セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

石の語る物語

2016年03月12日 11時12分12秒 | クエスト184以降
やはり今頃更新かーい!ごめんなさーい&案の定というか思ったより更に長くなるであろう追加クエストもどきとりあえず前編。クエストというよりパラレルか中世ロマンみたいな話になりそうな。ビルダーズの誰かの遠い記憶の夢を見るエピソードから思いついた話ですが、今回の場合は長い年月を見てきたある物になってその記憶を見るという感じです。それこそ映画鑑賞とかゲームプレイヤー目線?同カテゴリ2012年6月アップの「時空を超えて」とほんの少し関連しています。続き頑張って書きますまた後ほど!

 カラコタ橋では、ぼったくりや窃盗、そして盗品の売買が日常茶飯事である。しかも商品としての体裁すら整っていないビミョーな物まで堂々と売られている。そんな訳でこの町では買い物をしないことにしているミミは、今日もボロ布の上にがらくたが雑然と並べられている即席の店の前を素通りしようとしていた。
「そこの可愛いお嬢ちゃん、いいものそろってるよ、出血大サービスで安くしとくよ、見てってくれよ」
 縁の欠けたカップに穴の空いたブーツ、全く可愛くないトロルの巨大ぬいぐるみなど、買っても困ってしまうような物ばかりなのをちらっと見てミミは苦笑し、小さくだがきっぱり首を振ってそのまま歩き続けようとした。
 だが、そのとき、かすかな、本当にかすかな声が聞こえた。
『お願い、私を、連れていって・・・』
 声はどら声の店の男のものとは明らかに違う優しい声で、辺りを見回しても声を発したらしい人は居なかった。どうやら、商品のうちのどれかから声がしているらしい。もしもトロルのぬいぐるみのSOSだったらどうしようと、ミミはちょっとドキドキしながら立ち止まり、ひとつひとつ見ていくと、ある物に目が留まった。
 それは、穴を空けたアメジストに黒ずんだ金属でできた輪を通した、素朴なデザインのピアスだった。ピアスなのに片方しか無かった。ミミはイヤリング派だし、そもそも片方しか無いピアスではあまり役に立たないので、普段なら手に取らなかっただろうが、声はどうやらそれから聞こえているということに気付いたのだ。店主には聞こえていないらしい。万が一聞こえていたとしても酒のせいだと考えるのがせいぜいだろうが。
 細工はさほど高い技術でされたものではないらしく全体的に作りが無骨で、アメジストも研磨が荒削りだったが、石の色は美しかった。ちょうどミミの瞳と同じような濃い紫色をしていた。
 ミミがその片方だけのピアスに関心を示したのを見て、店主はたたみかけるように言った。
「キレイなアメジストだろ?お嬢ちゃんのキレイな目にそっくりじゃないか!これは運命だよ、買うしかないよ!アンバランスのシャレオツってヤツだし!」
 使うとしたらそのまま使うのではなく、ペンダントなどにして使った方がいいんじゃないかなと思ったミミだったが、ちゃんと値段の交渉もして、結局ミミはそのピアスを三百ゴールドで買った。片方だけのピアスにそれでも高すぎると、ゴールド銀行担当レナ辺りなら怒ったかもしれない。だが、カラコタ橋でこの値段で買えたのは奇跡的と言っていいかもしれなかった。
 片方だけのピアスを手にあまり人が居ない橋の上に上がると、やはり思った通り再びかすかな声が聞こえてきた。
『ありがとう・・・。私の声を聞いてくれて・・・』
「あなたは誰なの?」
 ミミもほとんど息だけの声で囁き尋ねた。たとえ近くに誰か居たとしても彼女が喋っているとはわからなかっただろう。
『私は・・・このアメジストなの・・・』
「宝石の妖精さん?」
『いいえ、妖精ではないわ。長い永い年月、洞窟の中にあって、それから更に長い日々をある土地から別の土地へ、人から人の手へと渡っているうちに・・・石に魂が宿った、そういう感じかしら・・・。私にも、よくわからない。ただ言えることは、私の心はここにあって、いろいろなことを見てきた。それだけははっきり言える』
「そうなの・・・。そんなに長い間・・・」
『もうひとつお願いがあるの。私の声を聞いてくれたのは、汚れなき幼い子供を覗いては、こんなに長い年月の間で、あなたが初めてよ。私と、私の見てきたあるひとの物語、聞いてくれるかしら・・・』
「ええ、もちろんいいわ。でも、どうして『あるひと』の物語なの?」
『それはね、遠い遠い昔に居た、あなたによく似たひとの物語だから』
「え・・・私に?あの、もしかしてそれ・・・」
 宝石を見ることなどほとんど無かったから、忘れるとも思えなかったが、もしかしたら天使だった頃の自分がたまたま遭遇したのでは、とミミは思い、アメジストにそう告げた。すると、石は小さく笑い声を立てて否定した。
『いいえ、違うわ。天使だったあなたが生まれた頃よりも、昔の話よ・・・。どこか静かな場所で、聞いてくれる?』
 ミミは承知し、ここから程近いビタリ山の山頂に行くことにした。宝石の語る物語を聞くには、石の町がふさわしい気がしたのだ。ミミはクエスト「石の語る物語」を引き受けた!

