セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

ランチの間だけ釣りガール

2011年10月07日 23時25分18秒 | クエスト184以降
 今年も各地で順調に豊作であり、豊漁であるようだった。
 漁村であるツォの浜も例外ではなく、オリガたちの様子を見に立ち寄ったミミとイザヤールに、そのオリガは目を輝かせて言った。
「あ、旅人さん!今年も、すっごく豊漁なんですよ!私も地引き網で、けっこうお魚取ることができたんです!」
 私の取ったお魚食べてください、と彼女に焼き魚をご馳走になり、ミミたちはほのぼのと幸せな思いで村を後にした。そして、村長のプライベートビーチの方向に向かって歩いた。
「オリガ、元気そうでよかった」
 ミミが微笑むと、イザヤールもまた微笑んで、彼女の髪をなでた。
「あの子なら、これからも立派に生きていけそうだな。おとなしいように見えて、なかなか意志が強いようだ」
 彼が言うと、サンディが混ぜっ返した。
「ミミみたいに、って言いたいんデショ」
 こーゆータイプなのよね、最後には必ず欲しいものを手に入れるのって。サンディは続けて言って、楽しそうに笑った。
「それって褒めてくれてるの?」
「とーぜん」
 そんなやり取りをしながら、海岸沿いに歩いていると、低めの崖っぷちぎりぎりの場所で、釣糸を垂れている男性の側を通りかかった。商人風の男性だ。
「おお、ナイスタイミング!」
 男性は、ミミたちが通りかかると嬉しそうに言った。
「私、ここでずっと釣りをしているんですが、弁当を忘れてきてしまいまして。食事に行ってる間、釣竿見てもらってていいですか?」
 ミミはイザヤールとサンディを見上げ、いい?と目で聞いてから、男性に答えた。
「はい。どうぞごゆっくり」
 ミミはクエスト「ランチの間だけ釣りガール」を引き受けた!
「ありがとうございます、お二人さん!・・・いやあ、釣りデートもなかなかいいもんですよ~」
 男性にはサンディが見えないため、デートと思われたようだ。ミミは赤くなり、それをごまかすために慌てて尋ねた。
「何を釣っているんですか?」
 彼女の問いに、男性は少々照れくさそうに頭を掻いた。
「いや・・・実はですね私、この辺りに出ると言われている『ヌシサマー』という巨大魚に一度お目にかかってみたいと思いましてね~。こうして気長に待てば、もしかしたらかかるかな~、なんて。・・・じゃ、よろしくお願いしますよ」
 そう言うと男性は、ミミたちが止める間もなく、いそいそと行ってしまった。
「あ・・・行っちゃった・・・。『ぬしさま』、この釣竿で釣るの、ムリだと思うけど・・・」
 ミミが途方にくれると、サンディがたたみかけるように言った。
「そもそも、かからないと思うんですケド!タイクツそ~、アタシ、帰る~」
 こうしてサンディも行ってしまい、ミミとイザヤールは二人きりで取り残された。

 ミミとイザヤールは並んで腰かけ、とりあえずまずミミが釣竿を手に持った。
 釣りはレンジャー時のサバイバル特訓で経験があるとはいえ、この場所ではぬしさまどころか、他の魚も怪しかった。
 とはいえ、コツンとも当たりがなくても、好天の爽やかな陽気の中、恋人同士で釣糸を垂れているのは、なかなか悪くはなかった。むしろ、大いに幸せだと言ってよかった。
「釣り・・・楽しいですね、イザヤール様」
 ミミは、頬をほんのり染め、瞳の色を濃くしてイザヤールを見上げた。
「・・・ああ。楽しいな」
 おまえと居るから、熱っぽい男の瞳が、そう囁く。
 と、そのとき、釣竿が動いた。
「あっ!何かかかりました!・・・やだ、けっこう重いっ」
「慌てるな。釣りは、言わば魚との戦闘だ。力任せでは勝てないぞ」
「はいっ」
 釣れたのは、大きくて見事な魚だったが、もちろんぬしさまではなかった。
「そもそも・・・ぬしさまって、鶏肉好きなの?」
 餌は鶏肉なのだ。
「さあな」
 イザヤールは肩をすくめ、それから笑った。
 やがて、夕食のおかずに困らないほど魚は桶にいっぱいになり、二人は苦笑して顔を見合わせた。
「これ、どうしましょう・・・」
「彼が戻ったら聞いてみよう」
 だがその後、また何もかからない時間が続いた。
 ぽかぽかと暖かい陽射しに、ミミはいくらか眠くなってきた。彼女の長い睫毛が重く垂れそうなのを見て、イザヤールは笑って囁いた。
「私に寄りかかって、少し眠るといい。釣竿は私が見ているから」
「いえ、そんな」
 慌てて背筋を伸ばしたミミだったが、そっと肩に腕を回され、優しく引き寄せられて、幸せそうに小さく吐息した。イザヤールの胸元に頭を預けると、目蓋を閉じないで、むしろぱっちりと見開いて、グラデーションを描く濃い紫の瞳で恋人を見上げた。
 その愛しい瞳に吸い寄せられるように、イザヤールは顔をゆっくりと近付けていった。
「ミミ・・・」
 ミミははっと息を飲み、顔を赤らめ瞳を潤ませた。彼の唇を待つ為に閉じた目蓋が、その瞳を隠した。

