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吹く風ネット

酔っ払いブギ7

2002年11月2日 酔っ払いのおいちゃん逮捕される

 夕方、聞き覚えのある怒号が聞こえてきた。
「こら、きさま~。なめとるんかっ!!」
 お客さんの休憩所からだった。
 それを聞いて、ぼくは走ってその場所まで行った。
 聞き覚えのある声の持ち主は、酔っ払いのおいちゃんだった。久しぶりの登場である。
 おいちゃんは、ベンチで惣菜を食べながら、酒を飲んでいた。
「おいちゃん、何大きな声出しよるんね。他の人が迷惑するやろ」
「あ、大将。すいません。でも、子供が生意気なこと言うもんで」
 おいちゃんの視線の先には、4.5歳くらいの小さな子が二人いた。脇には二人のじいちゃんらしき人が座っていた。
「生意気なことって、まだ子供やん。いい歳して子供相手にケンカなんかしなさんな」
おいちゃんは、「はい、すいません」と言いながら、また子供に向かって、「こら~! 前科者をなめるなよ」などと凄みだした。
「前科者やないやろ、小心者やろ。いらんこと言いなさんな」
「はい。もう言いません」
「本当やね。大人しくしときよ」
「はい、すいません」

 ぼくの姿が見えなくなるまで、おいちゃんは静かにしていた。が、ぼくが売場に戻ると、子供の泣き声がしてきた。そして今度は違う声が飛んできた。
「こら、きさま。子供を泣かせやがって! 表に出れ!」
「何を~!」
 ぼくはまたおいちゃんのいる場所に走って行った。
 おいちゃんに絡んでいたのは、子供のじいちゃんだった。今度は人が入って止めていた。
 じいちゃんには娘が、「お父さん、もういいけ帰ろう」と言っている。しかし、じいちゃんの怒りは収まらない。
 おいちゃんには店長代理が、「おいちゃん、人に迷惑かけるなら出て行き」と言っている。
 しかし、おいちゃんは言うことを聞かない。
「おれが悪いことしたか!」
「人に迷惑かけよるやないね」とぼくが言うと、おいちゃんは
「子供がこちらを見るけたい!」と言い返す。
「じゃあ、反対側向いとったらいいやん」と、ぼくは子供と逆の方向を指差した。おいちゃんは黙った。
 ぼくは、じいちゃんに「すいません」と謝ったが、じいちゃんはまだ怒りが収まらないのか、おいちゃんを睨みつけながら外に出て行った。

 それからしばらくして、またおいちゃんの騒ぐ声が聞こえた。ところが、おいちゃんの声はだんだん遠のいていった。
「どうしたんだろう」と思っていると、店長代理がやってきて、「おいちゃん、逮捕されたよ」と言った。
「逮捕ですか」
「うん、あのじいちゃんが連絡したみたい。よっぽど頭にきたんやろうね」
「かわいい孫を泣かされたからですね」
「ま、これでまたいっとき来んやろ」
「案外、作戦やったかもしれんですね。今日は寒いけ、警察で寝たかったんやないですか」
「ああ、そうかもしれんね」

 ところで、酔っ払いのおいちゃんは、いつも地下足袋を履いているのだが、その格好といい、頭の形といい、『あしたのジョー』に出てくる丹下段平に似ている。ということは、これからは、矢吹丈ばりに「おっちゃん」と呼ばなければならない。
しかし、段平おっちゃんはボクシングの優秀なコーチだが、こちらのおっちゃんは何をコーチしてくれるんだろう。
 強いてあげれば、酒のコーチか。
「立つんだ、ジョー」ではなく、「飲むんだ、しんた」となるわけか。


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