セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

勇者の資格

2016年03月26日 10時21分42秒 | クエスト184以降
案の定翌朝になってごめんなさいー!の追加クエストもどき。ドラクエビルダーズのNPCの勇者論に共感してできた話です。書いてて楽しかった!

 まだ肌寒いが、ウォルロのスミレは花盛りで、ミミはスミレの大きな束を腕に抱え、香りに包まれてリッカの宿屋に戻ってきた。
 リッカたちにスミレを分け、自分たちの部屋に飾る為の小さな束を持ってミミが自室に戻って来ると、サンディがいつものようにソファに寝転がっているのではなく、部屋中をうろうろと飛び回って落ち着きなく待ち構えていた。ミミの姿を見るやいなや、彼女は飛びつくようにして部屋に引き入れ、言った。
「あー!やっと帰ってきたー!のんきにスミレを摘んでる場合じゃないっつーの、すぐ出かけるわよ!」
「え?え?何?」
 頼まれたクエストは全部終わらせた筈だけど?とミミは戸惑い首を傾げた。
「アタシの知り合いの親戚の友達の昔のご近所さんのバイト仲間の二、三回来た店の客の趣味友の義妹の元夫の三番目のカノジョの上司の精霊が加護してる世界が今ちょいヤバらしくてさー、魔王と戦ってくれる勇者を募集するのに、オーディションを始めるんだって~」
「お、オーディション・・・?」
 複雑な人物関係(精霊関係と言うべきだろうか)にミミは一瞬頭がぐらぐらしたが、要するにサンディにとってはほぼ他人の精霊さんが困っているらしいと理解した。
「そっ、オーディション!大概の勇者たちは、自分の世界の魔王を倒すのでせーいっぱいだからなかなかよそまで手が回んないデショ?だから平和になった世界から勇者候補を探すから協力してって言われたワケ!」
「そ・・・そんな探し方でいいのかなあ・・・」
 そもそも、よその世界のことにでしゃばって大丈夫なのかも心配だったが、ミミはラヴィエルの天使の扉の力等でちょいちょい異世界に行っているし、以前異世界からやってきた破壊神フォロボシータも撃退した実績があるので(そういえばそれも元はと言えばサンディがうっかりこっちの世界に呼び寄せてしまったものだった)、まあ問題は無いのかもしれない。
「ダイジョーブだって!ミミ、アンタは立派にこの世界を救って、今も立派に守り続けてるっしょ!もっと自信を持ちなさいって!」
「だから、そういう問題じゃ・・・」
「つべこべ言わない!さ、さっさと行くワヨ!」
「え、ちょっと待ってサンディ、オーディションはともかく、よその世界の魔王退治なんてことになったら、すぐに帰って来られないんじゃ・・・一目イザヤール様に逢わせて・・・」
「あ~それは平気へーき、こっちの世界と時間の流れ違うから、明日の夕飯までには帰って来られるしー」
「明日の夜まで逢えないの?!」
「そんなんで涙目になるなー!・・・あ、そーか、イザヤールさんも連れてっちゃえばいーんだ☆アタシマジ頭イイんですケド!」
「じゃあサンディ、せめて装備も変えさせて・・・。踊り子のドレスじゃちょっと・・・」
 と、わあわあしているところへ、イザヤールが帰って来た。市場にブランデーの樽を買いに行った帰りだったので、よりによって「きれいなベスト」姿である。
「ちょっとイザヤールさんー!なんでアンタもそんなカッコなのよー!」
「仕方ないだろう、ルイーダの酒場の店番の後そのまま出かけたのだから。すぐ帰るつもりだったし」
「ま、いいわ。さ、行くわよ勇者オーディション!」
「は?!何の話だ?!」
 結局行き先で装備替えをすればいいとサンディに押しきられ、ミミとイザヤールはそのまま天の箱舟サンディ部屋の旅の扉からオーディション会場に向かうことになった。ミミたちはクエスト「勇者の資格」を引き受けた!

