星屑の日誌2

SSとか書くブログ。たぶん。

Thisコミュニケーション第16話感想

2021-07-24 13:54:20 | Thisコミュニケーション
・むつのデルウハ殿への感情

「怒りではなく恐怖、熊のように怖いから殺したい」。どこか王様のレストランっぽいナレーションから始まる今回。
3話では『合理的』と評していた記憶消去の殺しに反抗するのは「死ぬほどの暴力が怖い」。
筋は通っている。いるんだけどさあ、自分がテント裂きとか目潰しとかやられた後にこういう思考にシフトって
むつはむつでなかなかクズいぞ。よみたちだって3話までの間、死ぬほどの暴力は受けていたんですがね!
仲間(他人)がやられているうちは合理的の一言で済ますのに、自分が体感すると「熊なみや、駆除せな!」になっちゃうむつ。
可愛いね。

・多数決の行方

焼肉の日から3日。オスカーが示した上高地へ行くか否かの多数決が遂に開催。
反対はみちただ1人。可愛いものを作ってくれる家族がいる研究所の防衛優先、と。
他は賛成。ただいちこは揺れている。遠征すれば研究所が手薄になるというデルウハ殿の丸め込みもとい正論にマジメさゆえ共鳴中。
にこはみちと逆なら何でもいい。よみといつかは好奇心。むつは吉永との共謀のため何としても可決したい。
さあどうなるかと思っていたらデルウハ殿、研究所職員を5人引き連れてご登場。
きたないなデルウハ殿じつに汚い。
曰く、研究所の防衛をハントレスだけで決められるか。曰く、オスカーのメモが罠で俺死んだら困るだろ。
正論で返すのが実にきたない。
ただの登山なら一緒に行くだの汚い手段使えば勝てたけどそれじゃ気分よくないだろとか譲歩(に見える言い回し)をしているのが実にきたない。
要するにヤバい場所には行きたくない。その駄々を正論で糊塗して組織の上層とつるんで押し通すだけの実にクズい処世。
むつは困る。吉永を上高地で伏兵させているから何としても行かせたい。
が、子供なので政治力はない。多数決は部隊内だけでやるものだと思っていたという他愛ない正論を感情任せに告げるのが精一杯。
ただそれでもよく抗弁した方である。
よみといつかは尻馬に乗って野次るのが精一杯。デルウハ殿とレスバする論理的思考力がないので野党めいた喧騒しかあげられない。
このコマで一番面白いのはいちこですね。黙ったままむつとデルウハ殿を見るばかり。
むつの言葉が言ってもしょうもない子供の理屈だとは分かっているけど、真面目なせいでデルウハ殿の理屈が全部正しいとも思っているので
何もいえない。こーいう中庸なところが2~6からイマイチ信奉されていない理由なんでしょうね。
少女の集団だから中庸は実にこわい。「末っ子のむつはあんなに頑張ったのに長女のいちこ何なの」と陰口叩かれるぜってー叩かれる。

そんなこんなで到った採決、反対7賛成5で上高地行き却下と思われたのですが意外な伏兵。
研究所職員・粉山(こやま)がまさかの賛成。反対6対賛成6のイーブンに。

デルウハ殿、秒で別室に呼び出した。

・粉山

かれはむつの父親だった。何気に1話から出ている彼がむつの父親だった。
なので内気な娘が必死に抗弁している姿に情が動き、ついつい賛成に投じてしまったと。

「今、言う?」

デルウハ殿のツッコミ芸が冴え渡る。脈絡なくいきなり明かされた横筋の設定に面食らっているこっちの心情にマッチしたナイスなツッコミ。
粉山は更に言う。デルウハ殿の「公の場で曲げられた意見を言わされるのは気分が良くないだろう?」に心うごかされたと。

「しかもちょっと、俺のせいにしてない?」

おんなじような表情での天丼ツッコミは、じわる。
ハントレスを丸め込むためのもっともらしい言葉に、部外者が共鳴しあまつさえ私情で研究所防衛に関わる多数決で意見を変えた。
しかもイイこと言ったせいでハントレスたちの説得がし辛くなった。
こーいうのデルウハ殿、おおいね。前々回のいちこへの激励がいつかの超絶巨大血オノの呼び水になっちゃった奴とか。
一見ただしく聞こえる言葉を操るから、思わぬところで人をただしい方向に動かしてしまうのだ!
そしてデルウハ殿はちっともただしい事をしようとしてはいないから、マイナスにはプラスが猛毒で、迷惑するのだ!

