セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

おどりこのドレス

2014年05月27日 23時58分04秒 | 本編中
珍しく本編中のある日の話ですが、ストーリーとはあまり関係ない「初めておどりこのドレスを着た日」的なお話。天使服オンリーだった女主が、やがてサンディにおしゃれさん称号をもらうようになるんですから、人生ってわからないもんですね~(笑)最後の方は、クエスト163以降、すなわち現在の二人です。なんかさらっと爆弾発言な気もしますがスルーしてあげてくださいまし。タイトルは全く捻りナシでございます。捻りすぎたらワケわからなくなったので。

 初めてそのドレスを見たとき、とても綺麗だと思った。ミミの瞳の色にも似た濃い紫と、光のような黄色が巧みに配色され、ひらひらした布が躍動感を与え、石や飾りがあしらわれた美しいドレス。リッカの宿屋に来ていた旅人の女性が着ていた。あの人は踊り子さんよ、ミミと同じ旅芸人ね、あのドレスは踊り子しか装備できないのよとルイーダに教えてもらって、それが旅芸人の女性専用の装備品である「おどりこのドレス」だと知った。
 そのときミミは、簡素なレザーマントに身を包んでいて、しかもようやくもうすぐ天使界に帰ることができるところだった。天使界に戻り、失った翼と光輪を治してもらえたら、もう人間に姿が見えることもない。だから、人間らしい服も必要ない。とても綺麗だけれど、胸元や腰のくびれが強調されるドレスを、守護天使に相応しいと思ってもらえる筈もないし、着こなせそうもないから、自分があのドレスを着ることは無いだろう。そう思っていた。
 だが、結局ミミは、地上の旅を続けることとなり、やがて再びそのドレスに巡り合った。エルシオン学院の旧校舎で覚えた錬金レシピの中に、おどりこのドレスと星のサークレットなどを作る方法を記したものがあったのだ。覚えた後いろいろなことがあってすぐにカマエルのところに行けなかったが、新たな地への出発前の準備の為、ようやく一度セントシュタインに戻って、作ってみたという訳だ。
 多少手はかかるが手持ちの材料で作ることができそうだと知ったとき、ミミは少しためらった。もっと質実剛健な装備品を作った方がいいのではないかと気がとがめた。そんな彼女を、サンディが叱りつけた。
「女のコにはオシャレも大事って言ってるデショ!オシャレには天使も人間もないんだからねッ!じゃないと旅芸人としてやってけないっつーの!」
 こうして作ってみたおどりこのドレスは、以外にもと言うか皮肉にもと言うか、見た目に似合わず現在の手持ちの装備品の中でもトップクラスの守備力だった。合わせて作った星のサークレットと共にミミがおそるおそる着てみると、サンディは手を叩いて喜び、リッカもルイーダもロクサーヌも褒めてくれた。
「ミミ~、超イケてるよっ、これでオトコもモンスターもメロメロねっ☆」
「ミミ、とっても綺麗だよ。いいなあ、そういうドレスが似合って」
「さすが私が見込んだだけあるわ、やっぱりミミは素晴らしい踊り子になりそうね」
「ミミ様は今まで鎧とかマントばかりお召しになっていらっしゃいましたけど、これからはぜひドレスもご活用頂きたいですわ、おしゃれで戦闘にも向く品をたくさんご用意しておりますのよ♪きっとどれもお似合いですわ♪」
 お世辞でも褒めてもらって嬉しくて、ぽうと頬を愛らしく染めたミミだったが、冒険者の誰かの何気ない言葉に、濃い紫の瞳が憂いを帯びた。
「ああいうドレス着てコクったら百パーうまくいくよね~あたしも買お~っと♪」
 本当にそうならいいけれど・・・ミミは思った。でも・・・。
 ミミがこのドレス姿を一番見せたい人は、おそらく容姿の美醜よりも行いの良さに関心を持つ価値観であろう上級天使だった。弟子であるミミの善行や努力や進歩をよく褒めてくれたが、彼女の容姿に関して言及したことはほとんどなかった。むしろ、こんな格好をしていたら、天使にあるまじきだらしない格好だと叱られるかもしれない。それも仕方なかった。天使は、容姿ではなくその行いに価値がある役割なのだから。
 でも・・・叱られるのでもなんでもいい、もう一度、会えて彼の無事を確認できるのなら。箱舟の墜落前のあのとき、薄れゆく意識の中で、彼の呟く声を聞いたのが、最後だった。『・・・ミミ』と。名前を呼んでくれたのは。あの声は。決して、望んで彼女に危害を加えたのではないという儚い希を、与えてくれた・・・。
 華奢な骨格、豊かな胸、くびれた腰という恵まれた体型によく似合う新しい衣装、みんなの心からの賞賛、それなのにどこか浮かない顔のミミに、一同は首を傾げた。
「ミミ、どうしたの?なんか元気ないよ?」
 リッカの声にミミははっと我に返り、懸命に笑顔を浮かべた。
「ううん、大丈夫。・・・褒めてくれて、ありがとう。なんか照れちゃう・・・」
 それを聞いてリッカは、砂漠で役に立つサマードレスを買うのにもためらっていたミミらしいと、安堵して笑った。それでもやはりほんの少し気にはかかっていたけれど。そして、もしかしてミミには故郷に好きな人がいて、その人に見せてあげられないのを悲しんでいるのかも、と思った。その人だって、今のミミを見たら、驚くほど綺麗だと思ってくれるだろうに。

 でも、その後もっと強く実用的な鎧を手に入れたりして、ミミがおどりこのドレスで旅をする期間はほとんどなかった・・・世界が平和になり、ミミも強くなって、効果よりもおしゃれ重視の着こなしができるようになるまでは。そして・・・。
「やはり、おまえはおどりこのドレスもよく似合うな。何を着ても綺麗だが」
 ストイックな雰囲気なのにさらりとくすぐったくなるようなことを言う彼に、ミミは未だについ頬を染めてしまう。彼がお師匠様だった頃は、こんなことを言ってくれる人だとはゆめにも思わなかった。言いたくても、師匠という立場だったから、密かに愛していたからこそ、言えなかったのだと・・・。三度目の奇跡の再会を経て、互いに同じ想いを抱いていたことを知った。そんな彼が傍らに居てくれるようになってからは、普段着と言っていいほどおどりこのドレスの出番が増えた。
「何を着てもって・・・スライムヘッドにスライムスーツでも?」
 照れ隠しにミミが尋ねると、彼は大真面目な顔で答えた。
「ああ、とっても可愛い」
 堪らずミミは笑いだし、彼も楽しげに笑い声を漏らす。それから彼は、また真剣な顔になって、囁いた。
「誤解を畏れずに言えば、何も装飾がないおまえが、一番綺麗だと、思う・・・」
 装身具も化粧も服も、翼さえも、無くても・・・。
「私、も・・・そんな、イザヤール様が」
 ありのままの互いを解き放った姿が。一番愛しく、それは互いだけが知る美しいものだと。互いにそう思える幸せを、かみしめた。〈了〉
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