セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

石の語る物語〈中編〉

2016年03月12日 20時24分15秒 | クエスト184以降
やはり二回でも終わらなかったのね~の追加クエストもどき。今回中編です。しかも前編のタイトルに〈前編〉って付けるの忘れてましてすみませんでした。前回のあらすじ、カラコタ橋で買った片方だけの不思議なアメジストのピアスに、遥か昔に自分のかつての持ち主だった踊り子の物語を聞いてほしいと頼まれたミミ。アメジストの見た踊り子の生涯とは・・・。イザヤール様、今回出番無しかと思いきや後半からちゃんと登場致しますのでご安心を(笑)

 それがきっかけで、踊り子の少女と若き騎士団の長の青年は、ときどき会っては言葉をかわすようになった。本来なら旅芸人と騎士団長が親しくなることなどめったに起こり得ないことだが、青年が仕える王子が身分にとらわれず町の者たちと親しく過ごすことが多かったので、自然と王子の一番の親友でもある彼もお供で城下町へ出ることが多かったのだ。
「私、何も取り柄が無かったけれど、踊ることは好きだったの。口下手で思ったことをうまく伝えられないで気持ちがモヤモヤしたとき、誰も居ないところでそのときの感情に合わせて踊ると、心が晴れたの。嬉しい気持ちはより嬉しくなったし、寂しさや悲しさは、忘れられたの」
 青年に踊り子になったいきさつを語る少女の言葉に、自らも踊りをよくするミミは、思いきり共感して何度も頷いた。今はアメジストのピアスになっているので頷いたつもり、な状態だが。
「そうか、自らの意志で道を選んだとは、立派だな。私は、代々騎士の家の生まれで、騎士になることは生まれながらに決まっていた・・・。それ以外の道を考えたこともなかった。双子の妹が、かなり好き勝手に行動する質なので、なおさら、な」
「妹さんがいらっしゃるのね。きっと、可愛らしい妹さんなんでしょうね」
「それが全く可愛くない」にべもなくきっぱりと言って青年は苦笑した。「やはり騎士団に入っていてある研究をする班に所属しているが、研究の為と称してあちこちほっつき歩いていてな。困ったものだ」
 やれやれと肩をすくめる青年に、少女は楽しそうに笑った。その笑顔を青年は眩しそうに見つめ、一転して真剣な、静かな口調で呟いた。
「君は、自分が何の取り柄も無いと言ったが、そんな風に思わない方がいい。・・・君はとてもいい子で、綺麗だと・・・私は思うぞ」
 彼の真摯な目は、思ったことを率直に伝えているのだと知らせていた。少女は、さっと頬を染めてからうつむき、小さな声でありがとう、と呟いた。
 その後少女は属していた旅芸人の団を辞めて、この国で宿屋や道具屋などの細々した仕事をしながら街角で踊るようになった。騎士団長の青年は、そんなとき人垣の後ろに立って、そっと少女を見守っていた。少女の踊りが見違えるように人目を引くほど華やかに、いっそう良くなっているのがミミにはわかった。
(きっと、大好きな、愛しい人に、見せるつもりで踊るようになったから・・・)
 だが少女はその想いを青年に打ち明けることはなかった。友達として気さくに接してくれているとはいえ、この国の騎士団長と踊り子では住む世界が違う、そう思っているのだろう。イザヤール様に気性もよく似ているようだから、そんなことを気にするような男性じゃないのに、とミミは思ったが、一方でそう思ってためらってしまう気持ちも理解できた。上級天使だった師匠に恋をしてしまって告げられなかった見習い天使だった自分の、あのときの気持ちと、似ているだろうから・・・。

