お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 158

2019年04月02日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 仕方ないと言うように大きなため息をつくと、コーイチは大王の前に立った。
「……と言う訳で、大王さん、改めさせてもらいますね」
 コーイチは言って、大王に向かって手を伸ばした。
「気をつけて! コーイチさん!」花子が叫ぶ。コーイチの手が止まる。「なんたって、悪人よ! 油断したら何されるか分かんないわ!」
「……そうなんですか?」コーイチは不安そうな顔を大王に向ける。大王は無表情だった。「……もう、あきらめたんでしょ?」 
「でも……」逸子がイヤそうな顔で言う。「創造ができるんでしょ? 手が使えないからと言ったって、その業が使えないって事はないと思うわ! ひょっとしたら爆弾みたいなものを創造してしまうかも。後はどうとでもなれって思っているはずよ! だって、先の短いおじいちゃんなんだし」
「……そうなんですか?」コーイチの喉がごくりと鳴る。大王は無表情だった。「『後は能登行き大和行き』って感じで、やけっぱちになっているんですか?」
「……確かにそれは言えるでしょうね」洋子は真顔で言う。「あっちに戻れば、ベリーヌ、マスター、ショーグンと共に刑務所に入れられます。それぞれがここで好き放題していたので、刑務所は耐えられないでしょうね。……ならばすべてを滅ぼしてしまおうって考えてもおかしくありません」
「……そうなんですか?」コーイチの手が恐怖で震える。大王は無表情だった。「ぼくが触ったら、途端に何かするつもりなんですか?」
「ふん!」大王口を開いた。「三人娘よ、なかなか良いアイディアを提供してくれたな。大人しくしようと思っておったが、お前たちの言ったことを参考にさせてもらおうか。……さて、何をしてやろうか……」
「ええっ!」三人娘は同時に悲鳴を上げる。「どうしよう!」
 おろおろしている三人娘を見て、形勢逆転とばかりに、大王は高笑いをする。
「……大王さん!」
 コーイチが格好をつけて言った。しかし、三人娘がきゃあきゃあ騒いでいるせいで大王は気づいていない。コーイチはため息をつきながら三人娘に振り返る。
「あのね……」
 コーイチが声をかける。しかし、三人娘はそれに気づかず互いを指さしながら「あなたのせいよ!」「わたしじゃありません!」「あなた、ここの主なんでしょ!」と言い合って、きゃあきゃあ騒いでいる。
「あ・の・ね!」コーイチが大きな声を出した。やっと三人娘の口と動きが止まりコーイチの方を見た。「ここは、ぼくに任せてほしいんだ」
「……大丈夫なの?」花子が心配そうに言う。「良いのよ、無理して見栄を張らなくても…… わたしたちで何とかするから……」
「心配してくれてうれしいんだけど、大丈夫! ぼくに考えがあるんだ!」
 コーイチは、にんまり笑って胸を張る。
「……頼もしいですね……」洋子の頬がぽっと赤くなる。「素敵です……」
「コーイチさんが、ああなる時って……」逸子は暗い顔になる。「いつも、何かやらかしちゃうのよね……」
 コーイチは大王に向き直った。
「大王さん、エンピツと消しゴムを返してください」
「さっきも言っただろう?」大王は鼻で笑った。「返してほしいなら、このからだをさぐるが良いだろう。お前は男だから平気だろう? ただし、どうなるのかは知らんがね……」
「そうですか、そうですか……」コーイチは大王の口癖を真似た。「では、仕方がありませんね」
 コーイチはぽうっとした表情になった。
「う、うぬぬ……」しばらくして、大王が唸りだした。「お、おのれぇ!」
 大王の着ているタキシードが薄くなって半透明になって行く。上着の胸の内ポケットの位置にエンピツと消しゴムが見えた。上着が消え、エンピツと消しゴムは雲の上に転がった。
「お、おのれぇぇぇ!」大王は天を見上げて叫んだ。「ば、爆弾を! この世界を吹き飛ばす爆弾よ、出でよ!」
「きゃ~っ!」
 三人娘が悲鳴を上げ、目を閉じた。が、しばらくしても何も現れなかった。
「……くっ……」
 大王はうなだれた。三人娘もほっとしたように目を開けた。
「やったあ!」歓喜の声を上げた。思わず握り拳を天に突き上げる。「どうだぁ! ぼくは、着ている服を透明にして行ってエンピツと消しゴムの在りかをさぐろうと願った。そして、大王さんに聞き従わないようにとも願った。この世界がぼくに好意を持っていることを利用させてもらったんだ。どうだい、秀逸な作戦だろう!」
「きゃ~っ!」
 背後から黄色い声が轟いた。……これで、三人とも少しはぼくを見直してくれるだろう。コーイチは背後の歓声を心地よく聞いていた。
「きゃ~っ! きゃっ、きゃっ、きゃ~っ!」洋子が一人で歓声を上げている。「きゃああああああっ!」
「……芳川さん、そんなに喜んでくれるなんて」コーイチは満面の笑みで振り返った。「……!」
 洋子が後ろを向いてしゃがんでいる。滑らかな背中と程良い丸みのお尻が見えている。その隣には、にこにこしている花子が、ふくよかな胸を震わせながらコーイチの真似をして拳を突き上げている。……え? 二人とも裸? コーイチは思わず見つめてしまった。
 すると、すっとコーイチの目の前に逸子が立って視界をさえぎった。
「コーイチさん! ダメ!」
 逸子は言うと、コーイチの横面を思い切り張った。コーイチは空を回転しながら、数十メートル先まで吹っ飛んで行く。そのまま倒れて動かなくなった。逸子はあわててコーイチのところに走って行った。
「は、花子さん! 服! 服~っ!」洋子はしゃがんだまま叫ぶ。「服を着せてください!」
「え? ああ、良いわよ」
 花子は平然として手を洋子に向ける。光が洋子を包み、光が消えるとカンフー着に戻っていた。洋子は立ち上がった。お礼を言おうと花子に向き直る。
「わあ~っ!」洋子がまた叫ぶ。「花子さん! 花子さんも、服! 服~っ!」
「え? わたしも?」花子が驚いた様に言う。「わたしは別にかまわないけど……?」
「ダメなんです! 乙女はむやみに裸をさらさないんです~っ!」
「ふ~ん。乙女って面倒ねぇ……」花子は自身を光で包んだ。光が消えるとカンフー着に戻っていた。「これで良いのね?」
「……はい」洋子はやっと落ち着いたとばかりに深呼吸をする。「コーイチさんの作戦がこっちまで影響するなんて思ってもみませんでした……」
「服を消して行くように願ったって言ってたからね」
「大王の、って限定してくれれば良かったんです!」
「逸子ちゃんが言っていたわね……」花子は遠くを見つめた。逸子は倒れているコーイチの肩をつかんでがくんがくんと揺すっていた。「自信満々な時は、何かやらかすって…… でも、それも含めて、わたしはコーイチさんが好きだわ……」
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コーイチ物語 2 「秘密の... | トップ | コーイチ物語 2 「秘密の... »

コメントを投稿

コーイチ物語 2(全161話完結)」カテゴリの最新記事