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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 157

2019年03月31日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「ええぃ、もう!」
 花子はじれったそうに叫び、落下しながら身をひるがえして空に向いた。たまたま仰向けになって落ちているコーイチは花子の様子を見ていた。花子は手の平をぱっと広げて、両手を空に向かって突き出した。……こんな様子を歌った歌があったよなあ。子供の時に歌わされたなあ。コーイチは妙にノスタルジックになっていた。
 花子の手の平に呼応するように、空から何かがものすごい速さで近付いてきた。
「うわあ! ぶつかるぅ!」
 コーイチは叫んで思わず目を閉じる。
 不意に落下速度が遅くなった。いや、落下と言うよりも、ゆっくりと降ろされているようだ。コーイチが目を開けると、隣で花子があぐらをかいて座ってた。……え? どうなっているんだ? コーイチは思った。
 気持ちが落ち着いてくると、、自分が何かに乗っていることに気がついた。手の平で確認する。柔らかいがしっかりしている。
「コーイチさん! 全く、一時はどうなるかと思ったわ!」花子が怒ったように言い、それからふっと笑顔になった。「でも、もう大丈夫よ。雲の上だから」
「……雲?」
「そうよ。ほら、大王の城に向かう時に乗ったでしょ?」
「……ああ、そうだったね」コーイチはよっこらしょと、からだを起こした。少し長めの雲に花子と並んで座っている。「助けてくれたんだね。ありがとう」
「あのまま落ちていたら、さすがのわたしだってどうなっていたか……」花子は諭すように言う。「それに、コーイチさんは、消すことは出来ても、創り出すことは出来なさそうだから、むやみに消そうとしないことね」
「うん、ごめん……」
「まあ、いいわ……」花子はぐっと顔をコーイチに近づける。「やっぱり、わたしがいないとダメね」
「……」
 コーイチはあいまいな笑顔を花子に向けた。それから、周囲を見回した。
「ところで、他のみんなは……?」
「大丈夫よ。それぞれが雲に乗っているわ」
「そうなんだ。でも、どうせなら、みんな一緒にしてしまえば良かったんじゃないかな?」
「ダメよ!」花子が大きな声で言う。「みんなと一緒じゃ、二人っきりになれないじゃない!」
「は?」
「もう、お馬鹿さん!」花子は言うと、ぷいとコーイチに背中を向けた。そして。小声で付け足した。「少しは乙女心をわかってよね」
「そうだ! それぞれを雲に乗せたって言ってたけど、大王もかい?」
「そうよ」花子はコーイチに向き直る。「大王はあっちの世界へ連れ戻して罰を受けさせるって事だから。だから、わたしたち、逸子ちゃん、洋子ちゃん、そして大王よ」
「ふ~ん……」コーイチはそこではっとなった。「六郎は……?」
「六郎……?」花子もそこではっとなった。「……忘れてた……」
 やがて、花子たちを乗せた雲は地上へたどり着いた。先に着いていたのか、逸子と洋子が雲から降りて立っていた。花子たちが雲から降りる。
「よかった! 無事だったのね!」逸子は花子の手を取って喜ぶ。「城も山も消えた時は、どうなっちゃうんだろうって思ったわ」
「雲を出してくれたのは、花子さんだ」コーイチが申し訳なさそうに言う。「こうなったのは、ぼくのせいなんだ……」
「コーイチさんが、山も城も無くなれば良いって願ったからよ」花子はちらちらとコーイチを見ながら言う。「でも、それはわたしたちが戦わなくても良いようにって思ったからなのよ。だから、許してあげましょう」
「やっぱりコーイチさんでしたか」洋子は一人うなずいている。「なら仕方ないですね」
「そうね」逸子もうなずく。「なんてったって、コーイチさんだもんね」
 ……なんでぼくならみんな納得するんだ? 憮然とするコーイチだった。
「そうだ、大王は?」コーイチが話題を変えようとして言った。「花子さんの話だと、雲に乗っているとか……」
「あっちです」洋子が指差す。「その隣には例の、あれが……」
 大王は雲の上に後ろ手のままで座っていた。観念したのか悪態も付かず、しかし、じろりと睨み返してきた。
 その隣には、黒ずくめの六郎が、大の字のままで地面にめり込んでいた。
「結構深くめり込んだわね……」花子が覗き込みながら言う。「大丈夫かしらね? ま、大丈夫じゃなくても良いんだけど」
「大丈夫そうですよ」洋子が六郎を指さす。「ほら、聞こえるでしょう(六郎は「げへへげへへ」と薄気味悪い笑い声を上げていた)。『肉まんっ子、余分に幅取る』って言いますから、命根性が張っていて、しぶといんですよ」
「こんだけタフなら」逸子は吐き捨てるように言う。「勝手に自分で這い上がって来るわね。放っておいて平気ね!」
「後は……」花子は大王に向き直る。「エンピツと消しゴムを返してもらうだけですね」
 三人娘は大王を取り囲んだ。
「さあ、大人しく返してください!」洋子が大王に向かって右手を出す。「さっきも言われてましたよね。あなたの負けです」
「……ふん!」大王は洋子を睨みつけた。「返してほしいだと? ならば、この身をさぐって探すが良かろう」
「え?」洋子は戸惑いの表情で花子を見た。「……わたし、触れません。年を取っていても、男の人ですから……」
「何を言ってんのよ」花子が呆れたように言う。「さっさと見つけないと」
「花子さん、やってくださいよ」
「わたしもイヤよ。何か悪い事企んでいるかもしれないし……」
「じゃあ、逸子さん……」
「わたし? イヤよ。だって、おじいちゃんじゃない」
 三人の視線が一斉にコーイチに集まった。
「え? ぼく?」
 コーイチは自分自身を指さした。
 

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