事務屋のひとり言

東京都の事務員のひとり言です。

お金の使い方(その2)

2005-09-07 | 都立大四方山
就職カウンセラーと学修カウンセラーの話をもう少し詳しくします。
それぞれ特に試験を受けてなるものではありません。書類審査と面接です。

「自分のなりたい職業がわからない」「自分に合った職業ってなんだろう?」
そういった働く意識の希薄な今の学生に、カウンセリングをして将来の道を広げていこうというのが配置主旨です。

一見現在の東京都が抱える問題を、改善する糸口となる妙案に見えますよね。

しかし実態を見ると、必ずしもそうではありません。
まず、都立大の学生が就職の際に抱える問題の多くは、「希望の職種に雇用がない」「希望でないものでも雇用がない」というものが圧倒的です。
割合で行くと、9割ぐらいがそうだと思います。
学生のニーズに合致していないカウンセラーを5人も置いても、あまり効果的運用は出来ないでしょう。

実際に学生が欲しい情報は、
「自分のなりたい職種にどんな資格が必要か?」
「資格を取るために、どんな講義を受けなければならないか?」
「雇用のある職種に、どんな資格が必要か?」
など、もっと実践的なものです。
特に「どんな資格にどんな講義が必要か」というまさに教務的な問題は、就職カウンセラー方も知識がありません。
『カウンセラー』と名前がついていても、臨床心理士の資格があるわけではありませんので、やってる方も手探りの状況です。

これが3年ほどいて、学生に合った知識、教務的な知識を持ってくれば変わると思いますが、ここで年俸制が足を引っ張ります。
要するに「年俸制」という単年度契約ということは、雇っている側にも「来年いるかわからない」ということになります。
へたをすると毎年毎年人が変わって、4月になる度に何も知らない新人カウンセラーが窓口に立つ可能性もあるわけです。
これでは、いつまで経っても学生にとって意味のあるシステムにならないでしょう。

7月頃から、就職カウンセラーの方でも、ポスターを貼ったり、学生を使って構内アナウンスを実施したり、様々なことをしていましたが、カウンセリングを受けるということへの抵抗感と、浸透の薄さで思ったような成果が上がっていません。
学生側に有効なシステムにするには、学生側からも、積極的に自分に必要な情報を要求していくことが必要でしょう。

さて学修カウンセラーの方は、もっと大変です。
学修カウンセラーが今どこにいるか、知っている方はどのくらいいるでしょうか?
おそらく、見たことさえいない人が100%だと思います。
事務側も知っている人は、半分くらいでしょう。

学修カウンセラーは、実は学長室にいます。
学長室とは、南大沢キャンパス本部棟の2階、ガラス扉のその奥にあります。
ガラス扉で想像できる通り、企業の重役室のような雰囲気です。

なんで学修カウンセラーがこんなところにいるのでしょうか?
事務側では「あそこはコネ職だよ」という噂があります。要するに「縁故採用枠」ということですね。
でも一応専門職扱いですから、バカにならない給料を払っています。
もちろん東京都にどこでもこんな「コネ職」があるわけではありません。実際都立大にこんな部署はありませんでした。
「学修カウンセラー」という名前なのに、絶対学生が来ない場所に事務室があるなんて、こんなウルトラCは普通は無理です。

今学修カウンセラーが何の作業をしているのかは不明です。
とにかく最低でも、普通の窓口がある場所に下りてもらわないことには、有効なシステムにならないと思います。
新組織は、いずれも学生向けの組織ですので、学生の力で有効にも弊害にもなりえるわけです。

これから東京都の事務員はどんどん減って、どうやって採用されたのか全くわからない人が、ぞくぞく溢れる状況が押し寄せるでしょう。
「公務員でなくなれば、もっとサービスよくなるはずだ」と考えている人がいたら、その方は甘いです。寮長も学修カウンセラーも首都大職員であり、東京都職員ではありません。

