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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 211

2020年12月16日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 すぐ傍に現われた光に綺羅姫は薙刀の切っ先を向ける。テルキは姫の肩に優しく手を置く。振り返る険しい表情の姫にテルキは笑顔を向ける。
「綺羅、心配するな」テルキは姫に言う。「この光はオレの知り合いだ」
「……光が知り合い?」姫は不思議そうな表情でテルキを見上げる。「テルキは光の国の者なのか? うんと遠い所の者なのか?」
「ははは」テルキは子供っぽい感想を言う姫に笑った。「……でもまあ、ここからうんと遠い所である事は確かかな」
 頭上に「?」マークをいっぱい付けているような様子の姫はじっと光を見ている。やがて、光の中から、まずチトセが、続いてアツコとタロウが、そして、ナナとタケルが現われた。光はすうっと消えた。
「やあ、久し振りだな」
 テルキはナナとタケルに向かって言うと笑った。ナナとタケルは対照的に厳しい表情だ。
「何じゃ! この者たちは!」綺羅姫が声を張る。薙刀を構え直す。「テルキ! こやつらは何じゃ?」
「彼らは、オレを捕まえに来たんだ」テルキは平然とした顔で姫に言う。「ま、色々あってね……」
「お前は罪人だったのか? コーイチもそうなのか?」
「いや、コーイチ君は、言ってみれば巻き添えって感じかな」テルキはコーイチを見る。「……良かったな、助けが来たぜ」
「テルキ!」姫は薙刀を持ったままテルキの正面に立つ。「お前は罪を犯し、ここへ逃げて来たと言うのか?」
「まあ、そんなところだ……」
 テルキの言葉に、姫はがっくりと肩を落とし、下を向いてしまった。しばらくそのままだったが、ゆっくりと顔を上げた。姫はテルキからナナたちへと踵を返し、ナナたちを見回す。
「ならぬ……」姫は小さく言う。「ならぬ。ならぬ! ならぬ!!」
 次第に声を荒げると、姫は薙刀の切っ先をナナたちに向け、テルキの前に立った。
「お前たち! テルキを捕らえようと申すか! させぬ! テルキに指一本触れさせぬ!」
 いきなりの展開に、ナナとタケルは顔を見合わせる。すると、タロウが訳知り顔で、すっと前に出た。
「まあまあ、そう怒らないで……」タロウは親しみを込めた笑顔で言う。「ボクたちはあなたに危害を加えようと言うのでは無いんだ。そこのテルキさんと話があるんだよ……」
 タロウは言いながら一歩前に出た。
「無礼者が!」
 姫は一喝すると、薙刀を振るった。切っ先がタロウの鼻先をかすめた。風切り音が凄まじい。タロウは思わず尻もちをついてしまった。「タロウ…… お調子者のバカ」とアツコのため息交じりの声が聞こえた。
「良いか!」姫は尻もちをついたタロウに向かって薙刀の切っ先を向け、にらみ付ける。その眼は殺気に満ちている。「わたくしはこの内田の姫ぞ! どこの馬の骨か知らぬが、気安く声を掛けるでないわ!」
「は…… はい……」タロウは震えている。本当に命が取られると思っているようだ。それほど姫は怒っているのだ。「すみませんでした…… 姫様……」
「それにな……」姫はナナたちに顔を向ける。「どんな事情があるのかは知らぬが、テルキはな、わたくしの婿となり、この内田の家を継ぐ者なのじゃ! それを邪魔立てすると、只では置かぬ!」
「あの、姫様……」ナナが言う。声が少し上ずっている。「先程の仲間の非礼は謝ります(ナナは尻もちをついているタロウを見る。アツコはふんと言った感じでそっぽを向く)。そちらにも事情があるでしょうけど、わたしたちにもあるんです……」
「知らぬ! さっさと失せろ!」姫は一喝する。「皆の者! 曲者じゃぞ! 何をしておる! 討ち取れい!」
