Cynical cat

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遺構の島へ

2014年03月26日 | LeicaM2,M3,M6,M9-P
年末に長崎県の鉱山跡やその鉱山で働いた人々の住んでいた遺構を間近に見られる島へ行った。
有名な軍艦島とは違ってまだその島には生活している人がいる。
長崎空港から一気にレンタカーでそのままフェリーにのって行ったので
島内を移動するのに苦労なく自由にあちこち見て回れた。



島内にかなりの数を残すアパート群は人の気配も無く、入ろうと思えばおそらく入れるのだろうけど
なにか得体の知れないものを感じさせてなんだか必要以上に近づくことが躊躇われた。
人のいない建造物が大量に自分の周りを囲んでいる感じというのはやっぱり不気味だ。
ガラスの割れたどこかのまどから誰かがじっとこちらを見ているような気すらしてくる。
時折ぼーっと道路に立ち尽くしてみる。しんとしたその空間はなかなかに怖く、そして楽しかった。





島には商店がいくつかあるのだけど僕らの行ったその日は1軒のみ開いていた。
店に入るとがらんとしたなかにテーブルが並んでいて
レジのあるショーウィンドウ兼カウンターでは暖かいおでんがコトコトと音を立てていた。
声をかけると奥から出てきたおばちゃんはやさしく色々話してくれる。
壁には最近来たというマンガ家の集団のらくがきがあった。
おでんを頂いて晩ご飯代わりのカップ麺を買って店を出た。
店の外には野良猫がやたらとたくさんいた。おばちゃんのくれるエサを待っているようだ。





夕方になって宿に戻るとフロントでお風呂はどうなさいますか、と聞かれた。
宿は1軒のみでこの日僕らの他には誰も泊まっていないようだ。
聞くと男女別の浴場はあるのだけど、どうせならすぐ近くに銭湯があるからいかがですか、と言う。
わざわざ僕らだけのために風呂を沸かしてもらうのも悪いのでそうすることにした。
それにそういう場所に行けば島の人と話すことが出来るかもしれない。

はたして銭湯に行ってみると客は僕の他に一人だけ。
驚いたのは浴槽の広さだ。東京なんかの銭湯の3倍はある。
それでも浴槽の半分はコンクリートで埋めてあって、それはおそらくこの島に人がまだたくさんいて
炭鉱夫たちがこの銭湯で汚れを落としていた頃の名残なのだろう。
浴槽に合わせてやたらと広い洗い場で年配の方が一人身体を洗っていた。

その方はまだこの島のアパートの一室に住んでいるという。
この島で働いて、廃鉱になったあとも住み心地が良いから出て行かなかったのだと教えてくれて
そういう人は他にも何人かいるという。
工事関係者やそうやって出て行かない人がいるのは知っていたがそういう人港の近くに新しく建てられた
公団住宅に住んでいると聞いていた
だからあの全て廃墟だと思って、それこそちょっとコワイとさえ思っていたあのアパート群に
まだ人が住んでいるというのが驚きだった。

銭湯から出て、宿まで戻る途中真っ暗なアパート群を見てみると
たしかにいくつか、そのまっ黒なシルエットの中に明かりの灯る部屋があった。



翌朝は雨。
この日は仕事の都合で長崎空港から昼前の便で東京へ飛ばなければならないので朝一番のフェリーに乗った。
車を入れるとあっけなくフェリーは出航して、慌ててデッキに上がって島を見送る。
昨日見たあの巨大なジブローダーはもう小さくなっていた。



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