それでなくても、各事務組織は管理本部の手によって、図書館のように権限と区分けが引っ掻き回され、ガタガタの状態です。
見た目、去年通りに動いているように見えるのは、今いる事務屋の奮闘によるものであり、手が回らずこぼれた場所からは、学生にとって不便になったり連絡遅延が発生したり、弊害が出ています。
東京都職員は残念ながらみんな異動届を出していますので、これからはどんどん悪くなっていくでしょう。

そうなる前に「首都大職員を鍛える」必要があります。
事務側もやっていますし、学生の皆さんも首都大職員に自分達の要望を積極的に発言していってください。
そうしなければ、本当の意味で大学は大変なことになっていってしまうでしょう。

お金の使い方

2005-09-02 | 都立大四方山
未来塾で入ってきた学生は、都立大の学生寮に全員入る「全寮制」となる。
当初の構想ですが、このご時勢そんな話が通るわけもなく、なし崩しになってしまいました。
どうも昔の「車座に座って、みんなで日本の未来を熱く語る」的な発想が背景にあったようですが、無茶な話です。
ただ、寮長さんをわざわざ雇って、その人のありがたいお話を全員で聞くというオプションは実行されました。

ところがこの70歳を超える寮長さんが最初いらっしゃいませんで、事務側は慌てました。なにしろ年俸1000万円を超える高給職です。
ただでお金をあげているなどと、問題になったらたまりません。

事務側が奔走し、なんとか出てきてもらうようになったのですが、今度は寮生に説教する内容に問題が出てきました。
「ジェンダーを言う奴は、マルクス主義者だ」
「女性は大学を出たら、フラフラしないで結婚して子供を生まなければ、社会の損失になる」
今時物凄くわかり易い男尊女卑の思想です。そのせいなのか、寮生も理由をつけてこの「寮長のありがたいお話」に出ない人が多くなっています。

ジェンダー研究の第1人者と言われる江原先生が在籍する大学で、「ジェンダーを言う奴は、マルクス主義者だ」も何もないでしょう。
生協では江原先生の本が売っていて、「キャンパスにはびこるジェンダーハラスメント」なんていう項目のある本が書架に並んでいるのです。
いくらなんでも、金額に見合った効果が出ているとは思えません。

似たような事例で、就職カウンセラーと学修カウンセラーがあります。就職カウンセラーは5人、学修カウンセラーは3人です。
こちらも専門職なので、年俸1000万円までは行きませんが、相応の額を1人あたり払っています。合計すると結構な金額になりますよね。
「なんだ金がない、金がないと言ってなかったっけ?」と誰でも思うでしょう。
しかも彼らは素人です。何の素人かというと、大学の素人ですね。

就職カウンセラーに「自分の単位は足りているか」とか、「この資格を取るためには、あと何が必要か」などの「教務」に関する知識はありません。
また就職に関する情報も、資格や現在の企業ニーズに関する情報収集は、カウンセラーの仕事の範疇から外れています。

つまり従来の窓口の方が、よほどその知識の蓄積を持っているのです。
団塊の世代と言われる方々の退職が、今後5年間ぐらいで山を迎え、都立大でも大量に退職する方が出ます。
教務を担当していたそういったベテランの方々を再雇用した方が、よほど安上がりだし、結果も早いでしょう。

ただし、従来の窓口では「自分は卒業できるのか?」といった質問には、即答しないようになってました。個人個人で違う上に、卒論が必須かどうかだけでも全く違います。
今まで窓口では「ホームページからも確認できますので、まずそちらで確認して、履修の手引きを見ても「わからない箇所」を質問してください」としてきました。
これは不親切だと感じる人もいらっしゃると思うので、そういう点を専門に受ける窓口があるのは、学生にとってとても助かるでしょう。

