詩歌梁山泊企画

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第9回詩歌トライアスロン 候補作

2023-05-13 15:59:38 | 日記

 

第9回詩歌トライアスロン候補作

三詩型融合部門

 

FUYU NO MINATO GIRL

 

春、

  墓に腰掛けて写真を撮ってみるその足元の下に空洞

があることの、誰もがその本質に気づいていないような

春、

車で二時間の距離にある、梅の木に囲まれた墓地には

廃棄されたのだろうか?

旧式のポストが雑然と並んでいた

  梅林にポスト二〇基立ち並ぶ

  二〇基のポストに二〇の口があり夜低く鳴る風の日に鳴る

 

おじいちゃん

わたし、結局トランペット吹かんかった

 

その頃ネジ拾いに夢中だったわたしは

幼稚園の裏にある広い原っぱのサッカー場で

逆再生の水紋のように、

  指は今拾い上げたりきっちゃんの蹴る球の弧をくぐってネジを

  夕始め園庭に連れ出され夏

  きっちゃんに怒られる背に蝉なだれ

夏の間じゅうサッカー場には通ったけれど

  パス、シュートならかろうじてオフサイド、センタリングともなればわたしは

ルールがわからなかったのでした

  その前にルールがあるということもわからなかったんだよね、とママは

チームがわからなかった

  夏百日友達だからパスをした

言葉がわからなかった

  来たら蹴る夏誤ったプログラム

 

おじいちゃんにトランペットを渡されたとき

どうすればそれが鳴るのかがわかった

  秋の園庭に受け取るマウスピース

  わかるのはこの金色のぐるぐるの筒に真っ暗な部屋があること

  洞窟に手を差し入れて取り出した生まれる前の記憶 パサージュ

 

  雪は地の芯へと降りていくところ

しんと冷えた空気を吸い込んだら

鼻腔のかたちがわかる気がした

  雪玉は大きくなって園庭の肌を剥がした 大きくなった

わたしは大きくなりました

それから肺のかたちになって

  飲みこめばホットミルクは胃のかたち

白い羽毛に覆われたような原っぱは

どこにも寄りつけない居心地の悪さを抱えて

  あるんだよ雪にかじかむ手の中に家系図みたいな血管が、今

  細い細い水路をけれども一枚の葉が流れゆくように、たしかに

  息を吸うわたしの肺にあるんだよ空洞みたいな原っぱ、白い

  画用紙を一面黒く塗りつぶす透明な時間があるんだよ

 

園長室に掛けてあるおじいちゃんの油絵は

冬の港を描いていて

わたしにはそれが冬の港だと

わかる

わかるんだ

(千種選)(堀田・野村選外佳作)

 

 

さいと恩寵

 

朧げな陽が差す都市で

さきほどすれ違った女は三回前のわたし

今捕まった男は七回後のわたし

三十面の賽が示している

どれもわたしだと

 

 

当事者でないことなど一つもないはずが

隔てられ遮られあらゆる報せは遠く

頭に響く糾弾によって

実存に覚える罪の意識

 

 

痛みから逃れるべく

張り巡らされ囲まれている

どこへ流れゆくかしれないパイプに

耳を押し当てれば歌は聞こえる

 

 

あきざーごー示、どざーけ望ごーざーれぬものがごー寵とあり

 

 

調べは絶え絶えで

再び耳を欹(そばだ)て聞き入る

 

 

ざーらめも啓ごー、どれだざーぞんごー得らざーものが恩ごーざー

 

 

通り過ぎるひとりびとりが奇矯なものを見る目を

瞬間、逸らす

意志も意図もなく出目の違いに過ぎないのに

 

 

ざーごーざーごーざーごーんでもざーれぬものがざーごーとあり

 

 

痛みは収まらず

酷くなるばかりの騒音にその場を離れ

頭の靄を払いながら家路につく

 

 

身に余る幸福を享けるもの

耐え難い不幸に打ち拉がれるもの

その差異が生まれたのはそれぞれのせいではない、はず

 

 

下水が濾過され川を経由しその名を海へと変えるころ

あなたの下でやわらぐ痛み

安らかに眠る幸福で

溢れるわたしに囁く声が

 

 

 諦めも啓示、どれだけ望んでも得られぬものが恩寵とあり

 

 

届いた

(千種選)

※一部原稿を再現できない部分あり、縦書きを参考ください。

 

 

冬至祭

 