 また場面が変わって、平和だったこの国に、魔物の襲撃が起こるようになった。騎士団は幾度と無く魔物たちを撃退したが、攻撃は日に日に激しくなっていった。王子が騎士団員の一部に命じた、異世界へ自由に行き来できる力の研究を狙ってのことという噂もあった。
 少女は騎士団長である青年が戦いに出る度に心を痛めたが、無事を祈るしかできなかった。
 そして次にミミが見たのは、辛い場面だった。騎士団長の青年は、戦いの中で剣を持つ利き手を失い、瀕死の状態で部下たちに運ばれ、帰ってきた。魔物軍の長を倒す際、腕を噛みきられるのも構わずに、相手の唯一の弱点の喉奥に剣を突き立て、倒したものの自らも倒れたのだった。腕はずたずたに噛み砕かれたので、回復魔法も及ばなかった。
 報せを聞いて少女は、城に駆けつけた。王子の厚情で彼女は騎士団長の病室に居ることを許されたが、少女に劣らず王子の心痛も深かった。
「私は・・・主としても親友としても、失格だな・・・。おまえをこんな目に、遭わせるなんて・・・」王子は蒼白な顔で、未だに意識を取り戻さない青年に囁いてから少女の方を振り返り、言った。
「・・・彼はひとことも口にしていないが、君が大切な存在であることは間違いないと、私にはわかる・・・。どうかときどき見舞いにきてやってくれ。君が居てくれれば、目を覚ますかもしれない・・・」
 王子が部屋を出ていくと、少女は青年の残った方の手を握りしめ、すすり泣いた。

 次の場面もまた、辛いものだった。青年はようやく意識を取り戻したが、彼を待っていたのは、一番の友であり、主君でもあった王子の死の報せだった。城壁を魔物軍に包囲され、このままでは一国全てが滅びるという瀬戸際に、王子が魔物軍の中心に飛び込んで自らの命と引き換えに敵を滅ぼす呪文メガンテを唱えたのだった。
 国は救われたが、民たち全ての嘆きは深かった。そして、この度の襲撃の中心、いわば魔王のような存在は、深手は負ったものの、死ななかった。数年もすればまた力を蓄え、再び襲撃を始めることだろう。
 王子の死の報せを聞いた騎士団長の青年は、泣きはしなかったが、蒼白でほとんど無に近い表情の下には激しい感情が渦巻いていて、少女はそれをただ見ているしかできなかった。同じように見ているしかできないミミも、辛く悲しかった。
 次の場面は、また数ヶ月時間が流れたのか青年はすっかり体力を回復し、失った腕の代わりに鉄らしい金属でできた義手を着けていた。少女に向ける笑顔は変わらず優しかったが、強い決意と執念のようなものが瞳を過っていた。
 青年は旅立つところのようで、少女は、青年を見送り、ずっと身に着けていたアメジストの耳飾りの片方を外し、彼に渡した。
「これ、私がご先祖様から代々引き継いできた、お守りなの・・・。気休めにしかならないかもしれないけれど、よかったら持っていって・・・」
 青年はそれを受け取るとすぐに、首に下げていた騎士団の証の首飾りの鎖に通して一緒に下げた。
「・・・ありがとう。戦いが全て済んだら、必ず返す。君がまた、揃って着けられるように」
 彼はそれ以外少女に想いも告げず待っていてくれとも言わずに、ただ「元気でな」と言い残して、行ってしまった。
 彼に託された耳飾りの片割れは、ミミに物語を聞かせている方のものではなかったので、この後何が起こったのかミミも知る由もなかった。もっとも、見ていても何もできないもどかしさに苦しんだろうから、幸いだったかもしれない。
 少女には、彼が耳飾りの片割れを持っていてくれたということだけが、儚い慰めだった。ミミを、つまり残された片割れのアメジストの耳飾りを握りしめて、少女は青年が見えなくなるまで見送り、無事を祈り続けた・・・。

