コラム・スノーマン~これじゃ悟りは臨めますまい

忘れたくない、或いは一刻も早く忘れたい日々について

見間違い

2010-02-24 | コラム・エッセー
前々回、「日常の中のすぐそこで」という日記の中でトラックに轢かれそうになった際に発見した標語の話を書いたが、その後友人から連絡があり「あれは絶対モミモミではなくモシモシの見間違いだ。」と強く指摘された。

それから友人はこう付け加えた。
「コメントを下さった方々は優しいからあんたの下らない日記に付き合ってあげたけれど、やはりあんたは単なる阿呆だ。」と。

あの瞬間は完全に、そう、まるで疑いの余地もなく「モミモミ」と見えたのだが、こうはっきりと否定されると自分が間違っていたような気もしてくる。

というよりもそれ以前に、冷静になって考えてみれば、「乗車の前後」には明らかに「モシモシ」しか当てはまらないじゃないか・・・。

まだ「モツモツ」と見間違えたのならばまだしも、よりにもよってモミモミとは何たることか。

あまつさえそれを大発見だと勘違いまでし、このような公の場で公表してしまったとは・・・。

おお、恥ずかしい!
竪穴式住居でもあったらすぐさま逃げ込みたいくらいだ!!

***

思えばこれまでも「見間違い」や「勘違い」や「早とちり」は、自分の人生の中でそれはそれは頻繁に起きてきた。

数年前になるが期間限定でチョコレートを販売するアルバイトをした時のことだ。

ショーケースには日本、フランス、それからのベルギーの有名シェフが作ったえらく高価なチョコレートが宝石さながらに並んでいた。

そこへひとりの女性客がやって来て、ある華やかなチョコレートを指差して訊ねてきた。
「これはなんというシェフが作ったものですか?」

そんなことはさっぱりわからず、内心「誰だろうといいじゃないか」とまで思ってしまったが運悪く、その時店頭には自分一人しかおらず、すぐに調べねばと慌てて店のリーダーが作った手書きの資料をめくった。

そこにはきちんとシェフの名前も記載されていた。

「えーと、そのチョコレートは・・・ツロシェフによるものですね。」

女性は眉間に皺をよせ言った。

「ツロ?ツロシェフ・・・聞いたことないわね。私は色んな名シェフの名前を知ってるんだけど・・・どこの国の人?」

あいにく資料には出身地まで載っていなかったので女性にはこうお伝えした。

「申し訳ございません。それについてはただいますぐに確認できるものがないのですが、当店は日本以外ではフランスとベルギーの商品を取り扱っておりますので、恐らくそのどちらかのシェフだと思いますが・・・。」

結局女性はツロシェフのチョコを買わずに帰っていった。

その後まもなくだったと思う、会社から正式な資料が届けられたのは。
新しい資料を見て自分は愕然とした。

例のチョコレートを作りあげたのは「ツロ」ではなくれっきとした日本人、「川口」シェフだったからである。

手書き資料を作成したリ-ダーの字に少々癖があり、「川」という字の右側の線がすらりと左側に流れていたのだ。

だが決してリーダーは悪くない。
だいたいにしてツロなんてけったいな名前があるわけないじゃないか!!

この一件に関して私はリーダーには勿論、他の誰にも話さなかった。
そして出鱈目を吹き込まれた女性がその後事実を知り憤怒しませんようにと心秘かに願った。

幸いその後も怖れていたクレームは受けず、謎のシェフ、ツロはそのまま永遠に記憶の彼方に葬られたかのように見えた。

・・・・・・が。

今回標語の見間違いをきっぱりと指摘されたときにどこからともなく聞こえた気がした不吉な笑い声は、もしかしてツロシェフのそれだったのかもしれない。

轢かれそうになったあの時、やはり大人しく走馬灯でも見ていれば良かったと、今になって後悔している。

反対意見

2010-02-22 | コラム・エッセー

バイト先である百貨店のフロアーの支配人は、それはそれは大がつくほどのひねくれ者、兼意地悪、かつ気分屋で、だからして店舗に入るアルバイト及び社員の口から彼のことを好きだという声は一度たりとも耳にしたことがない。

無論私も彼を怖れているし、なるべくなら接触したくはないし、その上隣の店の店長が彼の言葉でよよと涙しているのを見た時には、まず第一に支配人とは視線が合わないようにしようと固く心に誓った。

そんなだから彼が自分の店舗の前を通るたびに、何やらソワソワと落ち着かない心持になってしまう。

それは恐らく人が誤ってパンツを履き忘れて仕事に行ってしまったときのように。

或いはニンニクサガリをたらふく食べてしまったその翌日に混んだエレベーターに乗ったときのように。

先日。

あるイベントの合間にひとりの女性社員と話す機会を得た。

彼女は飛び切り明るい笑顔の持ち主で、常日頃から秘かに憧れている女性だ。

会話の中でふと支配人の話題になった際、私がそっと「支配人が近づくと自分はどうしても緊張してしまう」と洩らすと、彼女は笑ってこう言った。

「あはは、誰でもそう言うわよね。でも支配人ってね、意外に義理堅くって信用できる人なのよ。」

私は度肝を抜かれた。

支配人の意外な一面に・・・いや、それ以上にその事に気付き、まわりとは違う彼に対するプラスの価値観を抱いていた彼女に。

なんて素敵なんだろうと思った。

物事の意外な一面を熟知している人というのは端から見るととても凛としていて美しい。

そうだ自分も彼女を見習って、もっと人とは違う価値観を抱けるようになろうではないか。
なってしまおうではないか。

ビバ・反対意見!やったぜ違う価値観!

