お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 152

2019年03月11日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「え? ぼく?」コーイチはきょとんとした顔で自分を指さす。「どうして、ぼくが?」
「おやおや、お気づきではない……」大王は呆れたように頭を振ってみせる。「実は、ここにいる三人はですな……」
「ちょっと! 余計なこと言わないでよ!」花子が大声で大王の話をさえぎる。「コーイチさんは関係ないでしょ!」
「そうよ!」逸子も負けじと大きな声を出す。「それに、わたしは被害者よ! さっさとここから出してよ!」
「大王が恨むなら、わたしじゃないですか!」洋子も大きな声を出す。「もともとはわたしと大王との間のことじゃないですか!」
「……にぎやかですなあ……」大王はぎゃんぎゃん騒いでいる三人を楽しそうに見ている。「若い娘さんは、敵だとしても華やかで良いものですなあ。……おっと、一人は別でしょうかな?」
「なによ! わたしへの当て付け?」花子は大王をにらみつけた。「わたしは永遠に若いのよ!」
「ほう、そうですか、そうですか……」大王は笑う。「では、そう言うことにしておきましょう」
「花子さん、この鉄格子、何とかなりませんか?」洋子が花子に言う。「この世界の主なんですから、ちょちょいと消しちゃうなんてことは……」
「う~ん」花子は困った顔をする。「実は、檻に閉じ込められて、すぐに試していたんだけど、ダメなのよね……」
「ダメですか、そうですか、そうですか」大王が含み笑いをする。「私の方がこの世界を扱うのに長けたと言う事でしょうかなあ。もっと平たく言えば、私の方が力を付けたと言う事ですよ」
「なによ! 偉そうに!」花子が鉄格子を両手でつかんで揺する。しかし、びくともしない。「……そうだ! 逸子ちゃんも洋子ちゃんも、拳法に達人じゃない? えいやって、なんか技を使って粉砕できないの?」
「実はわたしも閉じ込められてすぐに技を試したんですけど、ダメでした……」
「洋子ちゃんも試したんだ……」逸子はくやしそうに言った。「わたしも試したけど、ダメ、びくともしないわ」
「まあ、皆さんの実力はわかっておりますからな」大王は笑みをたたえながら言う。「そう簡単に壊されるようには創ってはおりませんよ」
「ずいぶん意地の悪い老人ですね!」
「意地が悪いだけじゃないわ! 人を操る変質者よ!」
「若い娘を檻に閉じ込めてへらへらして、卑怯者よね!」
 三人は吐き捨てるように言うと、きゃっきゃと笑った。……三人とも、こんな時に良い度胸をしているなぁ。ぼくには絶対できない。今だったほら、心臓が耳元で爆鳴りしているみたいだ。ごくりと喉を鳴らしてコーイチは思った。
「ええい! 黙れぇ!」大王は怒鳴った。三人はぴたりと笑いを止めた。「大人しくしておれば調子に乗りおって!」
「だって、あなたは悪人じゃない。だからここへ来たんでしょ?」花子は冷静に言う。「わたしとしてはとても迷惑なのよ」
「そうです」洋子も落ち着いた口調で言う。「この世界は、もう花子さんにお返しして、あなたは元の世界に戻って罪を償うべきなんです」
「わたしを捕まえて操った罪も加えてもらうわ」逸子も穏やかに言う。「もう終身刑は確実ね」
「いえ、逸子さん、大王は元々が終身刑なんです」
「そうなんだ。道理で悪そうだものね」
「そうなのよ。このわたしの世界を刑務所代わりにしてるのよ。迷惑な話だわ」
「あ、花子さん、すみません……」
「いや、洋子ちゃんを責めているんじゃないのよ。こんな取り決めをした過去の人たちに言ってるの」
「この人には本物の刑務所の方がお似合いだわ」
「……おまえたち、いい加減にしろ!」大王は三人の檻の前に立った。「お前たちが何をどう言おうとも、どうやろうとも、この檻は私が取り払わない限り、お前たちはずっとその中に居続けるのだぞ。強がりも今の内だ」
 大王は勝ち誇ったように高笑いをする。「意地悪!」「変質者!」「卑怯者!」と、三人の娘たちは文句を言った。
「どうだ、出して欲しくはないか?」大王は三人の罵り言葉を聞き流して言う。「言う事を聞くと誓えば、出してやるぞ。檻の中には食事も風呂もトイレもないんだぞ」
「まあ! 下品なこと言うわね!」逸子が険しい顔で言う。「やっぱり悪党ね。脅し文句が下品すぎるわ!」
「本当にそう思います!」洋子も怒った顔で言う。「呆れました。大王なんて名ばかりですね!」
「あ~あ、こんなのが創造の業を使えるようになるなんて!」花子がわざとらしくため息をつく。「この世界もおしまいかなあ……」
「そこまで勝手な事を並べるかねぇ…… ま、いいでしょう」大王の口調が穏やかになった。「では仕方がありませんなぁ…… 皆さんの弱点を突かせてもらうとしますか……」
 大王はコーイチに顔を向けた。大王の表情は邪悪なものとなった。しかし、笑みをたたえたままだ。それがさらに邪悪さを強烈なものにしている。
「コーイチさん! 逃げて!」逸子が叫ぶ。「大王はコーイチさんを襲う気よ!」
「そうよ!」花子も叫ぶ。「わたしたちのことは良いから、早く逃げて!」
「逃げてください!」洋子も叫ぶ。「元々はわたしと大王の話なんですから!」
「ほう、そうですか、そうですか……」大王は嬉しそうだ。「コーチさんとやら、あなた、この三人娘によっぽど好かれているようで、命に代えてもって感じですかなあ。いやあ、羨ましい限りですよ」
 出入口の大きな扉が、ばんと音を立てて開いた。
「さあ、逃げるのでしたら、どうぞ、遠慮はいりませんよ」大王は優しく言った。「三人娘もそれを望んでいますし、あなた一人では何もできないと言う事はわかってますし。……まあ、三人娘が私に逆らったらどうなるかは保証しませんがね。そうでない限り、追いかけたり手出しをすると言う事はしませんよ。のんびりとこの世界で生きると良いでしょう」
 三人娘は「逃げて!」の大合唱をしている。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コーイチ物語 2 「秘密の... | トップ | コーイチ物語 2 「秘密の... »

コメントを投稿

コーイチ物語 2(全161話完結)」カテゴリの最新記事