今思い出したら大したことないことかもしれないけど、でも思い出してみたらちょっとだけ心が痛かったりもする。
あれは二十歳の頃だったと思う。僕は当時大学2年生で、学生だけで構成された音楽イベント団体のようなものに所属していた。前にも話したと思うけど、この団体は都内様々な大学や専門学校の音楽好きの学生達が集まり、東京の音楽シーンを盛り上げようと、イベントやラジオ番組やフリーペーパーなどを企画するというものだった。当時は一応某有名レコード会社の中に事務所を構えていて、そこを活動の拠点としていた。
僕は大学1年の時にその団体に所属し、通常任期は1年だったのだが、どういうわけか幹部としてもう1年やることになってしまった。(正直あまりやりたくなっかたのだけど…)
幹部として残ったのは自分を含めて男3人。そこにレコード会社の担当の人も含めて男4人。最初の仕事は新しいメンバーのオーディションだった。某音楽雑誌等に募集記事を載せてもらい、電話受け付けから書類審査、面接と、全てが初めての体験で刺激的だった。男4人だったので、特に女の子のオーディションは盛り上がった。
募集に何人来たかは忘れたけど、最終的に合格したのは多分10人強ぐらいだった。
その中に彼女(以降A子)はいた。
A子はけっこうノリのいい子で、会議の途中に急にテンションが上がって奇声を発したりするような、少し変わった子だった。背は大きめで、グラマラスなボディで、自分以外の男幹部の連中はけっこう気に入ってる様子だった。歳は一つ上だった。正直自分はあまり好きな感じではなかった。
ある日、代官山で新メンバーの歓迎会のようなものが行われた。そこで自分が、少し酔っ払ったか何かでちょっと目をこすったりした時だったと思う。どこからか、「かわいい~」という声が聞こえてきた。ふと見ると、声を発したのはA子だった。明らかに(勘違いではなく)自分に向けられたものだと分かった。でもどうしたらいいか分からなく、僕は聞こえない、気付かない振りをした。
帰り道、僕はA子が少し気になった。けど特に話はしなかった。でも気分は良かった。代官山に吹く初夏の風がなんだか心地よかった。
数日後、家の電話が鳴った。出てみると、A子だった。
「Aですけど、分かりますかー?」
「あー、分かるよ?」
「名簿見て、電話番号調べちゃいました~」
”来た”と思った。あまり驚きはしなかった。なんとなく、電話が来てもおかしくはないような気はしていた。
A子はテンション高めで、すごい勢いで喋ってきた。女の子と話すのは苦手だったが、そのテンションに飲み込まれ、打ち解けるのに時間はかからなかった。お互い色々なことを話し、その後も頻繁に電話で話すようになった(当時お互い携帯は持ってなかった)。電話を切る前に、必ず次はいつどっちから電話するかを決めて約束した。僕はA子に惹かれていった。
ある日A子はこんなことを言い出した。
「最近イタ電がすごいんです。実は最近彼と別れたばっかりなんですけど、犯人は多分その彼なんです。」
A子は困っている様子だった。僕は、自分に助けを求められているような気がして、ちょっと嬉しかった。
でもまだそんな関係でもないし、自分に何か出来るわけでもなかったので、ただ経過を見守っていた。
それから数週間ぐらい経った頃だろうか、僕の家に頻繁にイタ電が来るようになった。内容は、無言だったり、何か訳の分からないことを言っていたり、脅しのようなものもあった。
A子の元カレかとも思って少し怖かったが、確証もないのでA子には黙っていた。かなり悩まされはしたが、家の電話の留守電機能を解除したりして対応しているうちに、イタ電も掛かって来なくなった。
こんなこともあった。夏のある日、A子に電話したら、いきなり、
「今私おパンツマンなんです~!」
と言われた。どうやらパンツ1枚という意味らしい。正直そういうノリは引いたが、僕の心はもう止まらなかった。A子との電話は楽しくて仕方なかった。