人と全く同じ意見を言ってた自分なんて小さめにまとめて燃えるゴミの日に出しちまえ!・・・となるとお次は金曜日だな、よし!

とは言ってもある日突然、心から一般の人々とは違う価値観を抱くのは意外なほど難しい。

なのでまずは本当は思ってなくともとりあえず口先だけ、形から入ることにした。

問題はない。
巷では例え楽しくなくともとりあえず表情だけでも笑顔を作りさえすればドーパミンが分泌されてその内明るい気分になると評判ではないか。

私の場合もきっと後から何かしらの脳内物質が出てきて、嘘の反対意見も心から自分自身の意見だと思える日がやってくるはずなのだ。

こういった訳でここ数日は「サラリと反対意見を言って自分を素敵に見せる術」の研究に大層忙しく、やれ、早くパクチーの香りのファブリーズが出ればいいのにだの、やれ小沢一郎はイケメンだだの、やれ地球は赤かっただのと言ってまわって歩いているのだが・・・・・・・・。

どうしたものか単なる勘違い女か天の邪鬼、もしくは面倒臭い痴れ者になっている気もしないでもない。

このままでは友達まで無くしかねない。

どうやら素敵な人への道のりはほとほと、まだまだ、いやつくづく遠いようだ。

ここはやはり地道に、支配人の良い部分を見つける努力から始めてみようか。



design/quoted from James Joyce

日常の中のすぐそこで

2010-02-22 | コラム・エッセー

日常の中のすぐそこで、人はいともあっさりと死にそうな目に合うものであると身をもって実感したのはつい先日のことだ。

それはいつもの大きな交差点を渡ろうとした時だった。

何トンなのかは分からぬが、停車していた筈のえらく大きなトラックが急に後進し出し、その真後ろを歩いていた私は危うくそのまま轢かれそうになった。

横顔に一気にトラックの荷台が近づき、一瞬背筋に寒いものを感じた。

「ぶつかる!!!」

だが思わず身を反らせたその瞬間、自分は信じられないものを発見してしまった。

そのトラックの荷台の下にこんな標語が記されたプレートが隠れるようにぶら下がっていたのである!

『モミモミは、乗車の前と、降りた後』

・・・衝撃だった。

それは明らかに、安心して歩いていた道で突如自分が轢かれそうになったことよりも、トラックの荷台の下に常日頃からこのような標語が取り付けられていることが、であった。

幾ら命の危険を感じる瞬間といえども、最初にこんなものを見つけてしまってはその後呑気に走馬灯を見ている場合ではなかろう。

念を押しておくがこの標語は嘘ではない。
その一文の下にはトラック協会だか連合だか、そういった類のしっかりとした組合の名前が明記されていたのも私は確認出来たのだ。

激突寸前のところでトラックはきいっと停車し、運転手は謝りもせずそのまま慌しげに前進して去ってしまった。

だが私はまだ現実に戻れないでいた。

果たしてモミモミとは何なのだろうか。
一体何を、どのようにモミモミするのだろうか。
あれは全てのトラックがぶら下げているのだろうか。
全てのトラックの運転手が本当に乗車の前後にモミモミしているのだろうか。

そして。

モミモミを終えた運転手はどのような気分を味わっているのだろうか。
スッキリしているのだろうか。
よもやその後乗車どころではない気分にはなるのではなかろうか。

・・・あの時あのまま死なずに本当に良かった。

死んでいればこの疑問を誰かに投げかけることも出来ない。

死後もしそれが出来たのだしても、幽霊となり丑三つ時にぼうっと誰かの夢枕に立ってまで

「モミモミって何ですかぁぁ・・・・・」

とこれではあまりにも情けない。
以後二度と墓参りに来てもらえなくなる事必至である。

繰り返す。
日常の中のすぐそこで、人はいともあっさりと死にそうな目に合う。

それは恐ろしいことに違いはないものの、今回に限ってはこの様な知る人ぞ知る標語を収穫出来たのだから、死にそうな目にあって本当に良かったと実感している。



photo/quoted from Share Some Candy

胃袋事情~北広島編

2010-02-21 | 胃袋事情
さて今回も、前回に引き続き北広島のお勧め処をもう一軒ご紹介しようと思う。

「麦の香(ムギノカオリ)」。

北広島市里見町という住宅街の一角に位置するパン屋で、ご夫婦二人で営業されているそうだ。





ドアを開けると恐らく近所に住んでいるのであろう方がとても楽しそうに店の奥さんと話しており、その笑顔からここのパン屋がいかに地元の人々に愛されているのかがすぐに見て取れた。

私が到着したのは昼過ぎで、予定より早く来れたなぁなどと呑気に思っていた。

ところがどっこいである。

パンがもうほとんど残っていないではないか!!
こいつは何たる由々しき事態!!!

