将棋王 ツメルモンスターズ

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主に短編詰将棋について書きます

【将棋】段位とレーティングの関係についての考察

2019-11-23 23:11:07 | プロ棋士雑学
プロ棋士の実力の指標
 と言えば、何を思い浮かべられるでしょうか?

 段位、勝率、順位戦のクラス、などが一般的でしょうか。
 ただ、それぞれ

 段位・・・化物並みに強い新人がいても最初は四段。すぐ昇段できるわけではない。反対に、著しく力が落ちた高段の棋士がいても降段することはない。
 勝率・・・対戦する相手の水準によって、同じ勝率でも評価は変わる。
 順位戦・・・各クラス年2,3名程度しか昇降級しないので流動性に乏しい。B級2組以下は総当りではないので、くじ運にも左右される。

 という理由から、単体では棋士の実力を正確に推し量ることはできません。


 私は「レーティング」(以下Rと略)なる数値が、最もタイムリーな実力を表すと考えています。詳しい説明は割愛しますが簡単に言うと、対戦相手のRの高低に応じて一局一局の勝敗ごとに変化する数値です。(勝ったときのRの増え幅は相手のRが高いほど大きく、負けたときのRの落ち幅は相手のRが低いほど大きい)

 今回は段位とRの関係について調べることにしました。高段ほどRが高いのか、それともあまり相関がないのか!?

 まず段位の仕組みについて確認しましょう。
 プロの段位は四段からスタートし、昇段規定(順位戦○組昇級、□段昇段後△勝、タイトル通算×期など)に基づいて上がっていきます。そして先ほども触れましたが、一度取得した段位から降段することはありません。一度九段になれば、たとえルールがわからなくなるほど衰えたとしても一生九段なのです。

 それでは段位別の平均Rを見てみましょう。



 豊島名人や渡辺三冠、羽生九段らA級棋士多くが属する、最高段位九段グループが、唯一の平均R1600台をマークし首位でした。
 一方八段以下に関しては四段から八段まで、平均Rに明確な差はありませんでした。即ち段位とRの間には有意な相関関係が認められないということです。
 永瀬叡王・王座や、広瀬竜王、稲葉八段、糸谷八段らA級棋士の属する八段グループはもっと高いと予想していましたが、蓋を開けてみればワースト2。最下位は七段グループ。説明無用の藤井(聡)七段に加え、菅井七段、高見七段、斎藤(慎)七段、中村(太)七段ら近年のタイトル経験者、さらにはR上位常連の千田七段。実力者勢揃いのイメージを持っていただけに意外な結果とでした。
 実力者が多くいる一方で、平均が高くないということはデータにばらつきがあるということ。色々調べた結果、ばらつきの原因は年代であるとわかりました。



 このように、同じ年代の中では段位が高いほどRも高い傾向がはっきりわかります。
 他方同じ段位の中では、年代が低いほどRが高く、全体でもその傾向がみられます。(10代だけ平均Rが突出して高いのは藤井聡太七段しか該当者がいないため)
 悲しいかな、少なくとも記憶力や体力は若い世代の方が高いのです。(羽生先生も25歳で七冠独占を達成したとき、既に記憶力のピークは過ぎているとおっしゃっていました)
 記憶力・体力の差は事前研究の差にもつながりますし、長い対局を乗り切る上でもやはり体力がある方が有利です。そういった理由で、世代間で平均Rの差が生じてしまっているのかもしれません。

 とまあ長々と述べてきましたが、今回のデータから言えることを要約すると

「プロの段位とは、実力の指標というよりは実績の指標だ」ということです。

 よって、段位から実力を評価する場合は、年齢や勤続年数とセットで考えるべきです。同じ段位でも、例えば5年でその段に到達した人と20年かかった人がいれば、短期間に同水準の実績を積み重ねた方が実力は上でしょうからね。

*この記事における肩書・段位・Rは2019年10月上旬時点で集計したものです。

青空将棋をAIで解析してみた

2019-11-19 16:45:15 | 変則将棋
青空将棋はご存知でしょうか?

