セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

石の語る物語〈後編〉

2016年03月13日 11時34分50秒 | クエスト184以降
ようやく完結しました~今週の追加クエストもどき。たいへんお待たせしました!前回のあらすじ、片方だけのアメジストの耳飾りに遥か昔の踊り子と騎士の悲しい物語を聞いたミミ。一方イザヤールもまた、片方だけのアメジストの耳飾りを見つけて・・・。今回の物語が当サイトイザ女主と関連があるのか偶然かはご想像にお任せということで☆文中のエルギオス様の言葉というのは本編前カテゴリ「五月の風」より。読んでくださってありがとうございました☆

 古代のアクセサリーに、話を聞いてくれと頼まれるのもなかなか奇妙な出来事だったが、古い物には様々な想いや念が宿り、それがやがて意志を形成し出すこともあるということを、イザヤールはよく知っていた。そして、それらの者は、声を聞いてくれる者を偶然見つけたら、知らせておきたいこと、託したいものがあるのだということも。たとえ魂を宿しても、その魂の声を拾ってくれる者は、めったに居ないものだから・・・。
「わかった、私で構わなければ聞こう」イザヤールは答えた。「ただ、場所を移動させてくれ。ここでは、また魔物が降ってくるかもしれないからな」

 こうしてイザヤールは片方だけのアメジストのピアスと、錆びた謎の鉄の腕を持って穴から出て、掘り返した土を瞬く間に穴に埋め戻してほぼ採掘前の状態に戻すと、アメジストのピアスに尋ねた。
「待たせたな。おまえはどこから来たもので、どこに帰りたい?わかるのなら、せっかくだからそこに連れて行って話を聞こうと思う」
『私は・・・』アメジストからの声は答えた。『ウォルロという土地で生まれた、紫の水晶の双子の片割れ・・・。だが、その洞窟も、今あるかわからぬし、私が話そうとしている騎士が生きた王国も、遥か彼方の以前に喪われた・・・』
「ウォルロ?」馴染みどころか地上で最も馴れ親しんでいると言っていい土地の名を思いがけず聞いて、イザヤールは少なからず驚いた。「おまえの生まれた洞窟かは知らないが、ウォルロにあるアメジストの洞窟なら知っているが」
『そうか、そなたは、ウォルロの・・・』アメジストは呟いた。『ならば、ウォルロの滝まで連れていってくれ。今もあるのならば』
「ああ、あるぞ。それこそ数千年も変わらず、な」
 キメラのつばさですぐにウォルロ村に到着し、知り合いに声をかけられながら村を通り抜け、間もなくイザヤールは滝の傍の天使像の前に着いた。
『変わらぬな、この滝は・・・。私たちを洞窟から持ち帰った子供たちも、細工して耳飾りにした彼らの父親も、私たちを最初に身に着けた彼の妻も、よくこの滝を見ていた・・・数千年も前の話だ・・・』
 ならば天使だった自分もさすがにまだ生まれていない頃の話かとイザヤールは思った。
「騎士というのは、その家族に関係しているのか?」
『いや、違う。それから六、七百年以上後の話だ・・・。だが、もしかしたら、遠い子孫かもしれぬな。少なくとも、騎士に私を託した踊り子の少女は、その家族の子孫だったから・・・。そういえば、私たちを作った父親も、その騎士も、そなたによく似ていた・・・』
 それはなかなかの偶然だが、自分が彼らの子孫だということはあり得ないと、イザヤールは思った。自分はかつて、光から生まれた天使で、人の子と何の血縁の関わりも無く女神の力で人間となったのだから。だが、このアメジストは、自分に騎士や懐かしい人々の面影を見出だして、それも記憶を語りたくなった一因なのだろう・・・。
 イザヤールは守護天使像の傍らに腰を下ろした。そして、アメジストが導く記憶の物語の世界に、身を委ねた。