当時の僕は、二十歳になりながらも、女の子と付き合ったこともなければ、キスどころか手も繋いだことすらない、うぶの中のうぶ男だった。僕はそのことがどうしようもなくコンプレックスで、毎日のように悩んでいた。周りの友達は、もうほとんどが女の子と経験済みだった。
でもその時特に仲の良かった大学のオーケストラの友達二人は(大学時代はオーケストラにも所属もしていた)、そんな僕のことを応援してくれ、色々アドバイスをくれたりもした。8月の夏合宿の時、おパンツマンの話をしたら、二人とも爆笑しながら自分のことのように喜んでくれた。その日は3人で合宿所のロビーで朝まで飲み明かした。
夏が終わる頃、A子と二人で会う約束をした。もちろん女の子と二人きりで出掛けるのは初めてだった。ただ飲みに行くだけの予定だったが、当日は朝から落ち着かなかった。
ところが、当日の昼過ぎぐらいにA子から電話が掛かって来た。
「なんか、外ウロウロしてたら気分悪くなってきてしまって…」
いわゆるドタキャンの電話だった。
これを機に、A子との電話も今までのようには盛り上がらなくなった。A子の反応も、なんだか冷たくなってきた。
やがて季節は秋になり、僕は冬に予定されていたオーケストラの演奏会にA子を誘ってみた。A子にはどうしても来て欲しかった。
でも返事はなかった。例の音楽イベント団体も、ちょうどその時期に内紛のようなものが起き、事実上解体した。A子との会話も、その時の電話が最後になった。
僕はどうすることも出来なかった。”急にどうしたのだろう?”と悩んだが、考えても何も分からなかった。かといって自分から電話をする勇気もなかった。自分にも初めての彼女がやっと出来るかもしれないと喜んでいただけに、ショックも大きかった。
オーケストラの先輩で、当時水商売のようなバイトをしている女の先輩に状況を説明したら、その人は表情一つ変えずに、「よくあることだよ。」と言った。でも意味が分からなかった。
今思えば大したことのない話だけど、でも思い出してみるとやっぱりちょっと心が痛い、そんな話でした。
あれは二十歳の頃だったと思う。僕は当時大学2年生で、学生だけで構成された音楽イベント団体のようなものに所属していた。前にも話したと思うけど、この団体は都内様々な大学や専門学校の音楽好きの学生達が集まり、東京の音楽シーンを盛り上げようと、イベントやラジオ番組やフリーペーパーなどを企画するというものだった。当時は一応某有名レコード会社の中に事務所を構えていて、そこを活動の拠点としていた。
僕は大学1年の時にその団体に所属し、通常任期は1年だったのだが、どういうわけか幹部としてもう1年やることになってしまった。(正直あまりやりたくなっかたのだけど…)
幹部として残ったのは自分を含めて男3人。そこにレコード会社の担当の人も含めて男4人。最初の仕事は新しいメンバーのオーディションだった。某音楽雑誌等に募集記事を載せてもらい、電話受け付けから書類審査、面接と、全てが初めての体験で刺激的だった。男4人だったので、特に女の子のオーディションは盛り上がった。
募集に何人来たかは忘れたけど、最終的に合格したのは多分10人強ぐらいだった。
その中に彼女(以降A子)はいた。
A子はけっこうノリのいい子で、会議の途中に急にテンションが上がって奇声を発したりするような、少し変わった子だった。背は大きめで、グラマラスなボディで、自分以外の男幹部の連中はけっこう気に入ってる様子だった。歳は一つ上だった。正直自分はあまり好きな感じではなかった。
ある日、代官山で新メンバーの歓迎会のようなものが行われた。そこで自分が、少し酔っ払ったか何かでちょっと目をこすったりした時だったと思う。どこからか、「かわいい~」という声が聞こえてきた。ふと見ると、声を発したのはA子だった。明らかに(勘違いではなく)自分に向けられたものだと分かった。でもどうしたらいいか分からなく、僕は聞こえない、気付かない振りをした。
