前々回、「日常の中のすぐそこで」という日記の中でトラックに轢かれそうになった際に発見した標語の話を書いたが、その後友人から連絡があり「あれは絶対モミモミではなくモシモシの見間違いだ。」と強く指摘された。
それから友人はこう付け加えた。
「コメントを下さった方々は優しいからあんたの下らない日記に付き合ってあげたけれど、やはりあんたは単なる阿呆だ。」と。
あの瞬間は完全に、そう、まるで疑いの余地もなく「モミモミ」と見えたのだが、こうはっきりと否定されると自分が間違っていたような気もしてくる。
というよりもそれ以前に、冷静になって考えてみれば、「乗車の前後」には明らかに「モシモシ」しか当てはまらないじゃないか・・・。
まだ「モツモツ」と見間違えたのならばまだしも、よりにもよってモミモミとは何たることか。
あまつさえそれを大発見だと勘違いまでし、このような公の場で公表してしまったとは・・・。
おお、恥ずかしい!
竪穴式住居でもあったらすぐさま逃げ込みたいくらいだ!!
***
思えばこれまでも「見間違い」や「勘違い」や「早とちり」は、自分の人生の中でそれはそれは頻繁に起きてきた。
数年前になるが期間限定でチョコレートを販売するアルバイトをした時のことだ。
ショーケースには日本、フランス、それからのベルギーの有名シェフが作ったえらく高価なチョコレートが宝石さながらに並んでいた。
そこへひとりの女性客がやって来て、ある華やかなチョコレートを指差して訊ねてきた。
「これはなんというシェフが作ったものですか?」
そんなことはさっぱりわからず、内心「誰だろうといいじゃないか」とまで思ってしまったが運悪く、その時店頭には自分一人しかおらず、すぐに調べねばと慌てて店のリーダーが作った手書きの資料をめくった。
そこにはきちんとシェフの名前も記載されていた。
「えーと、そのチョコレートは・・・ツロシェフによるものですね。」
女性は眉間に皺をよせ言った。
「ツロ?ツロシェフ・・・聞いたことないわね。私は色んな名シェフの名前を知ってるんだけど・・・どこの国の人?」
あいにく資料には出身地まで載っていなかったので女性にはこうお伝えした。
「申し訳ございません。それについてはただいますぐに確認できるものがないのですが、当店は日本以外ではフランスとベルギーの商品を取り扱っておりますので、恐らくそのどちらかのシェフだと思いますが・・・。」
結局女性はツロシェフのチョコを買わずに帰っていった。
その後まもなくだったと思う、会社から正式な資料が届けられたのは。
新しい資料を見て自分は愕然とした。
例のチョコレートを作りあげたのは「ツロ」ではなくれっきとした日本人、「川口」シェフだったからである。
手書き資料を作成したリ-ダーの字に少々癖があり、「川」という字の右側の線がすらりと左側に流れていたのだ。
だが決してリーダーは悪くない。
だいたいにしてツロなんてけったいな名前があるわけないじゃないか!!
この一件に関して私はリーダーには勿論、他の誰にも話さなかった。
そして出鱈目を吹き込まれた女性がその後事実を知り憤怒しませんようにと心秘かに願った。
幸いその後も怖れていたクレームは受けず、謎のシェフ、ツロはそのまま永遠に記憶の彼方に葬られたかのように見えた。
・・・・・・が。
今回標語の見間違いをきっぱりと指摘されたときにどこからともなく聞こえた気がした不吉な笑い声は、もしかしてツロシェフのそれだったのかもしれない。
轢かれそうになったあの時、やはり大人しく走馬灯でも見ていれば良かったと、今になって後悔している。
それから友人はこう付け加えた。
「コメントを下さった方々は優しいからあんたの下らない日記に付き合ってあげたけれど、やはりあんたは単なる阿呆だ。」と。
あの瞬間は完全に、そう、まるで疑いの余地もなく「モミモミ」と見えたのだが、こうはっきりと否定されると自分が間違っていたような気もしてくる。
というよりもそれ以前に、冷静になって考えてみれば、「乗車の前後」には明らかに「モシモシ」しか当てはまらないじゃないか・・・。
まだ「モツモツ」と見間違えたのならばまだしも、よりにもよってモミモミとは何たることか。
あまつさえそれを大発見だと勘違いまでし、このような公の場で公表してしまったとは・・・。
おお、恥ずかしい!
竪穴式住居でもあったらすぐさま逃げ込みたいくらいだ!!
***
思えばこれまでも「見間違い」や「勘違い」や「早とちり」は、自分の人生の中でそれはそれは頻繁に起きてきた。
数年前になるが期間限定でチョコレートを販売するアルバイトをした時のことだ。
ショーケースには日本、フランス、それからのベルギーの有名シェフが作ったえらく高価なチョコレートが宝石さながらに並んでいた。
そこへひとりの女性客がやって来て、ある華やかなチョコレートを指差して訊ねてきた。
「これはなんというシェフが作ったものですか?」
そんなことはさっぱりわからず、内心「誰だろうといいじゃないか」とまで思ってしまったが運悪く、その時店頭には自分一人しかおらず、すぐに調べねばと慌てて店のリーダーが作った手書きの資料をめくった。
そこにはきちんとシェフの名前も記載されていた。
「えーと、そのチョコレートは・・・ツロシェフによるものですね。」
女性は眉間に皺をよせ言った。
「ツロ?ツロシェフ・・・聞いたことないわね。私は色んな名シェフの名前を知ってるんだけど・・・どこの国の人?」
あいにく資料には出身地まで載っていなかったので女性にはこうお伝えした。
「申し訳ございません。それについてはただいますぐに確認できるものがないのですが、当店は日本以外ではフランスとベルギーの商品を取り扱っておりますので、恐らくそのどちらかのシェフだと思いますが・・・。」
結局女性はツロシェフのチョコを買わずに帰っていった。
その後まもなくだったと思う、会社から正式な資料が届けられたのは。
新しい資料を見て自分は愕然とした。
例のチョコレートを作りあげたのは「ツロ」ではなくれっきとした日本人、「川口」シェフだったからである。
手書き資料を作成したリ-ダーの字に少々癖があり、「川」という字の右側の線がすらりと左側に流れていたのだ。
だが決してリーダーは悪くない。
だいたいにしてツロなんてけったいな名前があるわけないじゃないか!!
この一件に関して私はリーダーには勿論、他の誰にも話さなかった。
そして出鱈目を吹き込まれた女性がその後事実を知り憤怒しませんようにと心秘かに願った。
幸いその後も怖れていたクレームは受けず、謎のシェフ、ツロはそのまま永遠に記憶の彼方に葬られたかのように見えた。
・・・・・・が。
今回標語の見間違いをきっぱりと指摘されたときにどこからともなく聞こえた気がした不吉な笑い声は、もしかしてツロシェフのそれだったのかもしれない。
轢かれそうになったあの時、やはり大人しく走馬灯でも見ていれば良かったと、今になって後悔している。