・・・聞けば開店は朝8時だが午後には完売することが多いのだそうな。

特に週末ともなれば、どこからともなく朝食に焼きたてのパンを求める人々が集まりこのこじんまりとした店の周辺は車で溢れかえるのだそうな。

そしてこの日は日曜だったとさ。

めでたしめでたし。

・・・・な訳あるかーっ!!
うう・・・誠に無念なり。

残ったパンをかき集めるかのごとく籠に入れていく。

この店は「より美味しく、より安全に」をモットーに、全て無添加で作られている。

そんな麦の香のパンは、どれもこれもとても美味しいものであった。

サックリとしたデニッシュの生地はとても香ばしく、またハード系と呼ばれるしっかりとした種類のものはもちもちとして、噛めば噛む程口中に味わいが広がった。

素朴な小麦の甘さから、人気の訳がうかがえる。
早くに売り切れるのも成る程納得である。

パンを選んでいる際中「出会い」と名付けられたパンを発見し、その名前にポッと心が温まるのを感じた。

だが全部で50種類ばかりあるというこの店のパンの殆どに自分は出会えなかった。

次行く時は夜が明けきらぬ内から行く構えだ。

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「麦の香」

北広島市里見町5丁目5-13
tel/011-373-7880
営業時間/AM8:00~
定休日/月曜火曜



湯煙り事情・その1~北広島編

2010-02-21 | 湯煙事情
今回は温泉を一軒ご紹介。

「竹山高原温泉」
露天岩風呂が有名な北広島市郊外にある温泉だ。

何でも隠れた秘湯と言われているのだとか。
こりゃ行っておかにゃならん。

スキー場のロッジを思わせる外観。



中は程好く古びており、赤いカーペットから足の裏に伝わるひんやりとした感じが昔懐かしい。

幾つか無料休憩室もあるようだ。「桃の間」と・・・後は忘れてしまった。



この日は日曜ということもあり日帰り入浴の地元客が多く来ていた。

ロビーにいたこの温泉の従業員の方が

「○○さん、久しぶりじゃない!」
「××さん、調子はどう?」

などと笑顔で声をかけている。
いいねぇいいねえ~この地元感!

冷蔵庫には最近見かけなくなったビンジュースが並んでいた。



さて温泉へ。



ここの温泉は湯が黒い。

内風呂は一部ジャグジーになっており、下からボコボコと浮かび上がる泡があたかも天ぷら鍋のよう。
よもや婆さんでも揚がっているのでは?と一瞬思ったがそんな訳は無い。

若干塩素臭もあるが気にならない程度。湯肌は柔らかい。

男湯と女湯を仕切る壁に置かれた造花がこれまた古臭さをかもし出している。
いいねぇいいねぇ~!

充分温まってからお次は露天風呂。

うーむ、こいつは気持ちが良い。

目の前には樽前、恵庭岳の諸連峰が広がり心身ともにくつろぐ。
時折肩に舞い落ちる雪が冬の北海道の魅力を存分に物語っている。

それはそうとこの露天風呂を堪能している女性が皆、手前の方に集まっているのは何故だろうか。
風呂はもう少し奥まで続いているようだが。

どら、行ってみようか。

・・・・・・ぎゃっ!男風呂と繋がっている!!

岩を曲がった部分に小さな立て札があり、その奥が混浴(風?)の空間になっていた。

立ったまま近づかなくて良かった・・・。

自慢できる肉体であれば仰々しく音を立て、堂々と立ち上がってアピールするのだが。

ここからは余談であるが、この温泉で髪を洗っている際何とも心温まる光景を目撃した。

すぐ隣に座っていた10歳に満たないであろう子供が、自ら母親に「お母さん、背中を流してあげるよ」と言い一生懸命に手拭いで母親の背中をこすっていたのだ!

幼い頃の自分と言えばいかに大人の目を盗み広い湯船を泳ぐかを考えていたというのに・・・。

私はじんわりと感動していた。

だがしかし頭皮から顔面に流れるシャンプーの泡を払いのけることもせず、遠い目でその子供を眺め続けた自分は、今思えばちと気持ちが悪かったかもしれない。

ともかく、いい湯には必ずこういったいいやりとりがあるというものだ。


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「竹山高原温泉」

北海道北広島市富ヶ丘896
TEL/011-373-2827
入浴料/大人¥600
日帰り入浴営業時間/AM10:00~PM10:00(最終受付/PM9:00)
定休日/第1・第3月曜日(祝祭日は翌日振替)