娘を供出し人ならざる怪物にしてしまった父親が、娘の成長に感動し組織人としての自分を曲げたのは普通の漫画ならいいシーン。
しかしThisコミュニケーションは異常な漫画である。どんだけ正しかろうとデルウハ殿の気に召さねば障害だ。

ズ・・・

主人公、タヌキ柄の目で、動く。

・むつの動き

粉山が父親だと知らない彼女。なぜ勝てたか分からないまま、とにかく次にどうすれば勝てるかを模索。
ヒントはよみといつかの会話。君らすっかり仲いいね、雪崩回で絆消し飛ばされたのに。
彼女の推測はメンバー変えるとかメンバー増やすとかの転換なきもの。
一度示された法則が全てなのだ。数の増減だけが予測の範囲。根本的に違う策が来るとは思えない。
むつはちょっとだけ上の思考。「次の策」が何かはわからないが、「次に別口の策が来る」のは予測した。
それを盗み見て対応を考えようと行動を開始。

成長はしてますが、内気ゆえの限界でもありますね。
多数決という派閥のゲームを単騎でどうにかしようとしている所が、自分の能力過信&他人不信の旧態依然。
みちを切り崩しにかかったり、粉山以外の研究所職員の変節を模索したりとかのまったく別な切り口は考えられない。

捜索を続けるむつ。とある部屋で血痕を発見。追うとロッカーの中に粉山殿。かれは血を流し、ピクリとも動かない。
戦慄するむつ。一方デルウハ殿はよみたちの居る部屋へと入る。銃を、持ったまま。
むつはこう考えた。多数決を初めからやり直すつもりだと。

走って部屋に戻ると。

ハントレス5人、全滅。

多数決を取るだけで死屍累々になる漫画はThisコミュニケーションだけ!
そして一番のとばっちりは、みち! デルウハ殿と同じ意見だったのに虐殺隠蔽のためだけに殺された! 殺された!

惨劇の場で楽しげに銃を構えむつに呼びかけるデルウハ殿。
咄嗟にパイプ机を転がし影へと逃れるむつ。
上高地行きをめぐって軽く口論するふたり。
記憶リセットがない事を悟られたくないむつであるが、即座に射線を切った行為はデルウハ殿の疑念をますます深めた。
トドメへと動くかれ。むつはかれに勝てる率が低く、しかも万一勝てた(殺せた)場合でも事情知らぬ仲間達から爪弾きにされる。
みんなと仲良くしたいという欲目が、『熊』の駆除と競合しちゃってるのは良くない状態。
別に「むつが殺す」=「ハントレスたちに熊殺しがバレる」ではないのにね。
イペにやられたように偽装しちゃえばいいだけなんですよ。そういうズルさがむつにはない。

と、ここで彼女、「勝負」をデルウハ殿に持ちかける。
突然レオナ姫っぽくなる口調! 早見沙織さん口調だぞ!
~いいのよ、~でしょう、~して、の強い口調で持ちかけるは

「私が勝ったら多数決に賛成、私が負けたら自分への手紙でデルウハ殿がシロと弁護」

デルウハ殿、「だが断る」。殺し合いで完勝できるのに、どうして負けの生じるかも知れない『勝負』をせねばならんのだと。
要するにデルウハ殿が勝った場合の旨味のない条件なので、条件変更を提案。
デルウハ殿が負けたらむつ案の勝利時敗北時両方の条件をむつが履行、勝ったら殺し合いで決着、それなら良しと。
乗る、むつ。記憶を保持できるので『デルウハ殿を信じるよう手紙で自分に指示』は何のマイナスにもならない。
つまりむつが勝負に勝てばデルウハ殿を賛成に回らせるというメリットだけ。
負ければ殺されるほかないが、勝っても「手紙でデルウハ殿を信じるよう自分に指示」がある以上、記憶リセットは実行される(殺される)
つまりむつ視点では損はない。いやまあ殺されるのが損じゃないってのもおかしな話だけど、むつには損はない。

勝負は、コイントスへ。勝者は……むつ。23時間後の多数決は研究所職員なしで行われた。
反対1賛成6で上高地行き決定。

ハントレス5人に1回目の多数決の記憶がないことはオーバーホールの副作用という事で誤魔化された。
それと、賛成によって勝負の条件の履行を確信し安堵するむつ。だが安堵を悟られないよう演技をしようとしたところへ。

粉山殿登場。

ロッカーの中で血を流しピクリとも動かなかった彼の生存に驚愕するむつ。
その表情をデルウハ殿の鋭い眼光は確かに確かに捉えていた。

むつ、お前、覚えているな?

