コーイチは扉の方へと歩き出した。
「そうそう、それで良いのですよ」大王は含み笑いをしながら言う。「ここから逃げることが、この三人娘の思いなのですからね」
三人娘は、うなだれてとぼとぼ歩くコーイチの背中を見ている。
「コーイチさん!」逸子が声をかける。「あなたは間違っていないわ!」
「そうよ!」花子も声をかける。「コーイチさんが無事なのが一番なのよ!」
「そうです!」洋子も声をかける。「わたしたちは、コーイチさんを失いたくないんです!」
コーイチは立ち止まる。しかし、振り返らなかった。
「さあさあ。立ち止まらずに……」大王は飛び切り優しい口調で言う。「あなたが出て行かれた後で、この三人娘と大事な話があるのですよ」
大事な話とは、今後の大王の悪事に三人を加担させる企みの事だ。そう知るコーイチだったが、自分ひとりの力では何もできないことも自覚している。ジョーカーやブサシやリー・チェンに協力を求めることもできないだろう。行動を起こしたら、彼らはたちどころに(それこそ本当に)消されてしまうだろうからだ。……やっぱり、ここは大人しくこの世界でのんびり暮らすのが一番かもなぁ。でも、あの三人に悪いことはさせられない…… コーイチは、外見はぼうっとして立っているだけだったが、心の中ではかなり葛藤していた。
「さあ、遠慮はいりませんぞ」大王は楽しそうに言う。「早く、この三人娘の希望をかなえてあげる事です。それがあなたにできる唯一の事ですよ」
コーイチは振り返った。逸子、花子、洋子は不安そうな顔をしていながらも、無理に笑顔を作っていた。
と、その時、コーイチの脳裏に浮かぶものがあった。
どんよりとした暗くて視界のきかない大時化の大海原に、深い海底から赤いブロック体の大きな文字がせり上がってきた。海水を滴らせながら出て来た文字は『恋人』だった。続いてピンク色の文字がせり上がる。それは『恩人』だった。さらにオレンジ色で『先輩』がせり上がってきた。
……そうだ! ぼくは三人を守らなければいけないんだ! 三人を悲しませてはいけないんだ!
海面に並んだ三つの言葉は互いにくっつき始めた。すると、ぱっと明るく輝く塊になり、宙に浮かんだ。輝きが治まると、そこには金色のブロック体で『正義』の巨大な文字があった。その文字は、どんよりした大海原を照らし、真昼の穏やかな海へと変えた。
……そうだ! 正義だ! 正義は必ず勝つ、はずだ!
コーイチは扉に背を向け、大王の方へと歩いた。
「おや、どうしました?」大王がからかうように言う。「気が動転して、方向もわからなくなりましたかな? 出口はあちらですよ」
「そうよ、コーイチさん!」逸子が必死の声を出す。「しっかりして!」
「落ち着いて!」花子も叫ぶ。「あなたがここを去っても、わたしたちは恨んだりしないわ!」
「ここを去ってくれた方がうれしいんです!」洋子は泣きながら叫ぶ。「お願いです! コーイチさんに何かあったら……」
「……おやおや、三人とも必死じゃありませんか」大王から笑顔が消えた。「私も気の長い方ではないのだぞ。いい加減にしてもらおうか」
「……でも、正義は必ず勝つ、はずだ……」コーイチは耳元で高鳴っているような心臓を感じつつ、震える声で言い返す。「悪がはびこるわけが無い、と思う……」
「ふん、強がっているのかね?」大王はコーイチを見下すような表情をする。「それに、はずだ、思うなんて確信が持てない言い回しをして…… そう言うところが君の弱点だな」
「コーイチさん! こんなところで良い恰好しなくてもいいのよ!」
「そう、逸子さんの言う通りよ! 無茶しないで!」
「そうです! 戦うのなら、わたしたちに任せてください!」
コーイチは一人一人の顔を見た。三人とも涙を流している。
「ぼくがやられたら、三人とも何も気にすることなく大王を倒せるだろう?」コーイチは大王に向き直った。「これが、ぼくにできる唯一の事、正義なんだ!」
「ほほう……」大王は感心したように、何度もうなずいた。「いや、実にすばらしい覚悟ですな。何も出来ないなどと言ったこと、お詫びいたしますよ。では、その覚悟を尊重し、私の全創造力を持って、あなたに相対しましょうか……」
三人娘は「やめて!」の大合唱を繰り返す。
「さあ、やってみろ!」コーイチは大王をにらみつけた。「僕の仇は、三人が必ず討ってくれるさ!」
「……いやいや、泣けますなあ……」大王の目が不気味に光り始めた。「……あなたを倒す前に、一つだけ言っておきましょう」
「な、なんだ!」
「お忘れですかな? 三人を閉じ込めている檻の鉄格子は三人の力を持ってしても破れなかったと言う事を」
三人娘は同時に「あちゃーっ!」と悲嘆の叫びを上げた。
「え? そうだっけ……」コーイチは急におろおろする。「……でも、怒りのパワーで何とかなるんじゃないかと……」
「残念ながら、そうは行きませんな」大王は両手を上げた。手先が白く光り始めた。「……さあ、おふざけはそこまでだ。諦めてもらおうか」
大王は言うと白く光る両手を振り下ろした。
