永井祐の次の歌は、表現が上手いということで過去に記事にしたが、問題を抱えていることも指摘して来た。
わたしは別におしゃれではなく写メールで地元を撮ったりして暮らしてる(永井祐)
問題視したのは「地元」の意味である。
昔からの解釈をすれば「子どもの頃過ごした地」ということになり、出身地・現住所とは区別される。
地元と現住所が異なる人のうち、地元に親族が住んでいるケースが多数と思われる。
若者に限定すれば、地元に親が住んでいるケースが圧倒的多数であろう。
以上の解釈を前提にして永井の歌を読めば、親元で写真を撮ったりして暮らしているのだから、フリーターのような状態の若者が食いつめて逃げ込んだ状景と理解するのが妥当である。
ところが短歌研究2020年6月号に永井祐の言葉が載り、現住所という意味で使用したことが明かされた。
たしかに、テレビに出演する東京あたりの若者のあいだでは、地元=現住所として会話が成立している。おそらく「地元商店街」という聞きなれた熟語から派生したものだろう。この場合、大きな町の商店街に対して小さな町の商店街を指している。つまり、本来は他を想定した上での使用法なのに、特に若者において、前提や前置き無しに使われている。
従来であれば「このあたりにお住まいですか?」と聞くところを「地元ですか?」で済ましてしまうのだ。
この使用法は、まだ市民権を得たとは言えないが、悪貨は良貨を駆逐することが多いので、いずれは市民権を得る可能性があると思った。
今回は目を世界に向ける。
ロンドンのハックニーの、とあるカフェで抹茶ラテを楽しむ若者に「地元の方ですか?」とマイクを向けたところ「No」と言った瞬間の映像である。
地元は英語ではhometown又はhoodである。
hoodは元々は服のフード(ずきん)や目隠しの意味だが、若者が歌うヒップホップではホームタウンの意味で使われる。
ホームタウンは故郷のことである。
上の写真で「ここハックニーは地元ではありません。私はロンドン生まれで、現在はこの近くに住んでいます」と言っているのを東京にあてはめれば、八王子で声をかけられた若者が「八王子は地元じゃないよ。僕は都区内の生まれで、今は西八王子に住んでいるんだ」と言ってるのと同じです。
地元=現住所という使用法は、どうやら市民権を得ることができないでしょう。
安直に若者言葉を使用すると、永久に誤読されることになる。
(備考)
(1)法律の関係で住所の定義が明確化したのは、地方から上京して大学に通う若者に、故郷の選挙への投票権があるとされた裁判結果。
東京の住まいが一時的なもので、故郷が「本拠地」であり、大学卒業後故郷に戻る予定であれば、故郷が住所であると認定してよろしい、という判決だった。
(2)高齢者の場合には「地元」かどうか聞くことは適切ではなく「出身地」を聞くのが正しい。ひとつには、現住所=本拠地であることが多く、今さら故郷とは繋がっていないからである。また、病気、介護等で本拠地から離れて暮らしているケースも少なくなく、住所の概念が非高齢者とはズレていることも念頭に置くべきだからである。