セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

毒の沼地クリーニング作戦

2011年02月18日 19時27分59秒 | クエスト184以降
 ルディアノ城のお掃除に行くので、お付き合い頂けませんか。ルディアノの血筋の、セントシュタイン城勤務のメイドに頼まれ、ミミとイザヤールは彼女の護衛にお供することになった。このメイドは護衛などいらないくらい強いのだが、彼女曰く「モンスター追い払う度に掃除が中断されるのがイヤなので」。
「私たちは構わないけど、ボディーガードなら、リューマさんでもよかったんじゃ?」
 ミミが首を傾げて尋ねると、こんな答えが帰ってきた。
「あの人、下心見え見えですから。いまいち頼りないですし」
 メイドさん手厳しい。ミミたちは笑いを堪えた。
 ルディアノ城趾には、ルーラでは行けないので、エラフィタ村から徒歩になる。掃除時間も含め、ひと部屋の掃除だけでも丸々一日がかりになりそうだった。国境を越えると、「ほろびの森」からの瘴気が漂ってくる。
「この万年曇天をどうにかしませんと・・・お洗濯物も乾きませんわね」
 メイドが呟く。太陽のない大地は、汚泥と、それを糧として育った妖しい木々に覆われ、その木々がまた影を作り、地表を沼化させている。
「太陽の石山積みってのはどーよ!」
 サンディの冗談発言に、ちょっと本気で検討するミミ、苦笑するイザヤール。
 ようやくルディアノ城にたどり着き、ミミたちはメリア姫の部屋に向かった。
「比較的傷みの少ないここから徹底的にキレイにして、ここを足掛かりに少しずつお城全体をピカピカにしていきます!」
 気合いを入れて、メイドは腕捲りした。私たちもお手伝いを・・・と申し出たミミとイザヤールに、彼女は少し考えてから、言った。
「そうですね、メリア姫のお部屋の掃除の間は、階段に護符を置いておけば、モンスターは入って来ませんから・・・その間は、お二人には別のことをお願いしようかしら」
 メイドは、大きな袋を取り出し、それをミミに手渡した。中には、「せいすい」と「きよめの水」と「まりょくの土」がたくさん詰まっていた。
「城内の毒の沼地に、『せいすい』と『きよめの水』と『まりょくの土』をたくさん撒いて、徳の高い僧侶が祈りを捧げれば、かなり浄化されるはずです。お願いできますか?」
 ミミは頷き、クエスト「毒の沼地クリーニング作戦」を引き受けた!

