ここは天の箱船一両目。今日はミミたちが箱船を使っていないので、運転士アギロとアルバイトサンディは、なんとなくヒマそうにしていた。
「サンディ、今日はミミに付いてなくていいのかい?」あくびをしながらアギロが言った。
「テンチョー、ヤボなコト言わないの!」サンディがチョコレートをもぐもぐしながら答えた。「あの二人なら、さっき仲良くチューボーでクッキングしてたわヨ。ジャマしちゃいけないと思ってアタシはわざわざここに来てんじゃナイ」
「チューボー?・・・ああ、厨房のことか」
そのチョコレートは、おそらくその際についでにちょいと頂いてきたものなのだろう。
「そーいやさー」二枚目のチョコレートに手を伸ばし、サンディは言った。「テンチョーって、もうずーっとお休み取ってないよねー。・・・アタシがちゃんとやるからさー、たまには休んで里帰りでもしたらー?」
「休暇ねえ・・・」
そういや何百年も里帰りしてねえな、アギロは思った。
「そうだな、たまには顔出してやるか。ミミも免許取ったことだし、安心して任せられるしな」
「・・・アタシには任せる気ないんかい」
そこへちょうど、「リッカの服」の上に「メイド服」のエプロン部分を着用のそのミミが入ってきた。家事一般にはこの装備がちょうどいいのだ。
「サンディー、アギロさん、ガトーショコラ焼いたの。一緒にお茶でもどう?」
彼女の持つシルバートレイの上には、おいしそうなケーキとティーセットが載っている。そしてもちろん、イザヤールも一緒に居て、まだ湯気が盛大に出ているケトルを持っていた。彼の方は、白いシャツに、天使界時代からの愛用品のズボンとブーツという、ごくシンプルな服装だ。二人とも、あきらかに冒険お休みモードの装備だった。
「食べる食べるー!」
「ずいぶんこ洒落たモンだな~」
和気あいあいとティータイムが済むと、アギロがにわかに改まって言った。
「ミミ、オレは二、三日出かけてくっから、その間箱船のこと頼んだぜ」
こうしてミミは、クエスト「テンチョーにお休みを」を引き受けることになったのだった。
「じゃ、行ってくる」
そう言うとアギロは、三両目の方へ向かって歩いていった。
「あー!テンチョー!おーちゃくしてアタシの部屋から行くつもりッ?!ちょっとー、オトメの部屋に勝手に入んなー!」
アギロが行ってしまうと、ミミは軽く首をかしげて言った。
「でも、私、具体的に何をしてればいいの?お掃除とか?」
「機関部の手入れとか?」これはイザヤール。
すると、サンディが得意そうにニヤリと笑った。
「やっぱりセンパイサンディ様がいろいろ教えてあげないとダメよねー☆いーい?トクベツに教えてあげるから、ちゃんとゆーコト聞くのヨ?」
ミミは素直にこっくり頷いたが、イザヤールは「事と次第によるな」と内心呟いた。
「基本、好きほーだい運転するか、じっと滞空してゴロゴロしてればヨシッ!」
「ええ?そうなの?」
「ただし~・・・」
「ただし?」
「運転する際は、必ず『スウィッチ・オンヌ!』と言うコト!」
「前から思ってたんだけど・・・それって必要?」
「そーヨ!重要!」
「・・・私は断固拒否する」
一方その頃、何処だかわからない、但し雲が足下にあることで、天空であるということだけは間違いない場所で、光輝く巨大な竜たちが集まっていた。
「久しぶりだな」
金色に輝く竜が言う。
「やっぱりこの姿の方が落ち着くねェ。・・・おっと、おまえさんは人に化けてる時の方が楽しいんじゃねえかい?けっこうはっちゃけてるって聞いてるぜ」
聖竜アギロゴスがからかうように言うと、金色の竜は苦笑した。
「確かに、『神』として威厳を保つのはなかなか疲れるからな。たまには・・・いいかと」
「たまに、じゃねえだろ!何百年も天空城に帰ってねえって聞いてるぜ」
「いや~、楽しくてついね~」
「・・・そんな風な感じなのかい。・・・ところで、そっちはどうだい」
話をふられた白銀の竜が、楽しそうに伸びをして答えた。
「我が一族の里は、おかげさまで平穏だ。・・・まさか、竜族の血を引く人間に世界を救われるとは思わなかった」
「神も予測できない奇跡を起こすのが人間のすごいところだな・・・だから・・・面白いと思う」
「違えねえ」
竜たちの楽しそうな笑い声が、碧空に吸い込まれていく。〈了〉
