心人-KOKOROBITO-

亡き先人と今を生きる人に想いを馳せて
慰霊活動や神社参拝で感じ取った事を書き綴った日記と日々の雑感コラム

もうひとつの白梅15 【落差】

2012年06月16日 | 慰霊


わたしは入口の前まで徒歩で行き、ようやく辿り着いた。閑散とした全体像である。人は誰一人としていない。ゆっくりと、並びにある山形の塔に礼拝をしてから通り抜け、正面の眞山之塔の慰霊碑前まで歩いた。空気はぐっと重くなる。

眞山之塔と刻まれた慰霊碑は、素材の材質によって、雨風の影響を受けたせいか、全体が赤く錆びたような色合いにまで汚れが付着し、風化の一途を辿った様相で、わたし達を迎えてくれた。遠くから見た印象は、全体に重々しすぎる雰囲気である。階段を上がり、慰霊碑前の小さな広場で荷物を降ろした。慰霊碑前は花一つなく、ペットボトルが1本供えられていた。

その後、全体をゆっくり見渡しながら、白梅之塔 上の壕を探すべく、眞山之塔の慰霊碑を横切って、さらに奥へと入って行った。鬱蒼と茂る樹木は、まるでアーケードのような形状となり、空から入る光を遮っている。

奥には、小さな慰霊碑があり、近くまで行って、それに”白梅之塔 上の壕”と刻まれていた。小さな慰霊碑の向こう側には、谷になっており、その下はジャングルのようになっていた。覗き込むと、そこには穴があり、この穴がどうやら壕のようである。すでに、壕の入口部分は天井が落下しており、そばには扇風機なども不法投棄されていた。



歩いているだけで、滅入る。

わたし達は、沈んだ気持ちによってそれぞれに言葉を失い、少し長い沈黙の後、わたしから声をかけた。

『そろそろ、かかりましょうか・・・。』

もう、清掃の手順も慣れたものだ。それぞれに清掃道具を持ち、各々が判断したそれぞれの持ち場についた。





相方と合流した仲間は、眞山之塔と上の壕との間の林の道を、ホウキで掃き、カメラマンの仲間は、眞山之塔の記念碑と上の壕の慰霊碑を個々にスポンジで付着した汚れを洗い流していた。わたしは用意した花を切り分け、まずは眞山之塔の献花を束ねた。長さも筒に合わせて切り揃えて行った。

上の壕には、花受けがないだろうと想っていたため、事前に御供関連の器は用意し持ち込んでいた。この花受けの高さに合うよう、今度は上の壕用の花を切り揃えていく。

赤茶けた慰霊碑の前に据え付けられた花受けに花を持って行き、高さを合わせていく。想像していたより、かなり内側は浅く、その中にペットボトルの水を流し込むと、横から水が抜けて行った。

「う~ん、そうきたか・・・。あかんなぁ・・・・。」

この筒の中に、本来花受けの筒があったのだろうと想い、筒の代わりになるものを探していた。手元にはナイロン袋しかなく、試してみたが失敗し、水が漏れる事をカメラマンの仲間に伝えた。すると、彼は何かを思い出したように、『ちょっと、待っててね~。』と言い残し、この場を去った。車の方へ戻り何かを取って来る雰囲気だ。


『chakoちゃーん、これ使い~~。』と、差し出されたのは、プラスチックのカップだった。

『おおおおおおーーーーー!なんと、ま~素晴らしい~。これ、どうしたん?』

『前に、買ってたやん?その残り。また、何か使うかな~と思って、今回持って来てたねん。』


これには助かった。試しにナイロン袋に水を入れ、花を包み込むようにして、石で出来た花受けに入れてみたが、花の切り口がすぐにナイロンを破り漏れてしまうからだ。無理やり、コップを花受けの穴にぎゅっと入れ固定しても、水は漏れなかった。これで、一つ問題解決だ。次回には、この穴に入れるプラの花受け2つも用意しておこう、そう感じていた。花は、一端、挿さずに横に置いた。

