その少女を初めて見かけたのは、図書室だった。
ラフェットが弟子にするつもりだと言っている子の友人だと聞いた。色白の顔をほんのり薔薇色に上気させて、深い紫色の瞳で本に夢中になっている様は、とても可愛らしかった。
朴念仁だとよくラフェットにからかわれるが、別に女性の美しさに鈍感なわけではない、と思う。現にそのときも、可憐な花を見かけたような気分になって、何となく温かい心持ちになったのだから。
そして、その少女が自分に慰めを与えてくれたあの本を好きだと言ったとき、心が不思議に和んだ。
いつの間にか、図書室以外の場所でも見かけると気になるようになった。外で見かける彼女は、大概友人たちの話や悩みに静かに聞き入っていて、自分が見ていることには気付いていないようだった。
彼女に悩みを聞いてもらった者たちは、話し終わるころには心が整理され、自ずと解決法を見つけ、元気になっているのだった。不思議な娘だ、と思った。
あるとき、彼女が回復魔法は得意だが、攻撃呪文や武器は苦手だということを彼女の友人から聞いた。
「ミミは、自分が痛いのが大キライだから、人がケガをしているのを見ると、その痛いを想像しちゃって、怖くなるから急いで治すんですって」
あの少女は人の痛みや苦しみを己のものとして受け止めてしまう、それ故に相手が早く癒されることを強く願うのだろう。その願いの強さが回復魔力を高めているようだ。
この性質がいい方向に伸びれば、きっと立派な守護天使になれるだろう。・・・しかし、守護天使になるには、優しさだけでは足りない。守る強さも必要だ。
育ててみたくなった。
今までこう思わせた見習い天使はいなかったから、自分でも不思議だった。
こうして、ミミを弟子にした。思っていたよりも芯が強く、努力家で、剣の修行も頑張って付いてきている。攻撃呪文はやはり少し苦手なようだが。
やがて、熱心に書を読む彼女の瞳を、そっと眺めることが楽しみなことに気付いた。
もともと濃い紫の彼女の瞳は、長い睫毛の作る影で上の方がいっそう濃くなり、濃色から淡色へのグラデーションを描く紫水晶を思わせて美しかった。
褒めるときに、茶色のつやつやとゆるやかに波うつ髪をなでるのも楽しかった。・・・とても嬉しそうに、とても愛らしく微笑むから。
毎日が楽しかった。
師を失った心の痛みが、消え去りこそはしなかったが、やわらかくほぐれていくのを感じた。
ときどきミミは首を傾げて、どうして私を弟子にしたのですか、と聞いてくる。何度答えても納得いかないようだ。
もっともそれは、半分しか答えてないからかもしれない。・・・もう半分の理由は、自分でもよくわからない。
納得いかないながらも、期待に応えようとする彼女が、また可愛い。
だが、あまり無理をさせないように気を付けてやらなくては。彼女が一人前の守護天使になるまでは、守ってやらなくては。
エルギオス様が、私を守ってくれていたように。<了>
ラフェットが弟子にするつもりだと言っている子の友人だと聞いた。色白の顔をほんのり薔薇色に上気させて、深い紫色の瞳で本に夢中になっている様は、とても可愛らしかった。
朴念仁だとよくラフェットにからかわれるが、別に女性の美しさに鈍感なわけではない、と思う。現にそのときも、可憐な花を見かけたような気分になって、何となく温かい心持ちになったのだから。
そして、その少女が自分に慰めを与えてくれたあの本を好きだと言ったとき、心が不思議に和んだ。
いつの間にか、図書室以外の場所でも見かけると気になるようになった。外で見かける彼女は、大概友人たちの話や悩みに静かに聞き入っていて、自分が見ていることには気付いていないようだった。
彼女に悩みを聞いてもらった者たちは、話し終わるころには心が整理され、自ずと解決法を見つけ、元気になっているのだった。不思議な娘だ、と思った。
あるとき、彼女が回復魔法は得意だが、攻撃呪文や武器は苦手だということを彼女の友人から聞いた。
「ミミは、自分が痛いのが大キライだから、人がケガをしているのを見ると、その痛いを想像しちゃって、怖くなるから急いで治すんですって」
あの少女は人の痛みや苦しみを己のものとして受け止めてしまう、それ故に相手が早く癒されることを強く願うのだろう。その願いの強さが回復魔力を高めているようだ。
この性質がいい方向に伸びれば、きっと立派な守護天使になれるだろう。・・・しかし、守護天使になるには、優しさだけでは足りない。守る強さも必要だ。
育ててみたくなった。
今までこう思わせた見習い天使はいなかったから、自分でも不思議だった。
こうして、ミミを弟子にした。思っていたよりも芯が強く、努力家で、剣の修行も頑張って付いてきている。攻撃呪文はやはり少し苦手なようだが。
やがて、熱心に書を読む彼女の瞳を、そっと眺めることが楽しみなことに気付いた。
もともと濃い紫の彼女の瞳は、長い睫毛の作る影で上の方がいっそう濃くなり、濃色から淡色へのグラデーションを描く紫水晶を思わせて美しかった。
褒めるときに、茶色のつやつやとゆるやかに波うつ髪をなでるのも楽しかった。・・・とても嬉しそうに、とても愛らしく微笑むから。
毎日が楽しかった。
師を失った心の痛みが、消え去りこそはしなかったが、やわらかくほぐれていくのを感じた。
ときどきミミは首を傾げて、どうして私を弟子にしたのですか、と聞いてくる。何度答えても納得いかないようだ。
もっともそれは、半分しか答えてないからかもしれない。・・・もう半分の理由は、自分でもよくわからない。
納得いかないながらも、期待に応えようとする彼女が、また可愛い。
だが、あまり無理をさせないように気を付けてやらなくては。彼女が一人前の守護天使になるまでは、守ってやらなくては。
エルギオス様が、私を守ってくれていたように。<了>
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