 旅の扉からワープした先は、厳かなほこらのような場所だった。そして、たくさんの強そうな若者が集められていた。厳つい甲冑姿の戦士風から、神秘的なローブをまとった予言者風、質素なマント姿ながら代々伝わっていそうな宝石の着いたサークレットを着けている者等々、如何にもそれっぽい者たちが集う中で、踊り子のドレス姿のミミときれいなベスト姿のイザヤールは明らかに浮いていた。
「ねえサンディ、やっぱり着替えてから来た方がよかったんじゃ・・・」
「う、うるさいわね~!勇者は姿じゃなくってハートデショ!」
「女神の妹なのにその格好の君が言うと説得力があるような無いような」
「イザヤールさんソレどーゆーイミ!」
 それぞれの「勇者候補」もそれぞれ妖精や精霊に導かれていて、いくらか緊張した面持ちの者が多かった。緊張感に欠けるという意味でも、ミミたちは浮いていた。そこへ、小柄で愛敬のある若者が近付いてきた。妖精市場でよく見かけるホビットという種族らしい。
「ううむ、このオーディションにそのような軽装でいらっしゃるとは、あなた方、なかなかの大物では?」若者は皮肉ではなく本気の口調で言った。「はい、これ受付番号です。ありゃ、二人連れていらしたんですか、参ったな~。まあ一人の妖精さんごとの受付番号なんで、百人勇者候補を連れてこようが番号は一個だからまあいいか。じゃあ試験と面接はお二人一緒にお願いします~」
 ホビットの若者が行ってしまうと、ミミは戸惑ったような嬉しそうな顔で呟いた。
「試験と面接って・・・。でもイザヤール様と一緒なら、何があっても大丈夫そうな気がするの♪」
「そうだな。それにしても、さすがにサンディの持ってきたクエストだけあって、だいぶいい加減なような・・・」
「だからイザヤールさん、ソレどーゆーイミだっつーの!」
 と、ここで、先ほどのホビットの若者が、メガホンで一同に呼びかけた。
「ではまず一次試験です。この扉の向こうは、塔になってまーす。塔の最上階に着いてください。それではいってらっしゃい!」
 同時に重い鉄の扉が開き、「勇者候補」たちは勢い込んで次々中に入っていった。
「ほらサンディ、やっぱり着替えるヒマなかったじゃない」
「ゴメンね~、何とか頑張って~」
「無責任な・・・」
 しかし幸いにも愛用の武器はほぼ常に持っている主義だったので、ミミとイザヤールはぎんがのつるぎを握りしめて、扉の向こうに進んだ。

 扉の向こうは確かに広い塔の一階のような作りになっていて、奥の階段までには魔物がうじゃうじゃと形容したくなるほど居た。どうやら倒しても次々現れる仕組みらしく、全部倒すことを考えるより一気に階段を目指した方が良さそうだ。他の「勇者候補」たちも、次々魔物を斬り捨てて階段に向かっている。
 ミミとイザヤールは背中合わせに立つと、二人で同時にギガスラッシュを放った!
 辺りの魔物は一気に居なくなり、二人は悠々と階段を目指すことができた。ちゃっかり一緒に階段に向かう者も多く居たが、気にしなかった。
 何階か上る間しばらくは魔物の強さは同じくらいだった。ミミかイザヤールのバックダンサーよび一回でだいたい間に合ったので、二人は交互にバックダンサーよびをして上に進んだ。華麗なダンスで敵を撃退する様はとても勇者らしくは見えなかったが。また、途中でケガをしている者を見たら、手持ちの薬草を使ったり回復魔法をかけてやる余裕もあった。
 だが、最上階らしいところに来ると、勝手が違った。二人を待ち受けていたのは、巨大な二匹のドラゴンだった。
「一人に対してドラゴン一匹ずつみたいヨ。ここまで運や人任せだった勇者候補は、ここで振り落とされるワケ。ヤバくなったらアタシたち連れてきた美少女妖精や精霊たちが一階まで戻すから、命は大丈夫だけどその時点で失格だから、頑張んなさいよ!」
 そうサンディに言われ、ミミとイザヤールは互いに頷き、それぞれのドラゴンに向かっていった。間違いなく火を吐くだろうから、軽装なのが改めて悔やまれる。
 バトルマスターで攻撃力が高いイザヤールは、テンションバーンを発動し、防御より攻撃優先で一気に勝負を着ける作戦に出た。一方旅芸人で攻撃力にやや劣るミミは、「しんとうめっきゃく」でドラゴンの息のダメージを減らし、回復魔法も使って根気よく戦う方を選んだ。
 イザヤールはいくらかの火傷や咬み傷などを負いながらも、スーパーハイテンション状態で発動したドラゴン斬りで間もなくドラゴンを倒した!そしてすぐにミミを手伝おうとしたが、見えない壁に阻まれて行けなかった。だがミミの着実な戦闘を見て彼は落ち着いて待ち、その間にポケットの中の特やくそうで傷を治した。しばらくしてミミもドラゴンを倒した!
 ドラゴンが消えると見えない壁も無くなり、二人は互いに駆け寄って、改めて互いの無事を確認した。サンディが居るのでキスは我慢したが。
 すると最上階にあった扉が開いて、先ほどのホビットの若者がその奥に居た。
「一次通過おめでとーございまーす。ではこの奥で面接でーす」

