酔っ払いブギ８

2002年11月9日

　このところ、毎日のように酔っ払いのおいちゃんが現れる。昼間から酔っ払って、他のお客さんにからんでいる。しかし、この間警察に捕まったばかりなので、トラブルを起こすまでは至ってない。

　今日も、いつものように、ぼくのいる売場の隣にある、お客さんの休憩所から怒号が聞こえてきた。
「コラー、殺すぞ」
　しかしいつものようなドスはきいてない。
　しばらくドスのない声が続いていた。が、そのうち静かになったので、帰ったのだろうと思っていた。

　ところが、たまに「コラー、文句あるんか」とか、「せわしいんたい！」などという声がする。
「まだ帰ってなかったんか」と、休憩所を覗いてみると、おいちゃんは海老のような格好をして寝ていた。
　休憩所にある団子屋さんに、
「また、おいちゃんの怒鳴り声が聞こえたんやけど」と聞いてみると、団子屋さんは
「寝言よ、寝言。時々寝たままで何かしゃべりよるんよね」と言った。
「しかし、今日は珍しくおとなしいね」
「うん、そう言われれば、そうやねぇ。来てすぐは、ほかのお客さんに絡みよったけど、いつもの迫力はないねぇ」
「まあ、起きたらまた荒れるやろうけ、何かあったら呼んで」と言って、ぼくは自分の持ち場に戻った。

　それから３０分ほどして、さっきの団子屋さんが「しんたさーん」と血相を変えて走ってきた。
「どうしたと？」
「おいちゃんが、おしっこ漏らしとるんよ」
「ええ？！ 寝小便したんね」
「うん、床がもうビショビショ」
「わかった、すぐに行く」
　ぼくはバックヤードに行き、ぞうきんとバケツを用意して現場に駆けつけた。

　休憩所に行ってみると、団子屋さんの言うとおり、おいちゃんのズボンの股付近は濡れ、ベンチの下は一面おしっこだらけになっていた。
　ぼくが「おいちゃん」と声をかけても、全然起きる気配がない。
　とりあえずおいちゃんは後回しにして、先におしっこの後始末をすることにした。

　掃除を始めて３０分ほど経った。そろそろ閉店時間だ。
　おいちゃんはまだ寝ている。ズボンはまだ乾いてない。しかしそのまま寝かしておくわけにはいかない。
「おいちゃん。もう時間よー」と声をかけた。起きない。ぼくは何度もおいちゃんの体を揺さぶった。ようやく目を覚ました。
　様子が変だ。普段なら、ここで大声を上げて「なんか、コラー！」とくる。ところが今日はそれがない。
「おいちゃん、店閉まるよ。早よ帰らな」と声をかけても、ボーっとしている。顔が腫れている。声にも力がない。高校生のアルバイトをつかまえて「おまえはおれの子だ」などと訳のわからないことを言っている。

　何分か後においちゃんは立ち上がり、ヨタヨタしながら店を出た。外は寒い。股の部分は濡れたままだ。応えるだろう。
　ぼくたちは「今からどこに行くんやろうか」「おそらく、警察やろう」「警察が自分の家ぐらい思っとるけね」などと言い合った。

　さて、明日は朝一番に、おいちゃんが寝ていたベンチを拭かなければならない。これが苦痛です。臭かったからなあ。