見開きで目潰しのマネをするデルウハ殿、超絶こわい。
悟られてはいけない事が悟られてしまうこの恐怖よ。

策士だがおとなしいむつ。思考をめぐらすも目潰しのトラウマで何も考えられない。
能力が欠点になる好例ですね。覚えている『事実』が逆に足枷になるという。

・なぜデルウハ殿はむつの記憶保持に気付いたか

バレたのは10話。吉永のいちこ盗撮回。
エンガディナー。スイスのお菓子。祖国のお菓子でしょとデルウハ殿にハントレスらが出したのが悪かった。
デルウハ殿はモンテローザでの従軍経験しか公言していなかった。モンテローザはイタリア・スイス・フランスの三国が係争。
つまり公言からスイスに行き着くのは不可能。なのに10話でエンガディナーが出てきたから「見た時、固まった」。
なぜ知られているのかと。硬直しながらデルウハ殿はこう考えた。
スイス出身であるのを漏らしたのは3話のハントレスチョコ毒殺の時だけで、スイスを聞けたのは甘いの苦手でチョコ摂らなかったむつだけ。
なので証拠固め。足で稼いだ。
むつがエンガディナー発注時を筆頭に色んな人にスイスの情報を告げ回っていたという確たる証拠を掴み、断定。
むつは殺されても記憶がある、と。

なんつー伏線。

粉山殿の死体偽装は記憶保持の有無の確認ではなく、多数決時の抗議への意趣返し。性格悪っ!

そしてむつは勝負に勝った『特典』で「二度とデルウハ殿を疑わないし、それを他人にもいわない」契約を結ばされてしまった事に気付く。

熊はこの日、悪魔になった。



アカギなら臆面もなく破りますね。
多数決の結果が気に入らんというだけの理由で手下皆殺しにするようなゲスとの契約なぞ守る必要はないと。
あと契約内容には「記憶を保持している事を言うなかれ」はない。
研究所職員引き連れてきた事、粉山殿の賛成でイーブンになった事、それらを告げるだけの事が「デルウハ殿への疑い」かどうかはグレーゾーン。

傍目からは抜け道いくつもありそうだけれど、当事者ってアホみたいな条件でもかなり呪縛されちゃうもので。
むつは粉山殿の件と目潰しでだいぶデルウハ殿こわがってるので、呪縛断ち切るのは相当な精神力がいる。

デルウハ殿は記憶保持に気付いているので、先月の「吉永が溶けて消えたのを、むつが、見届けた」は信用してないでしょうね絶対。
共謀して吉永が上高地で待ち伏せ中、までは読んでいる。
ちなみに上高地行きは決定したけど、時期までは指定していない。利根川理論でいくらでも延期が可能。
もっといえば、このあとハントレス全員殺せば遠征決定は「なかった事に」。
ないでしょうけどね。
だって勝負のときのむつ案は「むつが勝ったら次の多数決で賛成して」、デルウハ殿案は「むつが勝てば遠征に賛成する」。
微妙に違う。2回目の多数決を皆殺しで覆すなら、「次の多数決で賛成」の「次の」は残す。賛成したあと皆殺し→3回目は反対 でも、
「次の多数決で賛成」は履行した事にできる。が、「次の」を外した以上、多数決が何度になろうとずっと賛成するのを約束。
かつ、いちこ、にこ、よみ、いつかのうち3人を反対派へ転向させていないので、上高地行きの成算はあると。

むつとの勝負から次の多数決まで23時間空いたのは何故でしょうね。ハントレスは8時間で復活なのに。
この余分の15時間で何を仕込んだのか。それともただ粉山殿の復帰待ちだったのか。

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