図の通り、初期局面から18枚の歩を全て除外したのが青空将棋です。
初手から香車を取れたり、角交換ができたり。
対局開始早々飛び道具が乱舞したりとスリリングで激しい展開になります。



この青空将棋を今回はAIで解析しました。その結果や感想を以下にまとめます。

・初期局面の評価値で先手+1000点くらい優勢。
・初手▲9一香成と▲1一香成のどちらも有力だが、若干前者を推している。
・角交換の損得は悩ましいが、自分から早めにした方が実戦的には考えやすい。
・単純な攻め合いでは一手の差が極めて大きく、後手が勝つのは困難。
・かと言って、後手は上部脱出を目指しても、歩がないので王手を受けにくい。
・歩合いが効かないため香車が相対的に強い。
・AI同士で5局対戦した結果、先手が5連勝。評価値が+500点を下回ることが一度もなかった。

という具合に、AI的には先手が圧倒的に有利なようです。



ただし、思わぬところで王手飛車などの大技がかかって逆転することもあるので、人間同士なら十分ゲームとして成立します。
普通の将棋と比べて手軽に短時間で楽しめるので、是非やってみてください!




【将棋】4手目△3四歩が少ない理由

2019-11-11 22:01:42 | 将棋雑学
後手番。次の1手は?



 A △8五歩     B △3二金      C △3四歩
















正解は・・・どれも有力です。

「問題になってないじゃないか!」と言われそうですが、ABCの内1手だけ、プロの実戦では結構レアなのです。

その一手とは、題にもある通り△3四歩です。

局面ぺディアによると、ABCそれぞれの採用数(採用率)は
A 2221(54.7%) B 1620(39.9%) C 216(5.3%) とCだけ極端に低いですね。

子どもの頃、横歩取り△8五飛戦法が大流行していたのですが、その頃でさえ上図から△3四歩と指されることはめったになく「なんでだろう?」と不思議に思っていました。大人になった今、改めてこの理由について考察し、子どもの自分に答えてやろうと思います。



上図から△3四歩と突くのは、主に横歩取りを志向した一手です。
 この横歩取りという戦型が曲者でして、序盤から互いに歩を複数枚持合い、且つ大駒の交換がいつでも起こりうるため、非常に複雑で激しく、一手のミスが致命傷になりうるという特徴があります。
 ゆえに、横歩取りを志向するということは、相当な自信・事前研究があるということです。
 その場の気分や思い付きで「今日は横歩でいこっかな~」などと決めるプロはほとんどいないでしょう。

一旦後手が横歩取りを志向した以上は、相当な研究を用意しているはずですから、できるだけ確実に誘導したいと思うもの。
 そのためには、2手目に△3四歩とする方が確実なのです。
 2手目が△8四歩だと、3手目(先手)次第では横歩取りになりえなくなりますからね。
 (例えば▲6八銀なら矢倉模様になります)

「後手が横歩取り志向ならば2手目は△3四歩」ということは「2手目が△3四歩でないならば後手は横歩取り志向ではない」ということになります。(高校数学で習う対偶です)

ゆえに、上図を迎えている=後手は横歩取り志向ではない、というケースがほとんどなため、4手目の△3四歩が少なくなるのです。

【竜王戦】封じ手局面の評価値と勝敗の関係

2019-11-05 21:28:16 | プロ棋士雑学
今期も大注目の竜王戦。豊島名人ファンの私としては1局1局ドキドキしながら観戦しています。
一日目が終わると、AI先生と共に封じ手やその先を調べるのですが、翌日の勝敗が気になりすぎて毎回同じ疑問が湧きます。

封じ手の局面の評価値からだいたいの勝率がわからないものか?