また「大学生活がうまくいかない」「友人関係の悩みがある」など、本当にカウンセラーが必要な問題もあると思います。
そういった対応のために、1人か2人はカウンセラーが必要でしょうが、5人も10人も必要だとは思えません。

まだ動き出して、いくらも経っていませんが、寮長の問題も、カウンセラーの問題も、人材と金の使い方が圧倒的に間違っていると思います。
もっとも大学を知らない人たちが、新宿で考えた案が元ですから、机上の空論のお手本みたいなものですけどね。

単位バンクの件でも、一橋大学と単位バンクで合意を取れ、と無茶な指示が出て担当部署は大変なようです。
以前説明したとおり、単位バンクは相手大学にメリットがありません。
受ける大学は、これを機会に大学の知名度を上げようとする言わば「格下」の大学以外ありえない仕組みです。
そういうある意味「常識」を理解できない経営側の感覚を、どの段階で修正できるかが、今後の課題と言えそうです。

人文社会系研究スペースとは?(その2)

2005-08-20 | 都立大四方山
院生会から出された要望書は以下のようなものです。
1 当該「研究スペース」ならびに学科管理図書の対外貸出しスペースについて、「人文科学研究科専管スペース」としての立場を貫くべきである。

2 図書バイト院生に対する退職勧告の際に明らかとなった、院生の思想、信条、結社の自由に関わる、図書館の差別的姿勢・発言に対し、教授会として断固として抗議すること。

一方の言い分だけ載せるのもなんなので、図書館側にも聞いてきました。
要約すると、「図書館スペースとしたのは、人文学部の意向である」。
都民開放を学部レベルでできるなら、図書館はいつでも引き下がると言うのです。

ということは、図書館側の理解はどうなっていたのか?
もともと「都民開放」から始まる流れは一緒です。
でも人文には開放するための予算がありません。鍵を閉めるだけでも人がいるわけですから、これは致命的です。しかし傾斜的配分のせいで、現状の研究費の確保もできない状態です。

議論が進む中で、どうも開放の事務作業を「助手にやらせたら?」と言う先生がいたそうです。しかし助手側は、いつ来るかもしれない都民への貸出しや管理を行うことは不可能だと拒否しました。確かに事務員として助手を雇ってるわけじゃないから当然です。

それで出てきたのが、図書館管理とすることで図書館の予算で司書を雇い、開放する案です。
もともと「文系共通スペース」として理解のある場所ですから、図書館が代表して管理することに他の学部の異論はありません。
そういう経緯があって、向かって左を「人文研究スペース」、右を「図書館スペース」として分け、運用が始まったと言うのです。真ん中のパーテーションで仕切られている意味はこんなところにあったんですね。

この経緯を見ると、図書館の悪者扱いは甚だ不本意なことになります。逆に感謝して欲しいぐらいでしょう。

そんな関係でやってきた年配の司書の方は、これまでの司書経験も豊富な方でした。ほとんど書庫と言うより、倉庫状態の人文書庫を見て、これをなんとかしてやろうと思ったらしいです。
学科事務室に管理の仕方の新しい提案や、運用方法に対して意見を言ったのは、そのせいでした。
しかしこれが学部書庫への図書館の介入のように取られてしまい、辞める辞めないの騒ぎになってしまったようです。

法学部や経済学部の図書室の管理は、それぞれの学部で行われてきました。最近は図書館一括管理を望んでいるそうですが、法学部の図書室には専門の助手を置くなど、予算的手当てをしてきて今に至ります。
それなのに人文だけ、何の予算的措置をせずに権利だけ主張するなんて、土台無理な話です。

ただ、「人文研究スペースとしても使用する」点については大学管理本部も了承していたそうです。だったら予算措置もしてくれればいいのに、と思いますよね。
そういう片手落ちなところが、いかにも大学管理本部です。

