コラム・スノーマン~これじゃ悟りは臨めますまい

忘れたくない、或いは一刻も早く忘れたい日々について

頼む、I田。

2011-02-25 | コラム・エッセー


こういう事を大きなお世話というのだろうか、人というのは身勝手な生き物で全くの赤の他人であるにも関わらず何故だかその者の今後の人生を案じてしまう、そういう性質があるようだ。

その者・・・私にとってはまさにI田がそれにあたる。

I田は私が頻繁に足を運ぶ本屋の店員であって(名は胸元の札を見て覚えてしまった)、飽くまで私達は「客と店員」という関係に過ぎず、よって彼とはこれまでにも本の購入に関連したごく当たり前のやりとりしかしたことがない。

I田の特徴は断然「特徴が無いこと」だろう。
何と言おうか、兎に角存在感が無いのだ。

色白の皮膚にほろほろと散りばめられたそばかす、簡素な銀淵眼鏡、年は25、6といったところか。

決して感じは悪くなく、常に辺りを気遣って不器用そうな笑顔を浮かべており、加えてひょろりとした長身がますます彼を貧弱に見せている。

その本屋は大手であるので店員といえば皆揃ってきびきび、こざっぱりとした対応をしており、そんな中で間延びしたI田の口調は激しく冴えない。

だが私は毎回必ずI田が担当するレジを選んで並ぶ。

なぜならば彼は私とのやりとりの中で常に同じ失敗を繰り返しており、私は一体いつになればそれが改善されるかを心底気にかけているからだ。

もう幾度繰り返したか解らない、以下がいつもの光景だ。

私「これお願いします。袋に入れなくてもそのまま下されば結構ですので。」

I田「かしこまりました!どうもありがとうございます!ではテープだけ貼らせていただきますね。お会計、○○円でございます。」

私、財布からお金を取り出し会計を済ます。

I田は「どうもありがとうございます。こちらお品物でございます。」と言いながら、袋に入れた商品を差し出す。

袋に入れた商品を・・・袋にいれた・・・・・・袋に・・・・・・・・・・・・

「だーーーーーーーーからいっつも袋はいらないっつってんだろーーーーーーが、石田ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」(私の心の声)

そう、会計というごく僅かな時間の間ですら話したことを綺麗さっぱり忘れてしまう石・・・いや、I田!
オー、テリブル!!

オーケィ、分かった。
もういいにしよう。

貰った袋は犬の糞袋に使うからこの件はもう良しとして、だ。

それでも私は間の抜けたI田の今後が気に掛かってどうしようも無い。

本屋を出て一人歩く帰り道、私はいつも思う。

いいかI田、彼女の家に初めて上がる時は穴の開いた靴下を履いていったら駄目だぞ。
そうだI田、焼そば弁当に付いてくるスープの元もうっかり本体に入れるんじゃないぞ。
それからI田、ホワイトデーに義理チョコくれた女の子に「おっとっと」とか気の利かないものを渡すなよ。

ええと、それから、それから・・・・・・・。
いや、違う。

やっぱりこの先一度だけでいいから、きちんと袋に入れずに商品を渡して、そうして私を安心させてくれ。

頼む、I田。



バレンタイン

2011-02-12 | コラム・エッセー
雪祭りとほぼ時を同じくして、またしても街にカカオマスが溢れかえり始めた。

今年のバレンタインは「寄付チョコ」なるものが流行っているそうだ。
聞けば売り上げの一部が発展途上国に寄付されるという仕組みらしい。

ところで男性の皆さんは毎年2月11日から13日の3日間、一度でも百貨店を覗いたことがあるだろうか。

それはもう込んで込んで込んで込んで込んで込んで。
回って回って回って回る。

流石に「飛んで飛んで」とまでは言いはしないが後半部分だってまんざら嘘ではない、目が回るほどの混み様なのだから。

この時期が来る度に思うのだが、もし自分が男であるならばこんな恐ろしい日は無いはずだ。

チョコをもらうかもらわないか。
これはオリンピックの代表に決まるか決まらないかくらい深刻なことかもしれぬ。

「飽くまで義理でも男性にチョコレートを渡さなければならない日」であるにも関わらず一つももらえなかったとしたら、その傷の深さたるや量るに量れまい・・・!
ああナマンダブナマンダブ!!

話は戻って「寄付チョコ」、発展途上国への寄付は言うまでも無く素晴らしいことである。

が、まずは身近な存在を救わんがため、2月14日の午後8時あたりから大きな公園を利用して、今年ひとつの贈り物も貰えなかった男性にチョコレートを渡すボランティアのテントを出すというのは如何であろうか。

この企画は炊き出しをお家芸とする石原軍団に頼むしかない。

雑記

2011-02-04 | 日記

睦月×日

あるアメリカに住む女性が自宅に保管していた父親と飼い犬二頭の遺灰が、見ず知らずの十代の若者達によって盗まれるという不可解な事件が起きたが、なんとその後の捜査により遺灰はコカインかヘロインだと勘違いされて盗まれたことが明らかになった。

遺灰を吸引した少年達は「何かが違う」と気付いたものの「セメントだろう」という結論に至り、自分が犯した事件についての報道により初めてそれが遺灰であったことに気付いたのだそうな。

痺れるまでのこの阿呆さ、オー、ファンタスティック!!

睦月△日

長らく入院していた父が久々に一時帰宅。
暫くぶりに会った私をまじまじと見ていたので、何やら臭い言葉のひとつでもかけてくるかと思いきや、その後消え入りそうな弱々しい声で一言。

「えつこ・・・・・・・田舎臭い顔になったな・・・・・・・・・」

すぐさま「のし」を付けて病院に送り返してやろうかと思った。

睦月○日

年々深刻化する自分自身の親父化。

今日は「世界ふしぎ発見!」を見ていた際、「ミステリーハンター」と呼ばれるリポーターを務める年頃の娘が水着姿で海辺をキャーキャー言いながらハシャいでいるのを目にし、テレビの前でニヤニヤしている己に気付いてしまい後から愕然とした。

ついに来るとこまで来てしまったかもしれぬと即座に顎をさすってみるが、まだ髭は生え始めておらずほっと胸を撫で下ろす。

如月×日

抜歯により、下の歯の一部を部分的に矯正する羽目になってしまった。
いくら部分的といえど今後かなりの出費が予想される。

本人が何より治したいのは前に飛び出たこの二本の前歯であるにも関わらず、である。