 姫の言葉に、周りの侍たちは抜刀し、構えを取った。
「タロウ! あなたのバカさ加減でこんな事になったのよ!」アツコがタロウに向かって言う。「何とかしなさいよ! 頭が良いんでしょ?」
「……でも、薙刀だぜ、刀だぜ……」タロウは周りを見ながらつぶやく。「そんなのボクにはどうにも出来ないよ……」
「ナナ、こう言う時って、タイムパトロールはどうすれば良いんだ?」タケルがナナに言う。「ボクの記憶じゃ、その時代の人には手を出せないんじゃなかったっけ?」
「そうね……」ナナは困惑の表情だ。「手を出している人を取り締まるのが、わたしたちの仕事だから……」
「それじゃあ、ここで討ち死にかい!」
 タケルは呆然としながら周囲を見回す。姫の「討てい!」一言で抜刀した侍たちは一斉に飛び掛かって来るだろう。
「おい! コーイチ! 何とかしてくれよう!」
 そう叫んだのはチトセだった。ナナたちはコーイチを見た。逸子もコーイチを見る。皆の眼差しには期待が込められていた。 
「いや、あの、その……」コーイチはぽりぽりと頭を掻く。それから姫の方に向いた。「姫…… 少しだけ、みんなとテルキさんとで話をさせてもらえませんか?」
「うむ……」姫は言うと、薙刀の穂を上にして石突で地を叩いた。侍たちはそれを合図に刀を鞘に収めた。「コーイチがそう申すのなら良かろう。話をするが良い」
 皆はコーイチの所へ集まった。チトセはいつの間にかコーイチの腕にしがみついている。テルキの前にナナとタケルが立つ。アツコは城が好きなのか、城を見上げてぽうっとしている。タロウはばつが悪そうに下を向いている。
 コーイチはこれまでのいきさつをざっと話した。
「……なるほど……」ナナがため息をつく。「と言う事は、結果的にテルキさんがコーイチさんを助けたって事かしら?」
「いや、オレにはそんなつもりはなかったよ」テルキが言う。「ただ、綺羅を見た瞬間に持って行かれちまったのさ。幸いにも綺羅もオレに惚れてくれている」
「それって、相思相愛ってやつだろ?」チトセがませた事を言う。「しかも、相手は姫様だもんなぁ…… 凄いや」
「姫様の以前の姿は知らないけど、わたしの時代でも十分通用する容姿だわね」逸子がモデルの目線で言う。「着物よりも水着が似合いそう……」
「逸子さん、滅多な事は言わない方が……」コーイチは冷や冷やしながら姫を盗み見る。姫がじっとこちらを見ているからだ。「まあ、確かに二か月前に比べれば……」
 逸子がコーイチの腕をつねる。チトセもコーイチの腕を締め上げる。
「いててててて……」コーイチは苦痛に顔をゆがめた。「冗談だよ、冗談」
「とにかくさ、先輩をどう扱うかだよな」タケルが腕組みをする。「『ブラックタイマー』解散の立役者だからなぁ……」
「あら!」アツコが割って入り、タロウを冷たい眼差しで見る。「本当の立役者は、自称『頭が良い男』のタロウだわ」
「まあ、そうなんだろうけどさ」コーイチが言う。タロウはさらに下を向いた。地を這う蟻が友達だと言わんばかりだ。「こんな事、ボクが言うのは変かもしれないけど、……テルキさんを許してあげられないかなぁ」
「え?」ナナは驚いた顔をするが、すぐに厳しい表情になる。「……でも、テルキさんは内規違反を犯しています。タイムパトロール本部で裁きを受けなくてはなりません」
「そこを何とか……」コーイチは言う。「タケルさんの先輩だし、過去にも色々とタイムパトロールに貢献しているんだろうから、恩赦って感じで……」
「それは、わたしの権限ではないです……」ナナが言う。「上層部の判断です」
「でも、ナナさんはもうすぐ長官になるんでしょ?」逸子が言う。「だったら、長官の権限を使っちゃうとか……」
「……でも、それは……」
 ナナはそう言うと、黙ってしまった。


つづく

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