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飼っていた猫ではなかったのか、と男は思う、そして女(猫)の姿子は手に入れた 

2021-01-02 15:48:36 | オリジナル小説

 女とは一回、寝ただけだ、しかも初対面なので二度と逢う事もないだろう。

 久しぶりの飲んで気が大きくなって、開放的な気分になっていたいなのかもしれない、軽い気持ちもあったのだろうと思っていたのだ、そのときは。
 だから、逃げ道のような言葉を自分には付き合っている女性がいると言った、もし、それで駄目ならいいと思っていた。
 

 だが、相手は、それでも構わないと言った、たまにあるでしょ、やりたいと思う時って、挑発的な言葉に正直、そそられたと言ってもいいだろう、だから、俺は軽い気持ちで頷いて相手を抱いたのだ。
 

 悪くはなかったと思う、それが正直な気持ちだった。 


 「飲みに行かないか」
 「うーん、やめとくわ」

 久しぶりの誘いを断るとは、まったく、恋人の自覚があるのか、少し不機嫌になった俺に、彼女は姿子(しなこ)がいるから、ごめんねと謝ってきた。

 友達かと思ったら猫だという、だが、アパートはペット禁止ではなかったか、それを聞くと大家の許可は取っているから大丈夫だと、友人が旅行へ行く間、預かっているらしい。

 正直、生き物は、いや、猫はあまり好きではない、以前、付き合っていた相手が飼っていたのだ、決して向こうから近づくことはなかった、多分、自分の事が好きではないのだとわかった。
 

 日がたてば少しは慣れてくれるだろうと思ったが、変わらなかった。


 猫は嫌いなのと聞かれて、ただ苦手なだけだと答えた、もしかしたら冷たい人だと言われるのではないかと思ったが、少し困った顔をしただけだ、だが、暫く家には来ない方がいいわねと言われて、それが、あまりにもあっさりとした口調だったので、すぐには返事ができなかった。

 どのくらい猫を預かるのかと聞くと、一ヶ月という返事が帰ってきた。

 「ホテルには預けられないからね」

 その言葉に俺は返事ができなかった。

 それから暫くして彼女の部屋を訪ねた、長かったと思いながら、だが、部屋をに入って驚いた、あの夜、出会った行きずりの女がいたのだ。

 どういうことだと混乱する、すると背後から恋人がどうしたのと不思議そうに声をかける。
 

 久しぶりに訪れた彼女の部屋、だが、何故、この女がいるのかわからなかった。


 友達なのと恋人から紹介されて頷くが、正直どんな顔をすればいいのかわからない、だが、いきずりの浮気がばれてはまずいと、俺はしらを切り通すことにした。

 部屋に入ると恋人は座椅子を勧める、かなり大きなサイズだ、初めて見るなと思った、新しく買ったのだろうか、友人だと紹介された女は笑いながら座椅子に座る、半分、横になるような格好で当然のように、ここは自分の居場所なのだといわんばかりに。
 

 その姿が猫のようだと思ってしまった。

 いくら友人の家だといってもくつろぎすぎではないか、恋人が来ているというのに。

 ホットミルクを手渡された女はマグカップを両手で持ち、ゆっくりと飲み始めた、自分にも何かと俺は声をかけるが、珈琲、切らしてるのと言われてしまった。

 何故だ、自分の恋人が台所で食事を作っている、だが、それは自分の為ではないということに俺は内心、むっとした。

 女は雑炊を食べながら、俺にちらりと視線を向ける、無言のままで、その様子、目つきは、まるで。


 「あー、美味しかった、なんだか睡くなってきた」

 「入らないの、お風呂」

 「んーっ、面倒、朝風呂は駄目かな」


 なんだ、この女、泊まっていくつもりなのか、内心、むっとして俺は立ち上がった。

 
 
 「友達なのか、あの女」

 「どうしたの、怒っているみたいだけど、何だか、変よ、姿子、あなたに何かした、妊婦なんだから優しくし
てあげてよ」

 俺は驚いた、思わず相手の男、恋人、旦那さんはと聞くと恋は首を振った、聞くなといわんばかりの態度だ、まさか、いいや、そんな筈はない、何を考えているのか、俺は自噴が怖くなってしまった。

 あの時、避妊しただろうか、不安が押し寄せた。

 

 「なあ、妊娠してるって、父親は俺じゃないよな」

 後日、俺はなんとか恋人のいない時を狙って尋ねた、すると、あり得ないわよという返事がかえってきた。

 「できるわけないじゃない、あなた不能でしょう」

 俺は無言、何も言なかった。

 


 「ねえ、あたしの事、まだわからないの、思い出してみたら」

 女は笑いながら、姿子と言った。

 それは女じゃない、猫だ、そうだ、名前は、どうして忘れていたんだ、俺は。
 

 「おまえ、姿子(猫なのか)」

 別れるときまで懐つかなかった猫、当然だ、あの猫は。

 女は首を振った、いいえと、そして嬉しそうに笑った。

 

 「死んだのよ、彼女、自殺、ねえっ、忘れたの」

 「何が言いたい、まさか、俺が」

 言葉が出てこない、だが、自分を見る女の目は、まるで。


 「だから、あたしがいるのよ、そうだ、いいこと教えてあげましょうか」

 胸の中が、ざわざわとした、怖いと思った、何を言おうとしているのか、それに気づいて怖くなった。

 逃げたい、ここからと、だが、後がなかった。


 それは小さな記事だった、会社のビルの屋上から飛び降りた男の自殺など、この現代では珍しくない。


 「姿子、御飯、食べる」

 「勿論、後で髪の毛とマッサージ、お願いね」

 「猫みたいね」
 
その言葉に女は笑った、だって猫だものと。

 だが、あの男は理解しなかった、頭からおかしいと決めつけていた、なんて器量の狭い人間だろう、それに比べて彼女はすべてを受け入れてくれる。

 「子供の名前は決めたの」

 「二人で決めよう、だって、二人の子供なんだから」

 なんて素敵な響きだろうと姿子は思った、ご主人様と同じ事を言う、そう、同じ声で、自分は彼女に拾われた、行く当てもなくて、そんな自分は猫みたいと言ったのだ、彼女は。

 あの男はそれを受けて入れられなかった、いや、それだけではない、気づかなかったのだろうか、現在の恋人との関係に、だとしたら滑稽だ。

 いいや、もう考えるのはよそう、過ぎたことだ、終わった事だ。


 もう、何も考えまい、お腹の中の子供の事だけ考えよう。

 

 



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