「そうそう、それで良いのですよ」大王は含み笑いをしながら言う。「ここから逃げることが、この三人娘の思いなのですからね」
三人娘は、うなだれてとぼとぼ歩くコーイチの背中を見ている。
「コーイチさん!」逸子が声をかける。「あなたは間違っていないわ!」
「そうよ!」花子も声をかける。「コーイチさんが無事なのが一番なのよ!」
「そうです!」洋子も声をかける。「わたしたちは、コーイチさんを失いたくないんです!」
コーイチは立ち止まる。しかし、振り返らなかった。
「さあさあ。立ち止まらずに……」大王は飛び切り優しい口調で言う。「あなたが出て行かれた後で、この三人娘と大事な話があるのですよ」
大事な話とは、今後の大王の悪事に三人を加担させる企みの事だ。そう知るコーイチだったが、自分ひとりの力では何もできないことも自覚している。ジョーカーやブサシやリー・チェンに協力を求めることもできないだろう。行動を起こしたら、彼らはたちどころに(それこそ本当に)消されてしまうだろうからだ。……やっぱり、ここは大人しくこの世界でのんびり暮らすのが一番かもなぁ。でも、あの三人に悪いことはさせられない…… コーイチは、外見はぼうっとして立っているだけだったが、心の中ではかなり葛藤していた。
「さあ、遠慮はいりませんぞ」大王は楽しそうに言う。「早く、この三人娘の希望をかなえてあげる事です。それがあなたにできる唯一の事ですよ」
コーイチは振り返った。逸子、花子、洋子は不安そうな顔をしていながらも、無理に笑顔を作っていた。
と、その時、コーイチの脳裏に浮かぶものがあった。
どんよりとした暗くて視界のきかない大時化の大海原に、深い海底から赤いブロック体の大きな文字がせり上がってきた。海水を滴らせながら出て来た文字は『恋人』だった。続いてピンク色の文字がせり上がる。それは『恩人』だった。さらにオレンジ色で『先輩』がせり上がってきた。
……そうだ! ぼくは三人を守らなければいけないんだ! 三人を悲しませてはいけないんだ!
海面に並んだ三つの言葉は互いにくっつき始めた。すると、ぱっと明るく輝く塊になり、宙に浮かんだ。輝きが治まると、そこには金色のブロック体で『正義』の巨大な文字があった。その文字は、どんよりした大海原を照らし、真昼の穏やかな海へと変えた。
……そうだ! 正義だ! 正義は必ず勝つ、はずだ!
コーイチは扉に背を向け、大王の方へと歩いた。
「おや、どうしました?」大王がからかうように言う。「気が動転して、方向もわからなくなりましたかな? 出口はあちらですよ」
「そうよ、コーイチさん!」逸子が必死の声を出す。「しっかりして!」
「落ち着いて!」花子も叫ぶ。「あなたがここを去っても、わたしたちは恨んだりしないわ!」
「ここを去ってくれた方がうれしいんです!」洋子は泣きながら叫ぶ。「お願いです! コーイチさんに何かあったら……」
「……おやおや、三人とも必死じゃありませんか」大王から笑顔が消えた。「私も気の長い方ではないのだぞ。いい加減にしてもらおうか」
「……でも、正義は必ず勝つ、はずだ……」コーイチは耳元で高鳴っているような心臓を感じつつ、震える声で言い返す。「悪がはびこるわけが無い、と思う……」
「ふん、強がっているのかね?」大王はコーイチを見下すような表情をする。「それに、はずだ、思うなんて確信が持てない言い回しをして…… そう言うところが君の弱点だな」
「コーイチさん! こんなところで良い恰好しなくてもいいのよ!」
「そう、逸子さんの言う通りよ! 無茶しないで!」
「そうです! 戦うのなら、わたしたちに任せてください!」
コーイチは一人一人の顔を見た。三人とも涙を流している。
「ぼくがやられたら、三人とも何も気にすることなく大王を倒せるだろう?」コーイチは大王に向き直った。「これが、ぼくにできる唯一の事、正義なんだ!」
「ほほう……」大王は感心したように、何度もうなずいた。「いや、実にすばらしい覚悟ですな。何も出来ないなどと言ったこと、お詫びいたしますよ。では、その覚悟を尊重し、私の全創造力を持って、あなたに相対しましょうか……」
三人娘は「やめて!」の大合唱を繰り返す。
「さあ、やってみろ!」コーイチは大王をにらみつけた。「僕の仇は、三人が必ず討ってくれるさ!」
「……いやいや、泣けますなあ……」大王の目が不気味に光り始めた。「……あなたを倒す前に、一つだけ言っておきましょう」
「な、なんだ!」
「お忘れですかな? 三人を閉じ込めている檻の鉄格子は三人の力を持ってしても破れなかったと言う事を」
三人娘は同時に「あちゃーっ!」と悲嘆の叫びを上げた。
「え? そうだっけ……」コーイチは急におろおろする。「……でも、怒りのパワーで何とかなるんじゃないかと……」
「残念ながら、そうは行きませんな」大王は両手を上げた。手先が白く光り始めた。「……さあ、おふざけはそこまでだ。諦めてもらおうか」
大王は言うと白く光る両手を振り下ろした。
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