今日もまた。美しい瞳が、屈託なく微笑みかける。
「おかえりなさい、イザヤール様」
喜ぶだろうか、ふとそう思ってウォルロ村から摘んできた小さな花。それを差し出すと、その濃い紫の瞳はいっそう煌めき、陰影を増して、おまえはうっとりと花を見つめる。
綺麗なものに夢中になるときのその瞳の色を眺めるのが、好きだ。その一方で・・・堪えられなくなりそうで・・・辛い。おまえは愛する者を見つめるときも、そんな目をするのか。そう叫ぶことを、堪えられなくなりそうで。
その瞳をこちらに向けてくれ。いや、向けるな。愛していると叫ぶのが先か。おまえが欲しいと叫ぶのが先か。いずれにしても、おまえを失ってしまう言葉を吐いてしまうだろう。だから・・・向けるな。
失いたくない。師が、妹が、去っていったときよりも激しい喪失感を味わうと、わかっているから・・・。
禁じられた言葉を放つ代わりに、私はおまえの髪をそっとなでる。保護者らしく、無邪気な弟子を慈しむ師匠らしく。
そう装いながら、指先からおまえのぬくもりを盗み、嬉しそうな、だが少し恥ずかしそうなおまえの顔から快楽の欠片を盗み、目を伏せた微笑みに酔いしれる。
師として最低だ。
単なる良い師であろうと、幾度となく蓋をしてきた心。それを嘲笑うように、暴れ出そうとする心。
おまえを手元に置くのが苦しくて堪らない。だが手放したくない。私が耐えればいい。それだけのことだ。この微笑みを、信頼の証の微笑みを傍に置けるのなら、どんなことにでも耐えられる。
今日もイザヤール様は、優しく笑って帰ってきてくれた。
「ただいま、ミミ」
天使界にはない、地上の可憐な花。私に差し出してくれたそれを、つい夢中になって見てしまった。イザヤール様は、本当に優しい。でも・・・花だけでなくて、差し出してくれてるイザヤール様の手も見つめているって・・・知られてしまったら、どうしよう・・・。
本当は顔も見つめていたいの。だけど・・・。今、今見上げてイザヤールの曇りなく澄んだ瞳を、強い力を湛えている瞳を見つめてしまったら・・・。気付かれてしまう。
憧れと尊敬だけじゃないと。
どうしてこうなってしまったんだろう。優秀でかっこいいお師匠様への憧れの気持ち、それだけの筈だったのに。
いつからだったろう。イザヤール様が悲しいと、私も悲しい。イザヤール様に苦しい思いをさせるくらいなら、私が代わりたい。そんなふうに思うようになってしまったのは。そして・・・
見つめていたいだけの他に、余分なものも増えてしまった。私の髪をなでてくれる、温かく優しい手に、安らぎだけでなく、鼓動が暴れるのを覚える。そんな余分なことが。
ああ、今日も。大きくて優しい手が、私の髪を滑る。髪に鼓動はない筈だけど、心臓が全身を震わせて、その震えが髪からイザヤール様の指先に伝わりそうで、とても怖い。
幸せで、ずっと続いてほしい筈の時間なのに・・・怖いなんて。そして、苦しいなんて。
苦しいのは、弟子だから、子供だと思われているからこそ、こうしてなでてくれているのだと、知っているから。でも、だからこそ・・・傍に居られるのだから・・・これで、いいの・・・。
互いの密かな熱を代わりに受け止めたかのように、小さな花は僅かにくたりと首を垂れ始めた。
「あ・・・いけない、花瓶に挿さないと」
我に返り、呟くミミ。
「小さな花だから、グラスの方がいいだろう」
イザヤールもまた我に返って呟き、手を弟子の頭から離して、背を向けた。艶やかな髪から手を離すのを、名残惜しんでいると覚られないように。
「お花、ありがとうございました」
ミミは、細いグラスに花を慎重に挿しながら、呟いた。すると、イザヤールはかすかにいたずらっぽい笑みを浮かべ、囁いた。