帰り道、僕はA子が少し気になった。けど特に話はしなかった。でも気分は良かった。代官山に吹く初夏の風がなんだか心地よかった。
数日後、家の電話が鳴った。出てみると、A子だった。
「Aですけど、分かりますかー?」
「あー、分かるよ?」
「名簿見て、電話番号調べちゃいました~」
”来た”と思った。あまり驚きはしなかった。なんとなく、電話が来てもおかしくはないような気はしていた。
A子はテンション高めで、すごい勢いで喋ってきた。女の子と話すのは苦手だったが、そのテンションに飲み込まれ、打ち解けるのに時間はかからなかった。お互い色々なことを話し、その後も頻繁に電話で話すようになった(当時お互い携帯は持ってなかった)。電話を切る前に、必ず次はいつどっちから電話するかを決めて約束した。僕はA子に惹かれていった。
ある日A子はこんなことを言い出した。
「最近イタ電がすごいんです。実は最近彼と別れたばっかりなんですけど、犯人は多分その彼なんです。」
A子は困っている様子だった。僕は、自分に助けを求められているような気がして、ちょっと嬉しかった。
でもまだそんな関係でもないし、自分に何か出来るわけでもなかったので、ただ経過を見守っていた。
それから数週間ぐらい経った頃だろうか、僕の家に頻繁にイタ電が来るようになった。内容は、無言だったり、何か訳の分からないことを言っていたり、脅しのようなものもあった。
A子の元カレかとも思って少し怖かったが、確証もないのでA子には黙っていた。かなり悩まされはしたが、家の電話の留守電機能を解除したりして対応しているうちに、イタ電も掛かって来なくなった。
こんなこともあった。夏のある日、A子に電話したら、いきなり、
「今私おパンツマンなんです~!」
と言われた。どうやらパンツ1枚という意味らしい。正直そういうノリは引いたが、僕の心はもう止まらなかった。A子との電話は楽しくて仕方なかった。
当時の僕は、二十歳になりながらも、女の子と付き合ったこともなければ、キスどころか手も繋いだことすらない、うぶの中のうぶ男だった。僕はそのことがどうしようもなくコンプレックスで、毎日のように悩んでいた。周りの友達は、もうほとんどが女の子と経験済みだった。
でもその時特に仲の良かった大学のオーケストラの友達二人は(大学時代はオーケストラにも所属もしていた)、そんな僕のことを応援してくれ、色々アドバイスをくれたりもした。8月の夏合宿の時、おパンツマンの話をしたら、二人とも爆笑しながら自分のことのように喜んでくれた。その日は3人で合宿所のロビーで朝まで飲み明かした。
夏が終わる頃、A子と二人で会う約束をした。もちろん女の子と二人きりで出掛けるのは初めてだった。ただ飲みに行くだけの予定だったが、当日は朝から落ち着かなかった。
ところが、当日の昼過ぎぐらいにA子から電話が掛かって来た。
「なんか、外ウロウロしてたら気分悪くなってきてしまって…」
いわゆるドタキャンの電話だった。
これを機に、A子との電話も今までのようには盛り上がらなくなった。A子の反応も、なんだか冷たくなってきた。
やがて季節は秋になり、僕は冬に予定されていたオーケストラの演奏会にA子を誘ってみた。A子にはどうしても来て欲しかった。
でも返事はなかった。例の音楽イベント団体も、ちょうどその時期に内紛のようなものが起き、事実上解体した。A子との会話も、その時の電話が最後になった。
僕はどうすることも出来なかった。”急にどうしたのだろう?”と悩んだが、考えても何も分からなかった。かといって自分から電話をする勇気もなかった。自分にも初めての彼女がやっと出来るかもしれないと喜んでいただけに、ショックも大きかった。
オーケストラの先輩で、当時水商売のようなバイトをしている女の先輩に状況を説明したら、その人は表情一つ変えずに、「よくあることだよ。」と言った。でも意味が分からなかった。
今思えば大したことのない話だけど、でも思い出してみるとやっぱりちょっと心が痛い、そんな話でした。