 面接の部屋は、厳かな神殿というより宿屋のラウンジのようで、美しい女性たちが座っていた。精霊や神様のようなポジションの者たちらしい。
「精霊なんだから隠し事してもムダよ!質問は全部しょーじきに答えるのよ!」サンディが囁く。
 さっそく質問は始まった。
「お二人は、勇者の家系ですか?」
「え、いえ、その・・・元天使の人間なので・・・」
「人の子で無いから、家系も何も無い」
 想定外の回答だったらしく、精霊たちは戸惑っていたが、一人が咳払いして次の質問に移った。
「勇者の魔法、デイン系は使えますか?もしくは使える見込みはありますか?」
「ギガスラッシュとギガブレイクは使えますが、ギガデインという呪文は知らないです」
「頑張ればライデインくらいは可能かもしれないが断言はできない」
 勇者にしか使えない剣術ギガスラッシュが使えるのかと驚いた顔で精霊たちはひそひそ囁き合っていたが、続いての質問に移った。
「では最後の質問です。魔王が、自分に従えば世界の人間の半分は助けてやる、だが逆らうなら全て滅ぼすと言ったら、あなた方はどうしますか。ちなみにその時点で、あなた方が魔王に勝てる可能性は著しく低いと仮定します」
 これは難問だった。全て滅びるなら、半分残った方がまだ希望はあるのではないか。自らの信念や誇りの為に、全ての人間の命を賭けるなど、エゴイズム以外の何物でもないのではないか。ミミとイザヤールはしばらく考え、やがてイザヤールが、強い光を目に湛え、答えた。
「私は、魔王と契約するという賭けはしない。欺かれるか破られると思って間違いなかろうからな。状況が絶望的ならば、こちらとてどんな卑劣な手段を使ってでも、こちらが魔王を欺いてでも、半分ではなく全てを救う道をもがいて探す」
 ミミも静かに頷き、言った。
「きっと魔王は、半分はおまえの友、知り合いを選ぶとよいと言ってくるでしょう。でも、私の知らない人々にも、家族、愛する人、友達が必ず居る。たまたま知り合わなかったというだけで、そんな人々を犠牲に選ぶなんて選択は、私にはとてもできないの・・・。私は、そんなに強くない。私にできることは、イザヤール様と同じ、全てを救うと諦め悪く足掻く、それだけ。でも、最後の最後まで足掻いてみせます」
 それからミミは、精霊たちに言った。
「私はたまたま世界の滅亡を食い止めたけれど、それは選ばれたからではなくて、たまたまそうなっただけなんです。私が、これまで会ってきた人々の誰か一人でも欠けていたら、きっと私は世界を救えなかった。勇者というものが元々居て世界を救うんじゃない、諦めずに愛する人々を守ろうと行動を起こす人はみんな勇者なんだ、私はそう思っています」
 精霊たちは呆気に取られていたが、やがて微笑み、言った。
「お疲れさまでした、これで試験は終わりです。結果は追ってお知らせしますね」

 結論から言うとミミとイザヤールは勇者に選ばれなかった。後にその世界の魔王を倒したのは、種族関係なく自分のトモダチみんなを守りたいと決意した、一匹のスライムだったという。
「スライムが勇者かい!それならアンタたちの方が充分勇者じゃん!」
「サンディ、勇者は資格じゃなくて、成せた者が勇者なのよ」
 ミミはクエストのお礼のごうかなチョコをつまみながらそう言って、にっこり笑った。〈了〉
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