 気が付くとミミは、眠る前と同じように、ビタリ山の石の町の一角に座っていた。手にはそのままアメジストのピアスの片割れが載っている。太陽の位置もほとんど変わっていないので、どうやらあまり時間は経っていないらしい。だが、ものすごく長い物語の中を旅していた感覚が強くて、ミミは思わずほうと息をついた。
「・・・お話はこれで終わり?踊り子と騎士は、どうなったの?」
 ミミが尋ねると、耳飾りから返答が聞こえた。
『騎士団長の青年は、主君の王子の仇を討ち国の脅威の根本を絶やす為に、魔物の本拠地に行ったの。残された腕でそれまで以上に戦えるように、長く苦しい特訓をしてね。魔物軍は彼のおかげで全て倒された。でも、彼が帰ることもなかった・・・。でも踊り子は、彼の帰りを待ち続けた。そして、さほど長くない生涯をひっそりと終えて、私と一緒に、お墓に埋められた。私もずっと土の中で眠っていたけど、先年の地震いで地上に出てしまって、拾われていろいろなところを転々として、今日あなたと会った、そういうわけ』
「そう・・・」
 おとぎ話と違って現実の物語は、悲しいことも多くて必ずしもハッピーエンドにならないことはよくわかっているけど、それでもミミは悲しくて、涙が落ちそうなほど瞳を潤ませた。
『長い物語を聞いてくれてありがとう。片方だけじゃ役に立たないとは思うけど、あなたが私を持っていてくれてたら、嬉しいわ。あなたと居れば、いつか、私の片割れに巡り会えるかもしれないから・・・』
「ええ、わかったわ。気長に探してみる」
『本当にありがとう・・・。たいしたことはできないけど、これはお礼よ』
 アメジストが一瞬強く輝き、ミミの回復魔力が5上がった!
 それからミミは、カラコタ橋に来た今日の元々の用事、キャプテン・メダルにちいさなメダルを届けようと、ルーラを唱えて石の町を去った。

 ミミがアメジストの語る物語を体感していたちょうどその頃、イザヤールはジャーホジ地方で命の石の採取に来ていた。即死呪文で身代わりになる特別な命の石の補充をする為だ。同じような物になって能がないが、ミミは命の石で作ったアクセサリーが砕け散る度に悲しむので(せっかくイザヤール様が作ってくれたのにと言って)、ついでにまた作ってやろうかなと考えつつ、ハンマースキルとツメスキルを応用して、瞬く間に固い地面を掘り返す。特別な命の石は、かなり深く掘らなければめったに見つからないのだ。
 間もなく目的の物を見つけたので、掘った穴を埋め戻そうと地表に上がろうとしたところに、巨大な顔だけ石像モンスター、ゴードンヘッドが彼を押し潰そうと思いきり勢いをつけて降ってきた。難なく身をかわし大地くだきの一撃であっさり撃退したが、せっかく穴から出る為に掘った土で予め作ってあった足場が崩されてしまったので、やれやれと肩をすくめた。かなり深く掘ったので、足場を崩されてしまってはすぐに出るのは容易ではなかったのである。
 だが、崩れた土の中に、何か錆びた金属の塊のような物が覗いているのを見つけたので、イザヤールはひとまず穴から出るのをやめて、それを拾い上げて調べてみた。ずいぶん錆び付いた古い時代の鉄の塊のようだ。触る端から錆がぼろぼろと落ちる。形状から察するに籠手のようだが、それにしては腕を入れるべき空洞が無く、ずっしりと重い。
 古代の鉄製の彫像の一部だろうかと、イザヤールはそれを更に詳しく調べてみると、錆び付いているが指の部分は可動なようで、押してやれば関節部分が動いた。外的な力を加えれば握ったり開いたりという動作も可能らしい。上部は紐かベルトを通すらしい輪が付いている。こんな重いものでなければ義手かと思うところだが、とイザヤールはひとりごちて、自分の言葉の馬鹿馬鹿しさに思わず苦笑した。
 握りしめる形になっていた指の部分を開いてやると、指部分もぼろぼろと錆が崩れ落ちて、丸く荒削りしたアメジストに黒ずんだ金属の輪をを通したものが表れた。形状から察するに、古代のピアスのようなものらしい。そのアメジストがミミの瞳の色によく似ていたので、心惹かれて光にかざして眺めていると、すぐ側から不思議な声が聞こえてきた。
『ようやく、再び人に見つけ出されるとは・・・』
 信じがたいことだが、声は手にしたアメジストから聞こえていた。だが、元守護天使で現在もミミと共にたくさんの不思議な出来事に遭遇している日々なので、彼は淡々と対応した。
「声の主はおまえなのか?おまえは、何者だ?」
『しかも私の声が、聞こえるのか・・・。ならば頼みがある、私を地中から地上に連れ出してくれ。そして、ある騎士の物語を、聞いてくれ・・・』〈続く〉
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 石の語る物語 | トップ | 石の語る物語〈後編〉 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