結局要望書の(1)は、以上の理由から、予算もないまま「じゃあ後は勝手にやってね」と放り出される可能性があるので言えない状況ということになります。

それでは(2)はどうでしょうか?
これは意思疎通の問題ではないか、と言ってました。
どいうことかと言いますと、「開放スペースのアルバイトは院生会の選定に任せる」という理解が図書館にあったためです。
アルバイトをいちいち最初から募集するより、院生会に任せて提出された書類を処理していた方が簡単です。
私が聞いた限り、図書館側は予想以上に引き上げる気満々でしたから、人文の自立管理を促すためにも、院生会に任せることは願ったりかなったりということでした。

にもかかわらず、図書館側が、「院生会と関係が深い」ことを理由に退職勧告をするというのは、全く逆の発想です。
どこかに「言いすぎ」があったか、「認識の間違い」があったかして、こじれてしまったのではないでしょうか?

大学管理本部にいろいろやられてヒイヒイ言っているのは、図書館も同じです。
都立大時代は、図書館長はれっきとした評議会の一員で、商議会(図書の選定や図書館の運営などを議論する学部代表者の会議)の中で事務側の意向を反映していく重要な役職でした。
今、図書館長(センター長)は誰だかご存知でしょうか?

なんと学長兼任です。
教員の影響力を排除する目的だったらしいですが、ご存知の通り学長は週に2、3回来るだけ。来ても本部棟の学長室にしか入りません。つまり図書館には全く来ないのです。
事務側の運営方針を反映するどころか、会議にも出席できず、できた書類に印鑑を押すだけの状態です。これではまともに本の購入も出来ません。(図書館長決済の購入もたくさんあるのです)

如何に「学長を絡ませない」事務手続きをするか、実効性のある事務体系を作るかで、今でも図書館はガタガタとやっています。
そんな状況で図書館が、いきなり開放スペースの管理意識に目覚めたというのは、経緯を見る限り信じられない話なのですが。

この辺は当事者でしかわからない問題もあると思います。(2)の要望についても、教授会側がすぐに動くということは難しいでしょう。

結論として院生会の要望が叶うのは、難しい状況です。あまりヒートアップせず、冷静に対処した方がいいのではないでしょうか?

フランス語は失格か?

2005-08-11 | 都立大四方山
都知事の発言をめぐって、訴訟騒ぎになっていることはご存知の方も多いと思います。
「Tokyo U-club」設立総会での発言で、「フランス語は数を勘定できない言葉だから国際語として失格」と言ってしまったことが発端です。
さらに「東京都が設立した首都大学東京で、フランス語の受講者はいなかった」とか「文句があるならフランス政府に言えばいい。政府がどういう対応をするかは分からないが」
などとももおっしゃったらしいです。

発言を突っ込まれると、さらに過激な発言に出るのは、我が都知事の癖らしいのですが、それにしても「フランス語の受講者はいなかった」というのは、どこから仕入れたネタなのでしょうか?
首都大の外語選択で、「フランス語の受講者はいない」なんて事実はありません。
「受講者の少ない授業」ならあります。しかしそれはどの教科にもある話ですね。

大学改革に言及するたびに、なぜか独文と仏文が槍玉に挙げられるのですが、他大学に比べて都立大の独文と仏文は非常に人気があります。
単位互換制度によって、中央大学や東京外国語大学などと交流がありますが、特に心理と仏文の授業は他大学に非常に人気で、毎年たくさんの学生が受講にやってきます。
独文は留学の方が盛んで、ウイーン大学から毎年学生がやってきますし、都立大からも毎年留学に行きます。

改革に揺れるある日、夜勤当番のときに、仏文を希望していたという他大学の学生の電話を取ったことがあります。その方は都立大の仏文に合格するべく、ずっと勉強してきたそうですが、こんな状況になったので、受験を諦めると言うのです。悔しさのあまり言葉が震えるその電話を受けて、初めて今の事態の深刻さを理解した気がしました。
自分ではそんなつもりはなかったのですが、まだ他人事のように、理解していたのかもしれません。
とにかく都立大仏文専攻のことで、悔しい気持ちを言うために電話をかけてくる人がいるという事実は、私には非常に重く感じられました。