評価値と勝率の関係式なるものはネットで検索すればヒットするのですが、それはAI同士の話。
人間同士ではどうなのか?
この疑問を解消すべく、過去十年の竜王戦(第22期~第31期)の全54局について統計をとることにしました。



封じ手局面評価値(*絶対値)とリード側の勝敗
 
800以上  5局(4勝1敗)
500~799 8局(7勝1敗)
300~499 10局(6勝4敗)
100~299 24局(12勝12敗)
0~99  7局(4勝3敗)
中央値 257.5

*評価値の見方 0~299で互角、300以上で有利、800以上で優勢



互角と評価されたのが54局中31局(0.574)で、リード側の勝敗は16勝15敗(0.516)のほぼ五分です。
まだまだどちらが勝つか分からない。勝敗は二日目次第です。

一方、封じ手局面で既にどちらかが有利と判定されたのが54局中23局(0.426)にも上りました。
リードが300~499点まではリード側が6勝4敗(0.600)でまだまだこれからの勝負ですが、500点以上差が開くとリード側11勝2敗(0.846)と大きく勝ち越しています
よって500点が一つの目安になりそうです。1日目を終えて500点以上豊島名人リードなら「よっしゃ!」と叫ぶことにします(笑)

ただし、一日目評価値 -1364点(後手勝勢に近い)から先手逆転勝ち、というのもありましたから油断は禁物。
まあ私が油断しようがするまいが対局者には関係ないですけど。
トップ棋士同士の対局でも稀に終盤の大逆転が起きる、というのも人間将棋の醍醐味かもしれませんね。



あと、余談ですが竜王戦の先後勝率のデータについて。
54局の内、先手勝ちが24局・後勝ちが30局と、実は後手の方が勝ち越しています。(先手勝率 0.444)
特に第3局は過去十年で先手2勝・後手8勝と差がついています。その前も後手ばっかり勝っていたような…。竜王戦第3局のジンクスですね。
果たして豊島名人がこのジンクスを破れるのか?そこも楽しみに観戦したいと思います。
(第32期竜王戦 投稿時現在 広瀬竜王0勝ー豊島名人2勝 第3局は豊島名人先手)

ただし、封じ手局面の評価値(+-を考慮)は+が33局で-が21局、中央値が117.5でしたので、その段階では先手リードのケースが多いです。

また、一日目先手リードから後手が逆転する確率は 15/33(0.455) だったのに対し、
一日目後手リードから先手が逆転する確率は 6/21(0.286)と低くなっています。先手より後手の方が2日目に逆転勝ちしやすい?。

サンプルが少ないので断定はできませんが、次のような解釈ができるのではないでしょうか?

「元々将棋は先手が少し有利なゲームである。一日目終了段階で先手リードというのはごく自然な流れであり、必ずしも先手が流れを掴んだというわけではない。したがって、2日目次第で十分に逆転は起こりうる。しかし、一日目終了段階で後手リードというのは後手が流れを掴んだ結果と解釈でき、ゆえに逆転が起こりにくい」

いずれにせよ、統計を見る限りでは後手番の方が落ち着いて指せるかもしれません。

実戦問題演習① 玉は下段に落とせ!

2019-11-01 22:51:02 | 実戦問題演習
実戦問題演習① 玉は下段に落とせ!

いつもAIにやられてばかりなので、今日は手軽な相手をコテンパンにしてやりました。
東大将棋8の2級との対戦。横歩取り模様の出だしから後手に一失があり、ここは先手の私の必勝形になっています。
▲8八馬と引くくらいでも勝勢ですが、もっと明快な寄せがあるので考えてみてください。5手1組です。







正解は…















▲3二馬△同玉▲2一飛成△同玉▲2三銀です。





玉を下段に落とし、頭を銀で抑え、なんとこれで必死。先手勝ち。
頭金だけでなく▲3三桂からの詰み筋もあるので全てを受ける手がありません。

大駒を2枚とも切り飛ばす快感…たまらねぇ