「ただの土産ではないぞ。何の花なのかちゃんと調べて、薬効や適正生育条件もレポートにしておくように」
「ええっ、宿題の素だったんですか?!」
あたふたするミミを見つめて、イザヤールのかすかな笑みは、温かい、完全な笑みに変わった。
そう、それでいい。気付くな、愛する女の為に、ミミ、おまえの為に手折ってきた花だと。
宿題、やっぱりそうだよね・・・。それでも・・・嬉しいです。私の為に持ってきてくださって、嬉しいです・・・。
「さあ、夕方の剣術の稽古に行くぞ」
「はい」
師弟は部屋を出ていった。残された花は、水を得て生き生きとしたにもかかわらず、二人の真の気持ちを代弁するかのように、物憂げに首を垂れたままだった。〈了〉
「おかえりなさい、イザヤール様」
喜ぶだろうか、ふとそう思ってウォルロ村から摘んできた小さな花。それを差し出すと、その濃い紫の瞳はいっそう煌めき、陰影を増して、おまえはうっとりと花を見つめる。
綺麗なものに夢中になるときのその瞳の色を眺めるのが、好きだ。その一方で・・・堪えられなくなりそうで・・・辛い。おまえは愛する者を見つめるときも、そんな目をするのか。そう叫ぶことを、堪えられなくなりそうで。
その瞳をこちらに向けてくれ。いや、向けるな。愛していると叫ぶのが先か。おまえが欲しいと叫ぶのが先か。いずれにしても、おまえを失ってしまう言葉を吐いてしまうだろう。だから・・・向けるな。
失いたくない。師が、妹が、去っていったときよりも激しい喪失感を味わうと、わかっているから・・・。
禁じられた言葉を放つ代わりに、私はおまえの髪をそっとなでる。保護者らしく、無邪気な弟子を慈しむ師匠らしく。
そう装いながら、指先からおまえのぬくもりを盗み、嬉しそうな、だが少し恥ずかしそうなおまえの顔から快楽の欠片を盗み、目を伏せた微笑みに酔いしれる。
師として最低だ。
単なる良い師であろうと、幾度となく蓋をしてきた心。それを嘲笑うように、暴れ出そうとする心。
おまえを手元に置くのが苦しくて堪らない。だが手放したくない。私が耐えればいい。それだけのことだ。この微笑みを、信頼の証の微笑みを傍に置けるのなら、どんなことにでも耐えられる。
今日もイザヤール様は、優しく笑って帰ってきてくれた。
「ただいま、ミミ」
天使界にはない、地上の可憐な花。私に差し出してくれたそれを、つい夢中になって見てしまった。イザヤール様は、本当に優しい。でも・・・花だけでなくて、差し出してくれてるイザヤール様の手も見つめているって・・・知られてしまったら、どうしよう・・・。
本当は顔も見つめていたいの。だけど・・・。今、今見上げてイザヤールの曇りなく澄んだ瞳を、強い力を湛えている瞳を見つめてしまったら・・・。気付かれてしまう。
憧れと尊敬だけじゃないと。
どうしてこうなってしまったんだろう。優秀でかっこいいお師匠様への憧れの気持ち、それだけの筈だったのに。
いつからだったろう。イザヤール様が悲しいと、私も悲しい。イザヤール様に苦しい思いをさせるくらいなら、私が代わりたい。そんなふうに思うようになってしまったのは。そして・・・
見つめていたいだけの他に、余分なものも増えてしまった。私の髪をなでてくれる、温かく優しい手に、安らぎだけでなく、鼓動が暴れるのを覚える。そんな余分なことが。
ああ、今日も。大きくて優しい手が、私の髪を滑る。髪に鼓動はない筈だけど、心臓が全身を震わせて、その震えが髪からイザヤール様の指先に伝わりそうで、とても怖い。
幸せで、ずっと続いてほしい筈の時間なのに・・・怖いなんて。そして、苦しいなんて。