 イザヤールは知る由も無かったが、彼が体感した物語の前半は、ミミがアメジストのピアスの片割れに体感させられた踊り子の少女の物語と同じだった。その少女がミミによく似ていることに、イザヤールは少し動揺した。ミミもかつてはれっきとした光から生まれた天使で、エルギオスを止める為に女神の果実の力で人間になったのだから、数千年前の人間たちと関わりがある筈も無いのに。
 そして、騎士はやはり自分によく似ていた。だがそれよりもイザヤールを驚かせたのは、その騎士が仕える王子があまりにもエルギオスに似ていたことだった。それだけなら大して驚きもしなかっただろうが、遥か昔、天使界でエルギオスが語った言葉が、心の片隅にひっかかっていたことも、驚きの要因だったかもしれない。師匠エルギオスはかつて、まだ少年だった見習い天使のイザヤールに、こう言ったのだ。
〈・・・こんなことを考えたことはないか?私や、おまえや、そしてラヴィエルは、かつて家族かもしくは固い絆で結ばれた仲間ではなかったかと
・・・おまえはどこかの城の騎士団の長か何かで、私は吟遊詩人だったのかもしろない。ラヴィエルは、そうだな、その時からおまえと兄妹で、女性の騎士団の長だったかもな。我々は友情を誓い、人々を守って、そして・・・命果てたのかも・・・
人間を守って死んだ人間の魂が、人間を導く天使となる。・・・これほど合理的なことはないのではないか?〉
 そして、おそらく自分が人としての新たな命を得る時に何者かから聞いた「命は巡るのさ」という言葉。それらの言葉と、今見せられている物語との符合が多すぎて、それがいくらか自分を不安にさせるのだと、イザヤールは客観的に分析して心を落ち着かせた。
 剣を持つ為の腕を喪い、死の縁と戦っている間に、守るべき主君まで喪った騎士の青年。似ている他人にすぎないとはいえ、エルギオスに似た王子の死は、やはりイザヤールにも辛かった。人間たちを守る為なら、エルギオスも同じことをしたかもしれないと、師の信条をよく知っていたが故に。
 そして、イザヤールが今見ている物語の中で身を託している耳飾りの片割れが、踊り子から騎士団長の青年に託されたとき。ここから先の物語は、こちら側のアメジストと、騎士団長の青年しか知らないものだった。
 魔物軍を全て滅ぼすべく旅立った青年、すると荒野の途中、やはり旅の姿の妹が現れた。イザヤールが半ば予想していた通り、ラヴィエルに似ていた。
「兄上、やはり行くのだな・・・。私は、王子の意志を継いで研究を続ける。異世界への扉を開く力の研究を」
「それは人智を超えた神の領域の力ではないのか?それの為に国は魔物に狙われたのかもしれないのだぞ?!」
「そうかもしれない。だが、私は、王子の意志をムダにしたくはない。異世界を自由に往復し異世界の住人と共に助け合えれば、魔王の台頭も世界の滅亡も防げる可能性がある。王子の悲願、全ての悲劇を防ぐことができるかも」
「運命に逆らうのか?さだめをねじ曲げると?そんなものは無謀だ!」
「兄上こそ無謀ではないか!一人で、そんな腕で、魔物軍の残党と長を倒すなど!」
「無謀などではない。むしろ、こうなって幸いだった。この鉄の腕なら、たとえ丸腰になっても、最後まで戦える。その為に作らせた腕だ」
「・・・帰らないつもりか。そのアメジストをくれた娘との約束を、守らないつもりか。だから、愛しているくせに何も言わずに旅立ったのか」
「・・・。あの子は優しい子だ。想いを告げれば、私のことを何とも思っていなくても心の重荷になる。たとえ彼女も想ってくれていたとしても、縛り付けて待たせたくない。・・・戻ることができたら、想いを告げるつもりだ」
「・・・そうか。なら絶対帰ってきてプロポーズでもなんでもするんだぞ。駆け落ちするなら家は私が継いでやる、安心しろ」
「まったく、おまえというやつは。おまえに任せたら家は潰れる。団員たちに顔向けできん」
「おまえが帰って来なくてもそうなるんだからな。・・・絶対、生きて、戻れ・・・」
「・・・。わかった」