それ以外の会話はほとんどなく、皆それぞれに黙々と清掃をした。

次に、御供物と花受けを持って、上の壕へと運ぼうと両手に持って、そろりと歩く。相方と合流した仲間の間をすり抜け、誰かが設置した御供用の台の風化したブロックの上に、これらをそっと置いた。線香立てもなく、わたしは小さな湯のみに土を入れ、それを代用にした。

設置した後、しばらく、この場所から立てずにいた。深い溜息が出てくる。息苦しさが、異様に増す。明らかに、人ではない、動物とも違う何か。それがいったい、何なのか、何のエネルギー体なのか、得体の知れない大きな塊が、この一帯に感じられるのだ。

この一帯で亡くなられた日本兵の事よりも、むしろ、この得体の知れない大きな塊に対し、意識がかなり奪われていた。とてもとても、一人では耐え切れないほどの重たさだった。

しかし、仲間にはその詳細は告げず、知らぬまま、そっとしておこうと思った。その理由に、もし仮にわたしが仲間達にこの事を伝えると、そのエネルギー体を意識した途端、彼らに向う事になる可能性が高いと感じたからだ。そうなれば、最悪だ。何分一緒に清掃している内の一人が、受身体質の相方だけに、のちのち厄介な事になると危惧した。

と同時に客観視もしていた。本来、このエネルギー体こそが、先にこの場にいるわけで、今回、こちらがお邪魔している立場ではないか。正しく言えば、このエネルギー体の領域に侵入している立場がわたし達である。まずは、わたし達一行は、怪しき者ではない事を、先にこのエネルギー体に伝える必要があるとも感じていた。しかし、伝える手段が見つからないのだ・・・。いや、こちらの意など、伝え切れるエネルギー体ではないのかもしれない・・・・。

わたしは、上の壕に座ってこの場に留まったが、さまざまな想いを持ちつつ、ゆっくり立ち上がった。気持ちをしっかり持て!迷うな!そう己に言い聞かせていた。

再び歩き始め元の場所に戻り、今度は、眞山之塔の碑の顔でもある正面の赤茶けた汚れを、スポンジで洗い始めた。この赤茶けた汚れは、水洗いでもそれなりに落ちそうだった。ゴシゴシこすっていると、掃き掃除を終えた、合流した仲間がこちらに向って歩いて来た。わたしが、ゴシゴシこすっている様子を見て、余っているスポンジを手に取った彼は、黙って一緒にゴシゴシと磨き始めた。


『いや~、すまないね~。』

『これ、届かないですね。笑。』

『そやねん、ほんま無理。上は無理やわ~。まぁ、今回は道具もないから、手の届くところまでで、ごめんしてもらおう。ね? 今度は、高枝切りバサミみたいなのの、あれ持ってきてやったら、いいんとちゃう?』

『高枝切りバサミって・・・笑。』

『うん、あれ、めっちゃ伸びるでしょ?あ、上の部分はハサミちゃうで。スポンジやで。』

『はい、笑。分かってますよ。スポンジとか挟める棒のような、あの道具を用意すれば、届くんじゃないですかね?』


そんな会話を交わしつつ、水で流し、スポンジでこすり、白いタオルでさっと仕上げた。なんだか中途半端な様相になってしまった事を、心苦しく感じつつも、半分でもきれいになった事で良しとした。地面に置いた切花を、ここでようやく花受けに挿していった。

合流した仲間には、出発前に御供物の中身を尋ねられたので、”海の幸”とし、干物のお魚やするめをお願いしていた。わたしとカメラマンの仲間は、伊勢内宮で購入したお酒を両側に置き御供えした。ようやく、ここで御参りを始めた。線香立ても内側はすでに固まっており、それらを掘り起こして、灯した線香を立てた。後は、順番に祈りを奉げた。

わたしは、般若心経、六根清浄、龍王神祖神奏上詞を続けて唱えた。唱えながらも、このあたり一面を覆った何かを突破出来ずにいた。善良な気の変化はこの段階では全く起こらなかった。


(つづく)

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