 石の町に飛び、見晴らしのいい場所に腰を下ろすと、ピアスのアメジストから、再び声が聞こえてきた。
『あなたに似たひとの物語の前に、私のことも少しだけ話すわね。私は、ウォルロという土地の山奥に生まれた、小さなアメジストの結晶だったの・・・』
「ウォルロ?!」
 よくよく馴染みの名を聞いて、ミミは少なからず驚いた。
『あら、知ってる?私は・・・私たちは双子の結晶で、長い永い年月ただずっと洞窟の中に居た。外の世界のことなんて知らなかった。でもある日、ウォルロの子供たちが洞窟を訪れて、私と片割れを折り取って持って帰った。子供たちは私たちを母親への贈り物にするつもりで持ち帰ったの。そうね、かつてキサゴナの巫女だったその母親も、今思えばあなたに似ていたわね。とにかく、器用だった子供たちの父親が、私たちを加工した。私たちは丸く削られ穴を空けられ、銀製の輪を通されて、装身具になった。道具が限られていたから、ご覧の通り、粗い細工だったけれどね』
 キサゴナの巫女と聞いて、ミミは少しドキリとした。以前にキサゴナ遺跡で、時空を超えて出会ったあの少女だろうか。グビアナに行っていた少女の恋人は、あの後帰ってきたのだろうか。そんなミミの心を読んだように、アメジストは言った。
『でも、今日これから語る物語は、その家族の物語ではないわ。それより何百年も後に生まれた、あなたによく似た踊り子の物語よ・・・』
 その声をきっかけに、突然ミミを強い睡魔が襲った。片方のピアスを手に載せたまま、彼女はゆっくりと目蓋を閉じた。

 気が付くとミミは、どこかで見たような少女に見下ろされていた。長い睫毛に縁取られた濃い紫の瞳が、じっと自分を見つめている。あのときのキサゴナの巫女に似ている、と思ってから、つまりそれは自分に似ているのだとようやくミミは気が付いた。そして、自分が少女の指に持ち上げられて初めて、自分はあのアメジストになっていて、いわばアメジストの目線で辺りを見ているのだと覚った。誰かの遠い記憶に同化してお芝居を見るように夢を見ている、そんな感触だった。
「ねー、まだそんな古くさいデザインの耳飾り、着けてるの。今はグビアナ風が流行でしょー。だからアンタは踊りうまいのにぱっとしなくて未だ見習いなんじゃない?」
 同じ部屋に居た女性が、少女に声をかけた。楽屋状の部屋と彼女の姿から察するに踊り子らしい。ミミを手にとる少女は平服だったが、女性の言葉からその理由は知れた。
「でも・・・これ、先祖代々受け継いできた、大切なお守りだから・・・」
 少女はそれだけ答えて、うつむいた。
 それから少女は、町にお使いに出された。地形は見覚えあるような気がするが、思い出せない。すると、町のメイン広場らしい場所で、ちょっとした人だかりがあった。一見簡素だが上質の素材の衣服とマントに身を包んだ金髪の美しい青年が、町の子供たちと遊んでいる。その連れらしい濃い琥珀のような茶の瞳と同色のやや固そうな髪の精悍な容姿の青年も、見た目の厳つさにかかわらず子供たちになつかれていて、苦笑しながらも相手をしてやっている。
(え・・・?イザヤール様・・・?!)
 剃髪ではないが茶の瞳の青年が愛しい人によく似ていたので、ミミはまた胸をドキリとさせた。そんな筈は無いが。ここは、アメジストの語る記憶の中の世界なのだから。そういえば金髪の青年は、エルギオスに似ていた。
「王子様は相変わらずすごい美男で気さくだねえ。立派な王様になれるよ」
「そうか?気さく過ぎというかちょっとのんきすぎというか」
「騎士たちがしっかり守るから大丈夫だろ。連れのあの若者、王子様のお気に入りで、あの若さで騎士団長らしいよ。すごい剣の腕前だそうだ」
「なるほど、確かに強そうだな。子供たち、よく怖がんねえな」
「子供は純粋だから、見た目じゃなくてちゃんと性根を見るんでしょ、あんたと違って」
 そんな町の人の会話を聞いて少女は、王子様が町中に居るなんて、と驚いたように呟いてから、お使いを思い出して急いで走り出した。

