼はマントを広げてミミをくるんだ。
 イザヤールのぬくもりにくるまれ、ミミは幸せそうに肩に回された彼の手を自分の手で握りしめる。それでも、少し悲しそうに彼女は尋ねた。
「エルシオンの制服・・・私には似合わないですか?」
「いや、とても可愛い」
「じゃあどうして着替えてきてくれと?」
「それは」雪を踏みしめながら、イザヤールは少しうつむいて答える。「・・・あの頃の背徳感を、思い出してしまってな」
「背徳感?」
「師と弟子だった頃の・・・な。弟子に、有ってはならない想いを抱いていた、あの頃の」
「え・・・」
「教師は、教え子にこんなことをしてはならないだろう?」
 そう囁いて、彼は立ち止まり、軽くミミの唇に自分のそれで触れた。
「ん・・・」
 濃い紫の瞳を更に濃く潤ませ、ミミは頬を染めてイザヤールの瞳を見つめた。
「あの頃から、天使だった頃からこうしたかったと・・・。制服姿のおまえに触れたら、そんなあの時の感情を思い出してしまいそうで・・・だがあのとき制御できていた感情が、今は止められる自信はない・・・」
 呟いた彼の切ない表情が、ふっと緩み、続けて言った言葉は、冗談めかしたものになった。
「まあ、私なりのけじめ、かな。制服姿にも平気で手を出してしまったら、当然学院内でも出すだろうからな。エルシオン卿が激怒するし、教育上よろしくないだろう?」
 そう言って唇の端を軽く上げたイザヤールに、ミミは、わざと頬を膨らませてみせて、囁いた。
「もう。イザヤール様って、真面目なのか不真面目なのかわからないですっ」
 雪だるまを見たら帰ろうか、そう言ってイザヤールは笑い、ミミも膨れるのをやめて微笑んで、更に恋人に身を寄せた。

 そんな風にして、いろいろあったものの順調に一週間ほど経ち、クレイブとガザールは無事学院に戻ってきた。
「ありがとう、君たちのおかげでガザールと一緒にゆっくり墓参りができたよ。・・・これは、僕たちからの土産」
 クレイブは「オリハルこん」をくれた!
 君の授業は評判いいから、また頼むよ。そんなクレイブの言葉と、また来てねという生徒たちの言葉を何よりの土産にして、イザヤールとミミは学院を後にした。
「教師生活は如何でした、イザヤール先生?」
 ミミがいたずらっぽい顔で言うと、イザヤールは苦笑した。
「ここは、もう学院じゃないぞ」
 だから。そう囁くとイザヤールはミミに顔を上げさせ、学院生活の感想を言う前に、彼女の唇に優しいキスを落とした。〈了〉

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