北の国の冬は日の落ちるのが早い

一年でいちばん夜が長い日、学校も商店街も工場も役場もおやすみで

街中はランタンやひいらぎ、たくさんの花でかざられる

 

街外れにあるみずうみからのぼる霧はしずかに流れ、街全体を満たす

まだ正午を少し過ぎただけだけれど 陽が傾き、もう薄暗い広場に

出店が立ち 篝火は焚かれ 音楽家たちが冬至祭の音楽を奏ではじめる

広場には人々が集まってくる

(ほら見てごらんあの子だ)(冬を終わらせる)(春をひらく)

 

父と母に連れられて来たずっと幼いころの冬至祭は

外が暗すぎて 篝火やランタンが明るすぎて ただ怖いだけだった

篝火がおばけのように見えて いつも泣いて、家に帰るよう母にねだった

火の周りで踊る大人たちも 飾られた花も氷像も雪像も 悪夢のように怖かった

 

追いかけてくるのだ夢の底にまで白一色の冬のおばけたち

どこまでが記憶だろうか雪のなか炎は花を灰にするけど

 

わたしは恋人と手をつないで氷の彫刻を見てまわった

氷でできたドラゴンやユニコーン、ライオンや孔雀はつめたく立ち

ランタンや篝火のあかりを浴びてつやつやとまたたく

風はないけれど空気はきんと冷えていて 

こまかな雪がちらちらと舞い落ちている

 

深く吸えば鼻の内側凍りつく冷気だ、きみと手を触れあって

満天の星だと言えば降りかかるそれは花びらそれは歌声

 

(ほら見てごらんあの子だ)(冬を終わらせる)(春をひらく)

 

ここに死は終わり 生が始まる

 

恋人を見上げると 彼は泣きそうな顔をしている

悲しくはないのよ 怖くもないの

わたしは背伸びをして恋人の頬に口づけ 抱きしめた

悲しくないよ 怖くもない

恋人はわたしを抱きしめ返し、ささやく

ただ とてもさみしいんだ

 

オルゴール壊れてゆくよたまご抱くようにふわりときみをいだけば

 

踊ろう

友達がわたしと恋人を 篝火の周りの踊りの輪に誘った

踊ろう 踊ろう 

踊りの輪は軽やかに回る

 

わたしたち夜を踊るわ頬も髪もミルクのような霧にぬらして

極夜。でもきみの口調のしずけさと粉雪舌に捕らえるあそび  

 

雪と氷で足を滑らせないように

冷たい空気で肺を傷めないように

冬至祭の踊りはゆるやかだ

わたしたちはやわらかくステップを踏み 

手を打ち鳴らし くるりと回る

 

(ほら見てごらんあの子だ)(冬を終わらせる)(春をひらく)

 

ここに死は終わり 生が始まる

この夜は特別で一度しかないから

歌おう 踊ろう 祝おう 暗い星空の下

 

夜も更けたころ わたしたちはみずうみへ向かう

世界一しずかなパレードとして 

ひとりひとつ 冬薔薇の花束を抱き 

わたしたちはみずうみへ向かう

 

雪は凍っていて

わたしの足は雪に沈まず、ごく浅い足あとだけがつくだけ

まるで重さのない生きもののようだ

 

かわいそうに 恋人は泣きどおしだ

なぜ泣くの わたしは春になるだけ

泣かないで わたしは春を呼ぶだけ

(見てごらんあの子が)(冬を終わらせる)(春をひらく)

人々は花束を岸に停まった小舟に投げ入れるけど

恋人は雪の野にうずくまってしまった

 

火のように泣く、という比喩 泣きじゃくる背中に胸を重ねたかった

花束を抱く恋人がさめざめと花そのものになる夜の果て

それはもう祈りじゃないか果てしない雪と氷に喉をさらせば

 

最後は凍ったみずうみに舟を出す

舟のランタンに火が灯される

白く塗られ、花とリボンで飾られた小さな舟

みずうみの氷の上をすべって行ける舟

 

大人のひとりが クリスマスローズで編まれた花冠をわたしにかぶせた

別のひとりが、わたしが小舟に乗りこむのを助けてくれる

恋人を探すけれど たくさんの人に紛れ、もう分からない

何人もの友達がわたしの額に、頬に 順番にキスをしてくれた

(おめでとう)(おめでとう)(おめでとう)

(見てごらんあの子が)(冬を終わらせる)(春をひらく)