 次の場面は、魔物軍の長との戦いの場だった。他の魔物は全て倒したのか姿は無かったが、青年も深手を負っていて、歩くのもやっとの状態だった。剣の刃も斬りすぎてこぼれ、切っ先が欠けている。魔物軍の長は、人間を根絶やしにする為に生み出された魔獣、キマイラロードで、以前王子に負わされた傷ももはや完全に癒えていた。倒すことはもはや絶望的と言ってよかった。
 だが、青年は剣が折れるまで相手に傷を負わせ、剣が折れた後は、鉄の腕でキマイラロードの心臓を会心の一撃でひと突きにした。キマイラロードは呪いの声を上げて絶命し、消えた。それを見届けた後、青年もまた、崩れ落ちるように倒れ、鉄の手で首に下げたアメジストの耳飾りを押さえ、もう一方の手で鉄の手を包み込み、拳にして耳飾りを握らせた。そして、そのまま動かなくなった。その直後に建物が崩れ、瓦礫が彼の上にも降り注いだ・・・。

 イザヤールが目を開くと、先ほどと同じようにウォルロの滝の傍だった。子供たちの遊ぶ声が相変わらず聞こえているので、長い物語の筈だったが、さほど時間は経っていないらしい。
『こうして私は、長いこと地中で眠ることとなった・・・。彼の鉄の手の中で』アメジストは呟いた。『長い歳月の間に彼の身体は朽ち果て、骨まで無くなったが、鉄の腕と私だけは、錆び付いても残った・・・。魔物軍を全て倒したから国は救われたろうが、地中にあった私は、踊り子がどうなったかはわからぬ・・・。愛しい者が帰らぬことを悲嘆して命を落としたか他の者と結ばれたのかも・・・。
長い物語を聞いてくれて、感謝する。大したことはできぬが、これは感謝の気持ちだ』
 アメジストが強く光輝いた!イザヤールのみのまもりが5上がった!
「おまえは、これからどうする?ウォルロのアメジストの洞窟に、行ってみるか?おまえの生まれた洞窟ではないかもしれないが」
 イザヤールが尋ねると、アメジストは答えた。
『そなたには何の役にも立たぬだろうが、そなたがこのまま持っていてくれれば、嬉しい・・・。そなたと居れば、ずっと離ればなれになっている片割れとも、もしかしたらいつか、会えるかもしれぬ・・・』
「わかった」イザヤールは頷いた。「おまえのかつての持ち主だった踊り子にそっくりなひとがいる。・・・彼女は、いつも私と一緒に居てくれているから、彼女への贈り物にしても構わないか?おまえが聞かせてくれた物語と共にな。彼女と一緒に私は、おまえの片割れを気長に探そう」
『本当か?!・・・それは・・・それは、嬉しいことだ・・・。また、人と共に在ることができるとは・・・ありがとう・・・』

 今日は殊にイザヤールに早く逢いたくて、ミミはいつものようにリッカの宿屋のロビーで待たずに、入口の前に立ったり、セントシュタインの町の入口まで行ってみたりして、そわそわしていた。愛しい人を待っている気持ち。帰ってきてくれるとわかっているから、待つ時間も嬉しいけれど。帰ってきてくれるかどうかわからない時間は、どれほど辛いことだろう。
 そして、帰って来ないとわかっているときの気持ちは・・・。それはかつて、ミミもよく知っていた気持ちだった。ミミには奇跡が起きて、愛しい人は帰ってきてくれたけれど、この片方のアメジストのピアスの持ち主だった踊り子の少女には、奇跡は起きなかったのだ・・・。せめていつか、この耳飾りの両方を揃えてあげられたら、と思った。
 アメジストの耳飾りをきゅっと両手に握りしめてたたずんでいたミミの憂いに沈んでいた瞳が、待ちに待っていた人の姿をみとめて、輝いた。今吹いている春宵の微風のように軽やかに、彼の元に駆け寄る。
「おかえりなさい、イザヤール様」
「ただいま、ミミ」
 連れ立ってリッカの宿屋に入る直前に、イザヤールは微笑んで言った。
「今日の土産は、これと・・・悲しいがいろいろ不思議な物語だ」
 開いて見せた彼の手のひらの上には、ミミが持っているのと同じアメジストの耳飾りが載っていた。ミミは驚いて、耳飾りのアメジストの色にそっくりな濃い紫の瞳を見開き、自分の手の中に有るものをイザヤールに見せた。それを見た彼の顔も驚きと、そしてやがて微笑みが広がっていく。ミミも、輝くような笑顔で彼を見上げた。
 長いこと離ればなれになっていてようやく揃ったアメジストの耳飾りは、並んだ二人の手のひらの上で、生き返ったように煌めいていた。〈了〉
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