 ミミとイザヤールは、さっそく「ダーマのさとり」で僧侶に転職した。そして、とりあえず建物から出た。
「まずは、メルギスさんのお墓の辺りから始めましょうか」
 ベロニカさんが少しでもお墓参りしやすくなるように、とミミは呟く。
「ベロニカさん、どうしてるかな・・・。会えたら、『ルディアノへ帰ろう団』に入らないかってお誘いするのですけれど」
「縁があればまた会えるだろう」
 イザヤールは微笑んで言った。
「この辺りに『ルディアノへ帰ろう団』メンバー募集中!って貼り紙でもしといたら?」
 サンディの提案に、それいいかも、と感心するミミ。そうこうしている間に、メルギスの墓の近くに来た。まずは祈りを捧げる。
(メルギスさん、カマエルは元気ですよ)
 祈りにそう付け加え、ミミはにっこり笑った。
 そして、さっそく作業を開始した。そこの毒の沼地の全体にまんべんなく行き渡るように、せいすいときよめの水とまりょくの土を振り撒き、ミミたちは祈りを捧げた。サンディも神妙な顔をして見ている。
 しばらくして、沼地の表面が泡立ったと思うと、もくもくと怪しげな色の煙が立った。その煙が白く変わり、やがてすっかりなくなると、沼地から毒の気配は抜けていた。
「よーするにフツーの沼地になったワケね~。アタシにもやらしてやらして!」
 サンディが面白そうに言う。
「サンディ、僧侶だったっけ?」
 ミミが笑って言うと、サンディはむくれた。
「あー!サンディちゃんのチカラ、ナメてるデショ!」
 彼女はぷーとふくれたまま別の毒の沼地に移動し、せいすいその他を振り撒いた。近くをふよふよしているホイミスライムが、何事かと不思議そうに見ている。
 サンディが何か呪文を唱えると、毒の沼地は消え失せ、そこは花畑となった。・・・ただし、ド派手な色の。
「わあ・・・サンディすご~い☆」
 ミミが感心すると、サンディはえっへんと胸を張ったが、すぐにへにょへにょと近くの瓦礫に座り込んだ。
「でも・・・コレやるの、すっごく疲れるんですケド!アタシ帰る~」
 そう言って彼女は、「冒険の記録」をイザヤールに押し付け、へろへろと飛んでいってしまった。
「これは残りの記録は私にしろということか?」イザヤールは首を傾げて言った。
「たぶん・・・そうです・・・」
 ミミは答えたが、去り際にサンディが耳元で「お仕事中二人ッキリもいいデショ?」と囁いて行ったので、少し赤くなった。
(・・・サンディったら)
 ここで・・・悲しい恋物語があったこの地で、二人きりを楽しむつもりは、さらさらないのに・・・。

 その後ミミとイザヤールは黙々と作業を続け、中庭の半分程の毒の沼地を浄化したところで、袋は空になった。自分たちの道具袋の方のも使いきった。
「また今度集めてこなくてはな」イザヤールが呟く。
 魔物たちは、浄化された部分を避けるように、そしてまた居心地悪そうに、壊れた石垣の隙間などから見ていた。
「かつては、とても美しいお城だったのでしょうね・・・」
 壊れかけた彫刻、崩れた石壁、そんなかつての名残のものから在りし日の姿を思う。ミミは屈んで、サンディが先ほど作った花畑から、白い百合を選んで、一本折り取った。
「メリア姫に・・・」
 ミミが呟き、花の上に顔を伏せた。そんな彼女に、イザヤールは声をかけなかった。ただ、後ろから彼女の体に腕を回し、限りなく優しく、抱き締めた。
(おまえの悲しみは、共に負う)彼は回した腕にそんな思いを籠めた。
 かつてミミは。翼を失った守護天使だった頃ミミは、ここルディアノの地で、イシュダルという魔物を倒し、永久の呪いを受けていた騎士を、解放したと聞いている。
 話してくれたとき、「妖魔にも哀しみを覚えた私はおかしいですか」と、彼女は尋ねてきた。それに対して、簡単に「おかしいとは思わない」と答えた。・・・おそらく、私が・・・天使のままだったら、ミミのその思いを不思議に思ったかもしれない。人間たちに害を為す魔物に、哀れみを覚えるなど。
 だが、人となり、そして弱さや哀しさに、天使も人間も魔物もないことに気付いてきた私は・・・ミミのその思いを、いくらか共有できる気がしたのだ。共有したいと、思った・・・。
「ミミ・・・」
 長い沈黙の後、イザヤールはひとことそれだけ呟き、腕に力を籠めた。ミミは、回された腕に手を這わせ、やがて大きな温かい手にたどり着くと、きゅっと握りしめて囁いた。
「ありがとう・・・イザヤール様・・・」
 イザヤールは目を見開いた。ミミが、「ありがとう」と言ってくれた。「ありがとうございます」ではなく。その事に、理由がはっきりしないまま歓びを覚え、彼は恋人の髪にキスを落とした。