 場面が変わって時間が過ぎたのか、アメジストのピアスになっているミミの目線の先には看板があった。それには、数日後の夜に旅のダンサーたちが町の広場でショーをするという意味のことが書かれている。少女は見習いなので看板設置を言いつけられたらしい。
 彼女が看板を設置し終えたとき、背後から声がした。
「へえ、ダンスショーか、楽しそうだな。なあ、こっそり見に行かないか?」
「それはさすがになりません、王子。あなたにやましい気持ちがヒトカケラも無いことは我々はよく承知していますが、あらぬ誤解を招くような行為は謹んでください」
 少女が驚いて振り返ると、そこには先ほどの金髪の青年と茶色の髪の青年が立っていた。やはり金髪の青年が王子のようだ。
「そんな言い方は踊り子さんたちに失礼じゃないか?しかもご本人を目の前にして!」
 金髪の青年はたしなめたが、少女は唇を噛んでうつむいた。確かに、自分は踊ることが好きで、旅の舞踏集団に入った。だが、踊りの実力よりも容貌や色気を振りまく先輩たちはどんどん人気者となり、本当にダンスが好きで色は売らないというタイプの者は、なかなか日の目を見なかった。それなのに、踊り子というだけでひとくくりにして、軽蔑の目で見る者もいる。そんな少女の悔しく悲しい気持ちが、ミミにも伝わってくる。
 少女は、唇を噛んだまま走り出した。風で飛んだ涙が、アメジストになっているミミにぶつかり、小さく砕けた。

 町の目立たない一角で、少女は泣いていた。おそらく踊り子たちの滞在する宿屋に帰っても、一人で泣く場所など無いのだろう。だがしばらくして、歩み寄ってくる足音が聞こえたので、彼女は涙を拭って首をしっかりと上げた。腰のベルトに下げた剣のかすかな金属音から、先ほどのイザヤールに似た騎士だろうとミミが思っていたら、やはりそうだった。
「ようやく見つけた。詫びが言いたくて。すまなかった」彼は、力強いが穏やかな目に、後悔の色を浮かべて少女に言った。「君たちを侮辱するつもりはなかった。ただ、我らが王子は少々気さくすぎる方で、心配だっただけなんだ」
 いいえ、いいんですという意味で、少女は首を振った。その濃い紫の瞳に涙がまだ残っているのを見て、騎士の青年は少し辛そうな顔をしてから、ふっとかすかに笑って、言った。
「あの後、王子に散々叱られたよ。人を一つの型にはめた狭い視線で見るな、おまえはそういう偏見にとらわれる傾向がある、ってね。そんなつもりは無いが、自分では気付かないものかもしれないな」
 笑うと騎士団の長という厳めしさが消えて一気に少年っぽい表情になる彼を、少女は驚いたように見つめてから、彼女もまた、花開くように笑った。その笑顔に、青年もまた驚いたようにみとれた・・・。それから二人は、何故踊り子になったのか、何故騎士になったのかをそれぞれ話し始めた。
 これ、恋物語なのかな、自分たちに似ている人のお話ってなんか照れちゃうな、そう思いながらもミミは、微笑ましく見守っていた。〈続く〉
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