あしたへの糧

週末のできごとを中心に書き綴ります

チンネを目指せ!3

2022年08月11日 | 山歩きのこと

7月25日

夜中、雨粒がテントをパラパラと弾く音がした。

明け方、Yさんがやって来て「天気が早い時間から崩れ始める予報に変わった」と告げた。テントの中から外を覗くと星は出ていない。

とりあえず朝飯食って今日の行動を考えようか。

 

 

作戦会議は、ただでさえ状態の悪い雪渓を雨の中で下るのは大変だ。日程に余裕はあるので停滞する手もあるが明日以降ずっと天気が良くない。苦労して担いできたロープやギアを使わずに下るのか・・・。などなど

結果、八ツ峰の6峰Cフェースを時間の許すまでクライミングして剱沢まで戻ろうかということになった。

 

 

4時50分、全部撤収して熊の岩を出発。熊の岩からCフェースの取付へは長次郎谷右股をトラバースする。出発直後の雪渓は登ってくるときはどうにか登ってこられた所が下るには斜度がきつ過ぎて滅茶苦茶怖い。

アイゼンを引っ掛けて転ぶようものならただでは済まないことが容易に想像できた。時間をかけてピッケルで確実に支持しながら下りた。

 

 

 

300m弱をトラバースするのに50分掛かった。無事に着いてほっとした。

 

 

 

ゆっくりしている暇はない。クライミングで使わない物を岩陰にデポしてすぐにCフェースに取り付いた。Yさんトップ、Kさんと自分がフォローで行く。

 

 

 

 

 

 

日が照らないと寒い。日光のあるなしで気温差がこうも違うのか。先ほど北方稜線をじわじわと覆い始めていたガスがとうとう目の前まで迫ってきて、Yさんはガスの中に消えて行った。

 

 

 

Yさんからの無線指示で登り始める。難しくはないが浮石が多いのに気を使う。なんとか岩を触れられたことで苦労して担ぎ上げたクライミング装備が無駄にならなかった。(と自分を納得させられる。)

 

 

 

1ピッチ目終了点。ここでついにポツポツと雨粒が落ちてきた。視界も全くない。

 

 

 

3人の意見は迷いなく下りることで一致した。仕方ないがここまでやれただけで十分。無理して怪我でもしたら全てが台無しになる。

全員が懸垂下降し終えてロープを回収しているとき、ロープ末端と一緒に大きなメロンほどの大きさの岩が落ちてきて、Yさんの頭上をかすめて行った。ここにはクライミングのグレードだけでは計れない危険があることを思い知った。

 

 

 

さらに危険は続く。

雪渓の下りはまだまだ斜度が緩んでいない。一つ間違えば大事故になる状況が続く。3人それぞれが下っていたそのとき、Yさんがアイゼンを引っ掛けて転んだ。

僕は後方からちょうどその様子を見ていて動きが止まった。「止まれ~~~~!!!」心の中で願った。大きく滑ることなく止まった。

後になって本人から止まったのではなくウィペットを突き刺して止めたと聞いた。

「大丈夫ですか-?」との問い掛けに返答がなかくて心配していると、しばらくしてから返事があってホッとした。

打撲、すり傷は負ったが(ヘリ呼ぶとか)大事にならなくて良かった。

 

 

 

雪渓は下るにつれだんだん傾斜が緩んできて普通に歩けるようになった。

途中、昨日登ってくるときにはなかった砂礫の流れた跡やクラックできていた。日々雪渓の状況は変わっているようだ。

 

 

 

9時45分、長次郎雪渓出合で大休止。雨の中でのテント泊は嫌なので今日中に街まで下りることにした。そうなれば室堂までひたすら登らないといけない。ある意味今回の遠征で一番印象に残ったのはここから先の区間だったかもしれない。

体感するほど重量の減っていないザックを担いでの剱沢の登り返し。分かっていたこととは言えぜんぜん足取りが進まない。

 

 

気が遠くなるほどひたすら登りが続いた。

 

 

 

登っても登っても・・・。振り返れば、また来るよ、剱岳

 

 

 

一ノ越から先は、体力に余裕を残しているKさんに先に行ってバスチケットを購入してもらうことをお願いして、僕とYさんはヨタヨタと後を追った。

雷鳥沢キャンプ場から先の石階段の登りでとどめを刺された。もう観光客のおば様方にさくさくと追い抜かれてしまう始末。10段登ってはちょっと休むみたいな感じでヨロヨロ歩いた。雨は降ってこなかった。

バスには16時30分発最終便の臨時第2便に辛うじて間に合った。

 

 

 

下界の宿はリラックスイン富山。チェックインと同時に3日ぶりに汗を流して正気を取り戻した。

山を下りて毎回思うのは、蛇口を捻るだけで水が出たり、ふかふかの布団で寝たりできることがどんなに幸せなことか。

 

夜は近くの居酒屋で打ち上げ。食事はドライフーズ系の物ばかりだったから「生もの」の美味いこと。白エビ、ホタルイカ、氷見うどん、富山の味を堪能した。

 

 

今回の遠征は、目標だったチンネにたどり着くことはできなかったが、決して強がりではなく、熊の岩に泊まって誰でもは見られない景色を見られただけで十分満足なものだった。

改めてもう一度チンネを狙うことがあればそれに必要な情報も経験も得られたし、計画からトレーニング、準備なんかも含めて思い出に残る大成功の遠征だった。

一緒に行った二人に心から感謝したい。

 

 

 

 

 



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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2022-08-17 12:51:33
とても貴重な山行になりましたね!長次郎谷の雪渓、熊の岩ビバーク等どれも良い経験になりました。ありがとうございました😊
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Unknown (str_mykb)
2022-08-18 05:42:22
こちらこそありがとうございました。
あと10歳若ければ違う行動もとれたかもしれませんが、今の体力、技術の中では100%のことがやれたのかなと思います。
今回の経験を活かせる山行を計画して、また行きましょう!
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Unknown (mocchin0120)
2022-08-19 06:16:53
北アルプス遠征お疲れ様でした!
自分じゃ絶対に踏み込めない領域なので、読んでて羨ましく思いました。
てか、遠征自体が羨ましい!
下山して美味しい打ち上げサイコーですね。
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Unknown (str_mykb)
2022-08-20 00:22:55
@mocchin0120 やっぱりアルプスの景色は格別ですね!
九州からは遠すぎますが年に一度はご褒美で行きたい所です。
今年の遠征はまだ諦めていないんですよね?
成功を祈ります‼️
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