NHK Eテレ「SEITCHインタビュー達人達」の再放送を観て読みたくなった本です。
お二人の長年の信頼関係が伝わる対談は、心に響く言葉が沢山あって、文字で何度も読んでみたいと思いました。
毎回話すたびに最終的には、ロゴス(論理)とピュシス(自然)の対立という話題になると、前書きに書いてある通り、お二人とも音楽家と生物学者として、ロゴスを極めて、ピュシスに回帰していく過程を体験されていて、それは多くの人が違う体験をしながらも感じていることかもしれません。
ロゴスは人間の脳が作りだしている世界なのに、人間の身体はピュシスそのもので、元々その矛盾を抱えて生きているのですが、その矛盾を超えて表現するために、芸術や科学や哲学があるのだと思いました。
この本を読んでいると、ロゴスである言葉が、ピュシスである感覚に近いことに気づきます。
お二人の対談に対立がないからなのですが、坂本さんの言葉に「何かのゴールに向かっていくというより、ゴールがどこにあるのかさえわからないのに、ただ歩くのが楽しいという感じななんです。」とあって、この対談もその言葉通りでした。
お互いの言葉のやり取りの中から生まれていくものを楽しんでいる感じです。
私もセッションでは、お客様に感覚を言葉にしていただくのですが、言葉にすることで共振し合えて、言葉のやり取りの中から思ってもいなかった答えへと導かれることが楽しいです。
自分で作りだしたロゴス(思考)の世界を自ら壊して、不安定なバランスを生み出すことが、ピュシス(自分自身)の豊かさに気づく鍵みたいです。
坂本さんが逝ってしまわれたことはとても寂しいのですが、遺された音楽からこの本の言葉が、より深く感じられるのかもしれません。