ものつくりおじさんの制作日誌

ものつくり大好きおじさんがいろいろなものを作っていきます。

【革細工】ICカードケースを作る。

2023年06月06日 | レザークラフト

最近は溶接の話ばかりで、久々のレザークラフト記事です。

知人からICカードケース(ホルダー)の依頼を受けたので、それを作っていきます。よく社員証とか首からかけている、あれです。ネットでいろんな種類の売り物を見て、アイデアをいいとこどりしていきました。CADでとりあえず設計して印刷→厚紙に貼り付けます。

厚紙でサンプルを作っておくことは重要で、実際に組み立ててみてサイズ感を確認します。特にマチのない構造のものは縫い代を多めに確保しないと「カードがギチギチで入らねぇ!」みたいなことが起きます。

型紙が問題なければ、今度はトコ革で試作をしてみます。この工程は不要ですが、余裕があれば作ったほうが失敗せずに済みます。

トコ革(床革)というのは、革を薄く漉いたときに出る残り部分です。原革を漉くと銀面と床革に分かれます。トコ革は繊維が荒く、耐久性も落ちるため革作品にするには不向きですが試作にはちょうど良い素材です。

トコ革の1.5㎜厚でサンプルを作ってみました。本番でも1.5㎜を使う予定なので、この試作で実際に作る物を確認できます。ここで問題点を探して、本番で改善していきます。ちなみに今回は、背面のリングを留める革が切りっぱなしなので本番で改良します。

いよいよ本番の革でつくっていきます。キャメル色のヌメ革を使います、写真撮るの忘れたのですでにパーツサイズに切り出しています。ミンクオイルを塗って作業前に保湿をしておきます。

試作したときに革の裏面(トコ面)がむき出しだったのが気になったので、トコ面に豚革を貼り付けることにしました。豚革は0.8㎜くらいで薄くても強度があるので、裏張りにちょうど良い素材です。接着剤はサイビノール(いわゆる木工用ボンドと同じ)を使っています。

サイビノールが乾かないうちに手早く貼って、ローラーで圧着し革を一体化させました。

次に革からパーツの形に切り出しますが、ここでのコツは、R部分はあらかじめハトメ抜きで穴を開けておくことです。Rをカッターで切り抜くのは難しいので、ハトメ抜きの綺麗な丸穴を利用します。それをカッターで切るとこうなります↓

綺麗に切り抜くことができました。基本的に丸い部分はできる限りこの方法で抜くとガタガタしにくいです。

このパーツは前面の透明窓なので、透明部分のパーツを作ります。これは専門の部品があるわけではなく、ホームセンターに売っている長さ量り売りのテーブルクロスです。透明クロスは厚みもいろいろ選べて、UVカットや汚れにくい機能がついているのでめちゃいいです。しかも1mで900円くらいで売っているのでお得です。

貼り付けは両面テープ(手芸用の細いやつ)を使って仮止めしました。ステッチンググルーバーで縫い線をつけて、縫いの作業に入ります。

縫い穴は菱目打ちを使いますが、穴自体は菱ギリを使ってスコスコ開けます。菱ギリを使うと縫い穴を小さく開けることができるので、絶対に菱ギリを使ったほうが良いです。初心者は菱目打ちで無理やり穴を貫通させようとして大きな穴になるので、ステップアップするなら菱ギリを購入することをお勧めします。

透明窓は糸につけた蜜蝋などで汚れやすいので、縫う前にマスキングテープを貼って汚れ防止をします。透明窓を両面テープや接着剤だけで留めるのは不可能ではないと思いますが、耐久性の面で心配しかないので絶対に縫い付けます。

縫い終わったパーツは本体部に接着します。このとき、接着剤の密着をよくするためにヤスリで革の両面を確実に荒らしておきます。

さて、次は背面パーツを仕上げていきましょう。

背面パーツはシンプルなので、上部に飾り捻を引いておきます。捻というのは、まぁただの線で、あると立体感が出ます。見た目以上の効果はあまりありません。フチ捻という捻引きのための道具がありまして、これをアルコールランプで炙って温めてから線を引きます。右利き用の道具を左手で使うので、逆さに持って引きます。左利きのつらいところね・・・

次に金具を取り付けていきます。D環を付けるには縫い付けるか、カシメで留めるかを決めます。このパーツは一番負荷がかかる場所になるので、絶対に外れてはいけない場所です。縫い付けても強度は出るのですが、やはりカシメを使ってガッチリと留めるのが一番強度が出ます。というわけでハンドプレスを使ってカシメを打ちます。

裏側はこんなかんじ。ちょいズレしてるが…強度は問題ありません。やっちまったなぁ。もうガッチリ嵌ってるので取れません。

全ての下準備が終わったので、背面パーツを接着します。両面を荒らしたあとでサイビノールを塗り、しっかりと圧着します。

ボンドがしっかり乾いたら、断面を整えていきます。綺麗に貼れているように見えても、切断時の微妙な誤差や接着時のズレがあるので段差ができています。その段差を革包丁で削って平らな面にします。革包丁じゃなくてもカンナを使ったり、ヤスリで地道に削っていっても同じことができます。

段差を削っていくと、こんな感じになりました。目の細かい紙やすりをつかって、綺麗に断面を整えます。そのあとは角が尖っているので、革包丁で切り落としてRを作っていきます。

角が取れて自然なRになるように紙やすりの300番、1000番で整えます。ヘリはしっかりとヘリ落としで削って、どこにもバリが無い状態にします。

ステッチンググルーバーで縫い線を付けるのですが、この際に水で湿らせてあげると、しっかりと沈むような縫い線が引けます。理想は縫い糸が革の中に埋まることです。革よりも上に縫い糸が出ていると摩擦で糸が切れやすくなるので、やはり革に糸が沈んでくれるのが望ましい形です。

縫い穴を開けた後もしっかりと水で濡らして、糸を革に沈めるように縫っていきます。ただ、あくまで理想であって、必ず実現しないといけないわけではありません。適度な力加減で、締めすぎないように縫い進めます。

縫い終わったあとはコバ処理をします。断面がガサガサなので、コバ処理剤(トコノール)を使って磨いていきます。トコノールはふのりとワックス成分の混合で、コバを固めてツヤを出してくれます。

コバ処理が終わったら、ミンクオイルをつかって油分を補給してあげます。ミンクオイルは耐水性も付与しつつも、革の色を損ねないので良いです。指で塗って、ウエスで拭き取って完成です。

というわけで、今回のIDパスケースは完成です。こういうシンプルなものでも、意外と手間がかかるんですよね。手を抜こうと思えばいくらでも抜けるし、コストダウンしようと思えばいくらでもできるんですが、簡単なものほどしっかり作りこんであげるのが革細工のステップアップにつながります。例えば今回だと、裏張りとして豚革を使うところであったり、飾り捻を引くことは、実際に機能としてはいらないわけですが、作品の完成度を高めることにつながります。

実際にカードを入れるとこんな感じになるよ。

ほな、また。



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