さて訴訟はこれからどうなるのでしょう?
都知事は「文句があるならフランス政府に言えばいい。政府がどういう対応をするかは分からないが」とおっしゃったようですが、この問題はそう簡単に終わらない可能性があるのです。

というのも、訴訟を支援している団体に、フランス外務省の外郭団体が混じっているのがわかったからです。
この団体は海外の国にフランス語の普及と地位向上を目的に活動してまして、かなり強力な団体です。
都知事はフランス政府に言え、と息巻いていますが、実は既に表に現れていないだけで、今回の件は外交問題と化しています。

都庁もこの情報を掴んでいるようで、発言直後の7月14日に、発言を裏付ける資料の提出を事務側に言ってきました。
しかし既に書いたとおり、発言を裏付ける事実はありません。最後には知事本部が直接確認の電話を入れてきたようですが、「ないものはない」と答えるしかありませんでした。

これから先どうなるかわかりませんが、相手がただの在日講師陣だけではありませんので、おそらくほとぼりが冷めた頃に発言の撤回か、かなりの発言修正が行われるのではないか、と見ています。

人文社会系研究スペースとは?

2005-08-07 | 都立大四方山
理工の方が知らない場所のひとつに、「旧就職資料室」と言う場所があります。
人文棟(おっと今は5号館ですね)1階と法学部(4号館)の間にあるガラス扉の部屋です。

この「旧就職資料室」の使い方をめぐって、今少々問題が起きています。

私の知る限りの経緯を書きましょう。

実は法学部や経済学部には、独自の図書室と共に、机が並んで勉強できるスペースがあります。図書館の勉強スペース(キャレルと呼ばれています)と同じ、というか空調の効きがいい分、よっぽど図書館より勉強しやすい場所です。

この勉強スペースが人文にはありません。実は理工にもないんですが、その代わり実験設備用スペースが広くあります。工学部の実験棟は一時期「サティアン」などと、嫌あな名前で呼ばれていました。

さてこのスペースの考え方は、実は移転当時にまで遡ります。

法学部・経済学部 : 教員研究スペースとして共通図書スペースを確保。
人文学部 : 個々の学科、専攻の「独自書庫」を確保。

つまり今は学生も使ってる法経の勉強スペースは、元は先生のためのスペースでした。移転時には、学生の研究スペースという発想は、全くなかったのです。
しかし時を経て、学生にも解放され、法経は今のような状況になりました。

事態が動いたのは2004年夏ごろです。この頃から、研究費購入図書の開放というのが、盛んに議論されるようになりました。
人文所属の書庫に関して最初の案は、「都民も含めた開放」ということで、完全開放が持ち上がりました。

しかしこれには様々な反対意見が出ました。
先生からは研究活動の障害になるとして。
そして事務側からは、書庫の入退出管理が不可能だとして。

研究費も元は税金だ。開放して何が悪いと言うことは出来たとしても、事務側の反対を覆せる人はいませんでした。
つまり、ただの書庫なのです。もっとはっきり言うと、「倉庫」です。単にそこに本が入ってるだけですね。なにしろ空調管理すらしていませんから。
本来の意味の書庫なら、本が傷まないよう温度湿度の管理は絶対ですが、人文の書庫はそれすらしていません。夏熱く、冬寒い、ただの倉庫です。

オートロックの扉が各階にあり、書庫はその階に独立しています。中に入ってから1階上に行くとか、下に行くとかもできません。専攻独自の図書を保管するために作られてますから、各階の連携なんて考える必要がなかったのです。