わたしはみずうみを、それから星空を見た

 

掛け声の後、大きな力に押され舟は岸を離れた

小舟は氷の上をすべる 薔薇の花束とわたしとを乗せて

 

わたしの白いドレスに 青いサッシュベルトに

羽のようなヴェールに

結晶のままの雪が降りかかる

 

冬至祭の歌をわたしは小さく歌う

(見てごらんあの子が)(冬を終わらせる)(春をひらく)

ここに死は終わり 生が始まる

 

わたしはセイレーン

わたしはローレライ

わたしは もう人でないもの

わたしは もう人でないもの

しばらく氷の上をすべると、舟は細かい氷まじりの水に達した

ふりかえると岸はもう遠く、ひかりだけがぼんやりと見える

 

ふいに笛のような澄んだ音が聞こえた そして水を打つ音 

鯨だ

――鯨?

それは鯨だった

舟のランタンのかすかな灯りに 黒い巨体がつやつやとひかった

舟が大きく傾く

鯨はわたしのすぐ横をゆっくりと横切り、ゆたかな体をうねらせた

跳ね上がった水がこまかいしぶきとなり

しぶきは氷の粒となって、わたしの頬を打った

ホォォォォォォとかピィィピィィピィィとかいう ふしぎな鳴き声

 

鯨はひとしきり舟のまわりを泳いだあと、また水にもぐっていった 

舟は大きく揺れ、そしてすこしずつ凪いでゆく

ぐるりと見まわしたけれど もうどちらが岸か分からない

 

ここに死は終わり 生が始まる

明日から街は、春に近づく

わたしは冬を終わらせる 春をひらく

わたしは冬を終わらせる 春をひらく

 

夜をくぐりぬけた額よ カストルとポルックスのようにつめたい

守られていたことだけがひとしきり水面にひかるような夜だった

行きなさい 雪には音のないことを次の生にも覚えているわ

花びらが氷霧にふれて凍るのも春への予兆だと思うから

 

ここに死は終わり 生が始まる

わたしはいつまでも鯨が戻ってくるのを待った

(野村選)

 

 

「水棲の石」は横書き不可能なため縦書きのみ。

 

 

三詩型鼎立部門

 

短歌「誤配」俳句「夏の果」自由詩「昼肉/夕骨」

 

短歌「誤配」

 

落ちたのはホイップクリーム 戦争はいつも糖度にまみれていたね

全身の皮膚を雨垂れの撃つようないたみがつつむ 快晴の日は

君いつもトルコ語を言っていたのか「背に背びれある」って魚みたいで

渋滞は海までもつづく 免疫はヒリヒリ疼く風を起こして

庭のすみの深くへ犬を埋めたあと果樹を植えたいできれば亜種の

おとなにはなりたくないと言ったあと凪の海面へタバコをほおる

怪談に出てくるような鏡にはぼくは映ってぼくはいなくて

届いたと思わせといて郵便は南洋あたりを浮かんでいたさ

銀河とかを測る単位で君とぼくはポッキーゲームをしているようだ

泳ぎたい鳥と飛びたい魚いて誰かと話したいヒトがいる

 

 

俳句「夏の果」

 

人類のはじめての語や風薫る

青梅や過去を消されし万歩計

さぼてんのはな腹筋を響かせて

世界線aからbへ平泳ぎ

ひまはりや数式はみな空を描く

さみだれの川へ刻みしパスワード

星座より一列に降る兵士蟻

ジキタリス麒麟の意味を知りかけて

音階を目玉の昇る雲の峰

ヒトの世の終はりの南風やラヴソング

 

 

自由詩「昼肉/夕骨」

 

肺を海があふれて

のどは星屑に詰まる

山にもうひとりぼくがいれば

ダイジョーブだよ

って言っただろう

羊歯の声音で

 

札束を紙切へ

書き換える仕事のコツは

未来を忘れる夜

過去を編みだす朝

準優勝は優勝じゃないのに

準社員は社員で

歩き鯨の汗は

砂へ置き換わる

浜辺の国が

波に崩れるのを

夢に見ていいのは

何世紀後の晩夏

人新世のさざ波

 

骨を肉が覆わず

肉が骨をかたちづくる惑星で

焚き火も

数式も

膜でしかなかった

太陽系軌道の

日々のずれを

目尻をつたう水がごまかす

海へ還るまでが遠足なら

玉葱はおやつにふくまれた

 

