セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

ぬくもり

2010年12月30日 19時54分59秒 | クエスト163以降
 リッカの宿で、いつも使っている部屋の大掃除も終わって。入浴を終えたミミは、暖炉の近くに置いた大きなクッションの上に埋まるようにして座っていた。彼女はこうして座ることを、密かに「ぬくぬく」と呼んでいた。
 扉の向こうからは、かすかに水の音が聞こえてくる。今は少し遅れて帰ってきたイザヤールが浴室を使っているのだ。
 この部屋は、ロイヤルルームほど大きくはないが、寝室の他に小さなもうひと間ある、使い勝手のいい部屋だった。暖炉があるのが寝室の方で、今ミミが座っている。もうひと間は、浴室と隣接していて、過酷な環境から帰ってくる冒険者が、鎧を脱いですぐ湯槽に飛び込むのにおあつらえむきな造りになっていた。
 そこへ、扉が開いて、イザヤールが入ってきた。そして、クッションに体を沈めているミミを、目を細めて眺めた。彼は今日もセントシュタイン城の兵士の訓練試合に付き合ってきたところで、手を抜かない故か少々眠そうだった。
「イザヤール様」
 ミミが呟いて手を差し伸べると、彼は微笑んで彼女の側に座った。ミミがクッションを譲ろうとすると、イザヤールは首を緩く振った。
「じゃあ・・・」
 ミミは、体をずらしながら囁いた。
「半分ずつ使いましょう」
 そう提案されてイザヤールは再び微笑むと、ぴったり彼女に寄り添うように座った。しかし、イザヤールの体は大きいので、二人で座るにはクッションの大きさは足りない。
「それなら・・・」
「え?・・・あっ」
 イザヤールはミミを抱え上げ、自分の膝に横抱きにのせた。そして自分はゆったりとクッションに収まった。
 ミミは赤くなっていたが、やがて腕を緩くイザヤールの腰周りに絡めて、ぽつりと呟いた。
「すごく贅沢なクッションですね・・・」
「こちらは、すごく贅沢な抱き枕だ・・・」
 鼓動がとくん、と跳ね上がるのが、互いにわかった。
 心の安らぎとざわめきが同時に訪れてしまう、と互いに思う。
 ミミはイザヤールの肩にそっと頭をもたせかけた。イザヤールは、ミミの髪に指を滑らせる。
「温かいです・・・」
「ああ、温かいな・・・」
 でも感じるのはぬくもりだけでなくて。ミミは睫毛を伏せる。ずっと昔からうっとりと見つめていた、彫刻のように素晴らしく、しなやかなイザヤールの筋肉の線が、シャツ越しに感じられる。恋人になって、そっと目で見つめるだけでなく、いわば自分の体で見ることができるようになった・・・。
 イザヤールもまた、腕の中の華奢で、それでいてやわらかな体に、陶酔とかすかな苦痛を覚えていた。このまま優しく触れ合っていたいという思いと、折れるほど抱き締めたいという思いの狭間で揺れ動いて。
 生きるということは、不思議だと彼は思う。すっきりと善悪で片付くことなど、実はそうそうないのだと、最近になってようやく気が付いた。全ての生き物は生きるために食い食われ、体は毎日小さな生と死を繰り返し、感情は時折相反する矛盾を抱えてしまう。

 綺麗なまま残しておきたい。

 思いきり汚してみたい。

 半睡状態の頭がこの二つの言葉を描き、イザヤールは思わず息を詰めた。
 こんな時は、睡魔に身を委ねてしまうに限る。イザヤールはミミの髪をなでながら、目蓋を閉じた。彼の指の緩やかな動きに、ミミの目蓋もゆっくりと下りていった。

 温かい。幸せ。でも、ちょっとだけ苦しい。何で幸せと苦しい、反対の思いが同居するの。イザヤール様は、私に春のようなぬくもりを求めているのかもしれないのに。私は・・・。灼けつくような熱さを胸に抱えていること・・・どうか気付かれないで・・・。

 頬をイザヤールの腕にきゅっと押し付け、ミミは切なさを堪えた瞳を、完全に閉じた。

 だが矛盾する感情は襲ってきても。この腕の中のものは、何よりも大切な、自分の宝物。それだけは、間違いないから。
 互いに心の中で呟いて、二人はけだるい眠りに落ちていった。〈了〉

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