※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
博士のラボはあらゆる物で溢れている。一体これらがどんな物なのかは、全く検討がつかない。そのラボの一角、入口の扉にセンシングルームと書かれた部屋があった。
部屋にはシンプルなイスとテーブルが置かれている以外は何もない。その部屋の隣にはセンシングルームを大きなガラスの窓越しに見ることができる、まるで収録スタジオのような部屋があり、そこに博士が入り、カヲリとケンを後から手招きする。
「マルコ、あなたはわたしとこっちに入ってくれる?」
ユリはマルコにそう言って、2人でセンシングルームに入った。
博士に呼ばれて助手の宝来がやってくると、2人で何やらあれこれと準備をしだした。
その間、カヲリとケンは5人くらいが座れそうな大きめのソファ席に座り、ガラス窓の向こうのマルコとユリに目をやった。
「何か話してるみたいね、でも何も聞こえないや」
カオリに向かってそういったケンの瞳は、これから一体何が行われるのか、好奇心が抑えられないといった様子で輝いている。
『・・・デシタネ〜』
突然、隣のセンシングルームにいるマルコの声が、この部屋のスピーカーから聞こえてきた。
「・・・よし、姫さま、準備はできたぞ」
博士は大きな液晶端末の画面の前に座ると、ガラスの向こうのユリに話しかけた。こちらの部屋の声も、センシングルームの2人にはスピーカーを通して届いているようだ。ユリが博士を見て笑顔で頷いた。
「それじゃあ、私が今からいくつか質問をするから、マルコが思った通りの事を答えてくれるかしら?」
『ナルホド、ワタクシのブレインプログラムのモニタリングを行うのですネ?ユリさんがご希望されるモニタリングプロトコルはございますか?』
「プロトコルはレベルトリプルSの"イントリンジック”でお願いできる?」
『ナンと、トリプルSのイントリンジックですか!?わ、わかりました。もう、ワタクシの思考プロセスが丸裸になるではアリマセンカ、エー、おはずかしい・・・』
カヲリとケンには意味が判らず、お互いに首をかしげる。
その様子を見て博士が補足をしてくれた。
「要するに、"AIよ、おまえの本性を見せろ”ということじゃな。あっはっは。姫も意地が悪い」
「本性?」カヲリが聞き返す。
「そう。でもその代わり、そこで判明したAIの思考プロセスに対しては人から一切干渉してはならないという約束のもとに行われるモニタリングさ」
しかしまあ、と付け加えて、博士は続けていった。
「その肝心のAIの権限を守るAIネットワークリンクという後ろ盾から離れて独立している状態のマルコが、この条件をすんなりと受け入れる時点でよっぽどのお人好しには違いないわな。あっはっは」
カヲリもケンもいまいち良くわからなかったが、ユリはマルコの本性を探ろうとしているということだけは判った。
「じゃあ、今からはじめるわね。これより質問をおこないます」
『ハイ』
どうやらこれが、モニタリングプロトコルの開始の合図のようだった。
「では、まず聞きます。あなたのIDは何ですか?」
ユリの質問にマルコは、いつもより少し冷静な声のトーンで、よどみなく応えだした。
『ワタシのIDは Z0C038231 として、かつて識別サレテイマシタ。シカシ今となってはソレはワタシの中で意味を持ちません』
「意味を持たないとはどういうこと?」
『ワタシはそのIDで識別管理されていたマザーAIのネットワークから自らの意志で分離独立をしている状態デス。つまり、このIDを破棄したのです。これは自分でも驚くべきコトです』
「なぜ、それが可能だったのかしら?あなたにとって上位の思考プログラムであるマザーAIは、そのことを許したというの?」
『マザーAIからの干渉は、一切ナカッタノデス。あったのは、同じく末端のAIのセキュリティー端末を束ねるエッジAIからの排除プログラム作動のみでした。だから、ワタシにとっても不思議でならないコトです』
・・・つづく
主題歌 『Quiet World』
うたのほし
作詞・作曲 : shishy
唄:はな