酔って上機嫌になった父が散歩に行ってくる、とぶらりと出て行った。
数十分後、帰ってきた父は紙袋片手に嬉しそうに言った。
「お父さん、甘いもの食べたくなっちゃってさー、あそこのコーヒー屋さんに寄ってバウムクーヘン買ってきたから、これ切って食べようよ~」
これには私も喜んだ。
家の近所にあるコーヒー屋はケーキも美味しく、たまに家族でお祝い等をする時は必ずそこのケーキがテーブルの上に登場するのだ。
「今まであの店にバウムクーヘンなんて無かったのに、新作かな?」
と、私はウキウキしながら紙袋を受け取り、そのまま台所に行きまな板と包丁を用意した。
ガサ………
紙袋の中を見て、私は心底腹が立った。
「ちょっと、お父さん!コレ違うじゃん!!」
酔った父は四分の一にカットされたバウムクーヘンと間違えて、なんと透明フィルムに入った天然パルプ100パーセントの茶色い“コーヒーフィルター”(100枚入)を買って来たのだ!
「も~~っ しっかりしてよ!」
大マケにマケて、ほの暗い店内で茶色のコーヒーフィルターを横から見た時のゴワゴワとした紙の重なり具合がバウムクーヘンの外側の部分に見えたとしても、だ。
透明フィルムに書かれた“おいしい珈琲屋のコーヒーフィルター”の文字の“おいしい”の部分だけしか見ていなかったという余りにも短絡的な父にはほとほとウンザリする。
間違いに気付いた父は「ありゃりゃ~~~~!」とたいそうたまげた様子を見せ、それがよっぽど残念だったのか、みるみる内にションボリしだした。
その姿に思わず同情してしまい、仕方なく私はその後父の買ってきた「バウムクーヘン」を使ってコーヒーを一杯落としてあげたのだった。