苦しいのは、弟子だから、子供だと思われているからこそ、こうしてなでてくれているのだと、知っているから。でも、だからこそ・・・傍に居られるのだから・・・これで、いいの・・・。
互いの密かな熱を代わりに受け止めたかのように、小さな花は僅かにくたりと首を垂れ始めた。
「あ・・・いけない、花瓶に挿さないと」
我に返り、呟くミミ。
「小さな花だから、グラスの方がいいだろう」
イザヤールもまた我に返って呟き、手を弟子の頭から離して、背を向けた。艶やかな髪から手を離すのを、名残惜しんでいると覚られないように。
「お花、ありがとうございました」
ミミは、細いグラスに花を慎重に挿しながら、呟いた。すると、イザヤールはかすかにいたずらっぽい笑みを浮かべ、囁いた。
「ただの土産ではないぞ。何の花なのかちゃんと調べて、薬効や適正生育条件もレポートにしておくように」
「ええっ、宿題の素だったんですか?!」
あたふたするミミを見つめて、イザヤールのかすかな笑みは、温かい、完全な笑みに変わった。
そう、それでいい。気付くな、愛する女の為に、ミミ、おまえの為に手折ってきた花だと。
宿題、やっぱりそうだよね・・・。それでも・・・嬉しいです。私の為に持ってきてくださって、嬉しいです・・・。
「さあ、夕方の剣術の稽古に行くぞ」
「はい」
師弟は部屋を出ていった。残された花は、水を得て生き生きとしたにもかかわらず、二人の真の気持ちを代弁するかのように、物憂げに首を垂れたままだった。〈了〉
あっ、勿論想いが通じ合った今の二人も素敵です!!
(^∀^人)
早速ですがリクエストがあります
[イザヤール師匠がミミさんをお姫様抱っこしている]イラストを見たいです!!
あとちょっとしたお知らせ↓
今書いてる小説なんですが、[episode24]の後編と歌の話、そしてクエスト163直前のエピソードを書けばようやく再会イベントに突入する予定なのでどうぞお楽しみに♪ ←いや私よ、誰も期待してないから
枯れてきたらミミさんに押し花にして飾ってほしい
深夜の危険思想ですみません
これから運命に翻弄され、ついに想いが実るまでが語られる訳ですね!
あらすじはもちろんハッピーエンドなのは知っているのに、どうなるんだろうとハラハラです
まさに「主人公の数だけ物語があ」りますな
…あの…リクエストよろしいでしょうか……
「うちの♀主とミミさんの共演」…きゃっ言っちゃったv
以前、私のサイトでリクして下さったアレです。「書く」でも「描く」でもかまいません
何だったらうちの♂主&みそしるくんでも…
無理でしたらスルーOKですよー
あと、うちのコは肌見せも平気うわ何をするやめ
移動中におはようございます☆リクエストありがとうございます!津久井はリクエスト「お姫様抱っこ」を引き受けた!
気付けよ、って感じの二人ですが、現在のイチャつきっぷりは忍ぶ恋の反動に間違いないです・・・w
おお~、そちらはいくつかのお話を経てから、いよいよ再会イベントですね☆どんなステキな再会になるのか、楽しみです♪
移動中におはようございます再び~☆リクエストありがとうございます!津久井はリクエスト「憧れの方と共演再び」を引き受けた!
肌見せおっけーですって?!やったあ・・・はっ、何か凄まじい元天使の殺気が・・・
花になって見守りたいだなんて、しそ様なんてお優しいv間違いなくちゃんと押し花にすることでしょう。しおりか何かにして、いつも大切に持っていたりとか♪(朝からこんなテンションの津久井の方がよっぽど危険ですわ・・・)
主人公の数だけ物語が・・・まさに9の為の名言ですね☆
連作、展開バレバレですがw、オフラインでしかあまり書いてない本編ストーリーに重点を置く予定で~す。