「サンディ、今日はミミに付いてなくていいのかい?」あくびをしながらアギロが言った。
「テンチョー、ヤボなコト言わないの!」サンディがチョコレートをもぐもぐしながら答えた。「あの二人なら、さっき仲良くチューボーでクッキングしてたわヨ。ジャマしちゃいけないと思ってアタシはわざわざここに来てんじゃナイ」
「チューボー?・・・ああ、厨房のことか」
そのチョコレートは、おそらくその際についでにちょいと頂いてきたものなのだろう。
「そーいやさー」二枚目のチョコレートに手を伸ばし、サンディは言った。「テンチョーって、もうずーっとお休み取ってないよねー。・・・アタシがちゃんとやるからさー、たまには休んで里帰りでもしたらー?」
「休暇ねえ・・・」
そういや何百年も里帰りしてねえな、アギロは思った。
「そうだな、たまには顔出してやるか。ミミも免許取ったことだし、安心して任せられるしな」
「・・・アタシには任せる気ないんかい」
そこへちょうど、「リッカの服」の上に「メイド服」のエプロン部分を着用のそのミミが入ってきた。家事一般にはこの装備がちょうどいいのだ。
「サンディー、アギロさん、ガトーショコラ焼いたの。一緒にお茶でもどう?」
彼女の持つシルバートレイの上には、おいしそうなケーキとティーセットが載っている。そしてもちろん、イザヤールも一緒に居て、まだ湯気が盛大に出ているケトルを持っていた。彼の方は、白いシャツに、天使界時代からの愛用品のズボンとブーツという、ごくシンプルな服装だ。二人とも、あきらかに冒険お休みモードの装備だった。
「食べる食べるー!」
「ずいぶんこ洒落たモンだな~」
和気あいあいとティータイムが済むと、アギロがにわかに改まって言った。
「ミミ、オレは二、三日出かけてくっから、その間箱船のこと頼んだぜ」
こうしてミミは、クエスト「テンチョーにお休みを」を引き受けることになったのだった。
「じゃ、行ってくる」
そう言うとアギロは、三両目の方へ向かって歩いていった。
「あー!テンチョー!おーちゃくしてアタシの部屋から行くつもりッ?!ちょっとー、オトメの部屋に勝手に入んなー!」
アギロが行ってしまうと、ミミは軽く首をかしげて言った。
「でも、私、具体的に何をしてればいいの?お掃除とか?」
「機関部の手入れとか?」これはイザヤール。
すると、サンディが得意そうにニヤリと笑った。
「やっぱりセンパイサンディ様がいろいろ教えてあげないとダメよねー☆いーい?トクベツに教えてあげるから、ちゃんとゆーコト聞くのヨ?」
ミミは素直にこっくり頷いたが、イザヤールは「事と次第によるな」と内心呟いた。
「基本、好きほーだい運転するか、じっと滞空してゴロゴロしてればヨシッ!」
「ええ?そうなの?」
「ただし~・・・」
「ただし?」
「運転する際は、必ず『スウィッチ・オンヌ!』と言うコト!」
「前から思ってたんだけど・・・それって必要?」
「そーヨ!重要!」
「・・・私は断固拒否する」
一方その頃、何処だかわからない、但し雲が足下にあることで、天空であるということだけは間違いない場所で、光輝く巨大な竜たちが集まっていた。
「久しぶりだな」
金色に輝く竜が言う。
「やっぱりこの姿の方が落ち着くねェ。・・・おっと、おまえさんは人に化けてる時の方が楽しいんじゃねえかい?けっこうはっちゃけてるって聞いてるぜ」
聖竜アギロゴスがからかうように言うと、金色の竜は苦笑した。
「確かに、『神』として威厳を保つのはなかなか疲れるからな。たまには・・・いいかと」
「たまに、じゃねえだろ!何百年も天空城に帰ってねえって聞いてるぜ」
「いや~、楽しくてついね~」
「・・・そんな風な感じなのかい。・・・ところで、そっちはどうだい」
話をふられた白銀の竜が、楽しそうに伸びをして答えた。
「我が一族の里は、おかげさまで平穏だ。・・・まさか、竜族の血を引く人間に世界を救われるとは思わなかった」
「神も予測できない奇跡を起こすのが人間のすごいところだな・・・だから・・・面白いと思う」
「違えねえ」
竜たちの楽しそうな笑い声が、碧空に吸い込まれていく。〈了〉
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