 もうすぐ互いの唇が触れそうなその瞬間。
「お~、青春だの~」
 楽しそうな、からかうような声がした。ミミとイザヤールが慌てて顔を上げると、波間にぬしさまが浮かんでいて、二人を温かく見つめていたのだった。
「ぬ、ぬしさまー?!」
 真っ赤になるミミ、僅かに渋面になるイザヤール。
「ど、どうして・・・」
 ミミが呟くと、ぬしさまは前びれで顔を掻いて答えた。
「いや~、沖を泳いでおったら、おぬしの姿が見えたもんでの~。若いもんはいいの~とつい声をかけてしまった~。邪魔して悪かった悪かった」
 そう言って、帰ろうとするぬしさまを、ミミは慌てて止めた。
「待ってください!ぬしさまに会いたいってここで待ってた人がいるんです!」
「ん~。例のいかす格好の人間だったら会ってもいいがの~」
 それは、かつて巫女がぬしさまを呼び出すのに使ったという、装備三点セットのことだった。「うみなりの杖」「みかがみの盾」「水のはごろも」の三つだ。
「ん~、おぬしがその装備をして踊ってくれてれば、待っててもいいがの~」
「え・・・えっと、装備品袋持ってきてたかな・・・」
 あたふたしつつミミは装備を変え、結局依頼人の男性がゆっくりめの昼食から戻るまで、踊っていたのだった。

 ぬしさまは、依頼人が姿を見てあっけに取られるのを見てから、ゆっくりと海中に姿を消した。
「今のがぬしさまですよ」
 ミミが言うと、依頼人は目を丸くした。
「今のがヌシサマーですか?!あんなに巨大だったなんて!いや~、大迫力でしたな~」
 依頼人は釣竿を手に取って、しみじみと言った。
「こんな釣竿じゃムリでしたね。・・・お嬢さんのおかげでヌシサマーに会えました。ありがとう!」
 彼は大喜びで、ミミにお礼にと釣竿と、釣った魚全部をくれて帰っていった。
「あの人、最後まで『ヌシサマー』って名前の魚だと思ってたみたいですね・・・」
「図鑑に間違って載らないといいがな」
 二人は顔を見合わせ、笑った。それから、ミミは桶を見つめた。
「宿屋スタッフみんなの夕食のおかずができましたね」
 彼女は嬉しそうに呟いて、ふとイザヤールが釣竿を凝視していることに気付いた。彼は目を見開き、呟いた。
「この釣竿・・・『グリンガムの鞭』だ・・・。改造してあるが、いろいろ取ればまた普通に使えるぞ」
「え?・・・ええーっ!」
 だったらぬしさまも釣れたかもな、そう言ってイザヤールは笑い、そしてふと思い出したように呟いた。
「あ、そういえば」
 彼は、ミミを引き寄せた。グリンガムの鞭が手から滑り落ちたのも構わずに。
「イザヤール様?何・・・」
 質問は、途中で遮られた。唇が重なる直前の瞬間、「続きだ」と、ほとんど息だけの声で、彼は問いの答えを告げた。〈了〉

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2 コメント

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こんばんは (ちいはゲーマー)
2011-10-08 19:39:44
私も釣りはしたことないですね(つかみ取りは数回程やったことありますが)

にしてもぬしさまを釣ろうとした男性、チャレンジャーですね
でも宝の地図に出る宝箱にしかないグリンガムの鞭をどうやって手に入れたんだろう・・・もしかしてベテランの冒険者?

イザヤール師匠とうとうぬしさまにまでいいところを邪魔されちゃいましたね~、最後は半分不意打ちでミミさんにキスしてますが
( ^∀^)
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邪魔だらけw (津久井大海)
2011-10-08 21:41:15
ちいはゲーマー様

こんばんは☆おお~、魚つかみ取りされたことがあるんですか!それも何だかすごい気がします☆

ぬしさまにも邪魔をされ、明日は誰に邪魔されるのでしょうか当サイトイザヤール様w
邪魔が入っても負けなくなってきたようで少々怖いのですがww

確かに怪しいです依頼人。何故グリンガムの鞭を持っているのか。しかし、ロクサーヌショップで買った可能性もあります(笑)
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