 メリア姫の部屋に戻ると、ちょうど掃除も終わるところだった。使えそうな調度品はそのまま、取り換えが必要なものは、きちんと一まとめにされている。
「すごく綺麗になったのね・・・。私たちの方は、半分くらい終わったところでアイテムが無くなったの」
 ミミが報告すると、メイドはにっこり笑って答えた。
「焦らず少しずつやっていきましょう。そうすればきっと、いつか・・・あ、そうそう」
 彼女は、エプロンの下から何か取り出した。
「毒の沼地の匂いでたいへんだったでしょう。お風呂に入る時、これを入れてください。いい香りがしますよ」
 ミミは、「いやしそう」と「さとりそう」、そして「エルフののみぐすり」の詰め合わせを受け取った!
 それからミミは部屋を見回して、ふと、卓上の手記がそのままにしてあることに気が付いた。
「メリア姫の手記はそのままにしてくれたの?」
「はい、・・・なんだか、そのままの方がいい気がして」
 彼女の問いにメイドは頷いた。ミミは改めて読んでみた。
『・・・黒バラの騎士よ、私は行きます 遠い異国の地へ・・・。
・・・あなたのことを忘れたのではありません・・・。
・・・ルディアノの血が絶えぬ限り・・・私はあなたを・・・。
・・・いつか・・・・・・。』
「メリア姫が、セントシュタインに向かう前に書かれた手記なのですね」メイドは呟いた。「どんなお気持ちで、これを・・・」
 ミミはそっと手記を閉じた。そして、壁に飾ってある白百合のような姫の肖像画に、手折ってきた花を、そっと飾った。

 帰りはルーラでひと飛びでセントシュタインに戻った。メイドは、ありがとうございました、またよろしくお願いします、と言って、城へ帰って行った。
 ミミとイザヤールは夕食と入浴を済ませ(どちらが先に入るかを譲り合って、少々もめた)、暖炉の側のお気に入りの場所に落ち着いた。・・・お気に入りの場所とは、もちろん・・・クッションの上の、互いの腕の中。
「人間とは、すごいものだな・・・儚い命にもかかわらず、想い人をいつまでも探し続ける強い決意を、死してもなお、決して捨てないのだから・・・」
 イザヤールが呟いた。
「メリア姫は・・・ルディアノを去るとき、既に騎士レオコーンを失っていたのですよね・・・。そしてその後身を寄せたセントシュタインで、故国の滅亡までも知らされた・・・。彼女を生に繋ぎ止めていたのは、ルディアノの血筋を残し、いつか生まれ変わってでも、愛しい人を探し出すことだった・・・」
 ミミは呟いてから、顔をイザヤールのシャツに押し当てた。
「でも、二人は・・・ようやく天国で再会できた・・・ようやく、巡り逢えた」
 ミミは、第一回ルディアノ会合からしばらく後に、ルディアノ城に立ち寄った時のことを思い出していた。メリア姫の部屋には、天国に行った筈の彼女の魂が居て、彼女はこう言ったのだ。レオコーン様からあなたのことは聞いていると。そして、フィオーネ姫のことを責めないでほしいと。
 彼女は、私の・・・。私の・・・そう言い残して、メリア姫の魂は天国へと帰っていった。彼女は私の思いを代わりに果たそうとしてくれただけ。そう言いたかったのかもしれない。だが、ミミはその事より、「レオコーン様から聞いている」という言葉の方に夢中だった。ああ、ようやく逢えたのだと思った。
「強く願っていればいつか愛しい人に逢えると、示してくれた人たちは・・・私にも希望をくれました・・・」
 それが、どんなに儚い希望でも。そう呟いたミミはそれきり口を閉じた。後は、シャツを濡らしていく涙が、言葉の代わりをした。
 イザヤールは、恋人を腕に抱えたまま、黙ってひたすら彼女の髪をなで続けた。回顧の悲しみだけではない、安堵の涙でもあると、わかっていたから。そして、涙が止まった頃を見計らって顔を上げさせ、一見脈絡のない、だがこの場に一番相応しい言葉を囁いた。
「ミミ、愛している・・・」〈了〉

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