ですから本の盗難対策はゼロ。これからやるにしても、それぞれ分断されて両端にあるドアに警報をつけるだけでも、相当な金額がかかるでしょう。

さらに事務側が激しく言ったのは、「事件が起きたらどうするか?」でした。
天井は低く、書棚が並んでいて死角はあっちこっちにあります。書庫ですから、窓は船の窓みたいな小さなものがついてるだけですし、さらに窓と研究室の間には1階から貫く吹き抜けがあります。
ですから書庫で何者かに襲われて叫び声を上げても、誰にも絶対聞こえません。
幸い今まで何も事件はありませんが、起きたら大変です。「お金がないので、対策をしませんでした」では、誰かの首が飛ぶでしょう。

結果、それまでの就職相談室をつぶしてそこを「図書館管理スペース」とし、司書が要望の本を探して持ってきてあげると言う案が出ました。
事務側はこれでも相当非現実的な解決案だと思ったのですが、司書を図書館が手当てする予算がついてしまい、動き出すことになりました。

ここまでが事務側から見た経緯です。

2005年4月から司書が本当にやってきて、図書スペースとなるための整備が始まりました。
しかし図書館がやる気になったとしても、そう簡単に人文書庫の開放なんてできるわけがありません。人法経の事務室では、図書館のお手並み拝見と一歩引いた形になりました。正式ではないにしろ、図書館管理スペースとしての認識が事務室側にできたのはこのためにです。

ところがある日、この旧就職相談室の扉に、「人文・社会系図書室」と張り紙がされました。
まだ共通スペースという理解の法経の先生は怒りました。事務側もびっくりです。
原因は、人文学部院生会が、かねて要求していた「研究スペース」を、この場所に確保するとそういう理解でいたためでした。確かに人文教授会で何度かそんな話は出ていました。しかし「研究スペース」として確保したという結論には至っていなかったようです。

つまり図式はこうです。
○認識
人文院生会 : 念願の研究スペース。
法学部、経済学部 : 書庫開放に向けた図書館管理スペース
事務側 : 書庫開放に向けた<暫定>図書館管理スペース

さらに図書館の司書が院生と衝突。司書が辞める事態が起こります。
事態が俄然きな臭くなってきました。

○学生向けの「研究スペース」に対しての反論
法学部、経済学部 : あそこは就職相談室の頃から、人法経の「共通スペース」である。それに移転時、法経と違い人文は研究スペースを要求していない。
図書館 : 図書館管理スペースであり、人文の研究スペースではない。
事務側 : 図書館は暫定的に管理しているだけなので、図書館スペースという断言はやめて欲しい。

さて、では人文教授会執行部はどうしようと思っていたのか?

人文教授会執行部 : 「研究スペース」を言うと、法・経の反対があるので、まず「人文書庫開放スペース」として確保し、学生利用は「運用で行う」。(もともと法・経が先生用のスペースだったのが、時と共に変わったのと同じで行く)

そして「人文書庫開放スペース」としての利用は、まだ法・経に理解を求めてる最中でした。
でも両学部はなんだかんだ言いながらも、認めると考えられています。
なぜなら、書庫の開放に乗り気でないのは、法も経も一緒だからです。
これを認めないで、「場所のない人文より、場所のある法・経から開放しましょう」なんてことになったら、非常に困ってしまいます。

ですから南雲部長のシナリオは、

①「人文書庫開放スペースとして、法・経を納得させる」
   ↓
②「人文のスペースなので、司書の予算を人文につけてもらい、図書館には出ていただく」
   ↓
③「人文で図書開放スペースを確保し、研究スペースとしても『運用』する」

 こんな感じだったはずです。①は目前。②はちょっと難しいけど、事務側は図書館管理スペースとして認めてないので、もって行き方次第。③は「運用」だから問題なし。

これで事件が起きたり、混乱しなければ良かったんですが、実際事件は起こり、研究スペースの『野望』が前面に出てしまいました。
まず「研究スペース有りき」では、法・経の納得も、書庫開放に絡む図書館の排除も、ままならないでしょう。
これからの舵取りが大変な状況です。