水溶性の管楽器

夕焼けは惑星の

    肋骨だ

(千種・野村選)(堀田選外佳作)

 

 

自由詩「初期衝動」 他

 

短歌

 

溌剌の球蹴る朝のグラウンドカルト常套手段と知って

名も知らぬコピーライターこそこそこそ暗躍したる国民詩人

地下鉄の可憐なあのこあの口で某J(こく)・(て)R(つ)と繋がっており

地下室の書架と初夏とに挟まれてしおりとなれば空も舞えたか

空間のある限り這い回るしかなく行きずりのケーブルと穴

アーケード、チェーンの店が少しずつ違って地方(こ)都市(こ)は平行世界

ユネスコの幹部口角泡飛ばす地球最後の電話ボックス

古書店の棚に逐一蹲踞して彼岸で森がひとつ生まれる

それぞれの人生なぞりあうだけの人生なぞりあって一日(にちぼつ)

発音の悪い私の英語とはZoomの途……途…………「声」

 

 

俳句

 

白靴やどこから砂はおいでませ

春の水糞りて石塗る画伯かな

学歴の割礼うけて水温む

爪切りをくすねて早し震災忌

耳敏し猫に揚げ芋せがまれり

膣と土持ちつ持たれつ蚯蚓鳴く

地震雷火事露西亜ノ殺シ屋

柿の種蒔いて注ぐる海光

自撮りし子ワレとつぶやき一葉落つ

刑務所のムショに椋鳥たちの黙

 

 

自由詩「初期衝動」

 

朝 蜘蛛膜下出血が終わったあとの、清々しいというほどではない静けさが心地よい

むかしの性行もどきが思い出されてきて(むくむくむく) 

脳汁予測変換でハートマークのスタンプが出てくる出てくる

朝 これでよかったっけ?

「それはそれとして」6ミリ罫のB5ノートはクラシカルだ

朝の鉛筆はこそばゆいしね 暮らしを軽くする ←企業のコピーみたいだ

文字は冷たいから、それまでにからだを冷ましておかなくちゃ

ひとの手から放たれることなく、あらかじめ離れていることば

 

WCのジャロジー窓に凝(ガン)視られる、歩く事実陳列(罪)──第一部 人間の生態について──が、パンプスで露どもを軽くいなしていく

そうか、米を頬張っていてもいいのか

計略めいた糾弾は断固反対だ

《初期衝動を思い出せ!(ナニの)

ホッキ貝をラの音に調律して開始する

ボワァ~とはならない ファンファンファンと鳴る

奇しくも潮間帯で黄金が涌くときと同じ、聖域の

ぬるっぬるいっ おかしくなっちゃうくらいぬるっぬるいっよ

それにぶつかる

ホッキ貝は小リスさながら薫愛される

だからおちゃらけて

しまった!(しめた!)

シの音(が鳴る)

ホットラインが貫通した決定的瞬間(死語)だった

 

全身が肉になりかけている

本当に文字通り、首の皮一枚のところで肌であることができている

あるいは、首ではなく陰茎の皮一枚

あるいは、定義上ズル剥けではないというだけで、もはやそこに肌はない

あるいは、肩代わりしている

これも文字通り、肩の代わりをしている

あのお肩、晩年の左翼手のお肩

傴僂のお肩

がめくれる、がめくれる

英語風に言えばディスカヴァー

サイエンスが、マスが、わたしの肌をめくっていく(彼らにとってそれは単なる果実の皮)

身長175センチ、体重53キロの歩く事実陳列罪

 

事実を陳列することが悪だとは限らない

ノン事実を陳列しないことが善だとは限らない

だが、

それにもかかわらず、

であれ、

とりもなおさず、

とりわけ、

くわえて、

また、

くわえて、

あるいは、

くわえて、

であるがゆえに、

くわえて、

いっぽう、

くわえて、

たほうで、

くわえて、

くわえて、

くわえて、

清掃者がすべてを攫っていく

それが仮象だったとして

ホッキ貝はどこまでも、裏表紙までも晴れやかだった

 

細工は流々、仕上げをご覧じろ。

念入りに鉛筆をトキントキンにして

初期衝動継続時間を清書する

ジャロジー窓はまだ、事実陳列(罪)──第恥部 鳥の歩行、あるいは奉仕について──を玩味している

博士もまた要点をまとめて飛び降りる

(野村選)(千種・堀田選外佳作)

 

 


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