自分は死んでるみたいです、あまり重くならないようにあっさりとした感じで言ったつもりだった、だが、二人の男達の顔は、なんともいえないものがある。
泣いて大きな声を上げたりすればらしく見えるのかもしれないけど、正直、実感というもがなかった、ただ、少しだけ、ほっとしている自分がいた。
家族、祐子さんにイシュヴァールという国で生きている、親切な人に助けられてと説明しなくてすむ、そんな事を思った自分に面倒くさがりで薄情な性格なんだと呆れてしまった。
「先生、手を出してください」
だが、マルコーサンは意味が分からないみたいで構わず両手を握った、というよりはがっしりと掴んだ、自分がもし死んだというなら、周りだってそうかもしれないと思ったからだ。
だが、違う、自分は生きた人間の手を握っている。
「ご飯は食べるしトイレに行くし、風呂にも入って眠るし、あたし生きてますよね」
驚いた顔をするが、先生は頷いた、勿論だと言ってくれた。
世の中には不思議なこと、理解できないこと、現実でもたくさんあったと思い出した。
だけど、今、自噴のいる世界、現実はここだ。
「マルコーさん、キスしてください」
男の顔がくしゃりと歪む、何を言い出すのかといいたげに。
「冗談です、ははは」
自分は笑える、咄嗟に冗談も言える、大丈夫、両足は地に着いている実感できる、だけど、その夜、寝ながら鼻水を啜ってティッシュを大量に消費して寝てしまった。
その朝、村の老人、足腰の辛い人に来てくれといわれているので出かけてきます、昼は過ぎると思いますと出かけた女の後ろ姿にスガーが言った、あれが落ち込んでいた人間かと。
「あれはカラ元気というやつだ、夜も何度か起きてるみたいだ、眠れていないみたいだな」
「そう、なのか」
やはり気づいてなかったのかとマルコーは頷いた。
「ハーブティーでも用意するか、カモミールがいいな」
戸棚を、ごそごそと探していたが、きらしてしまったかとマルコーは残念そうに呟いた。
「ハーブ、カモミール?」
「眠りが浅いときにはいいんだよ、薬などよりは優しいし、女性の体だからな」
「そうなのか」
「ああ、まあ、あとは日にち薬、時間が必要だな」
「ありがとうよ、ミヤ、はい、これ、少ないけど」
「いえ、ありがとうございます」
金を取るようになってから、なんとなく手が抜けないと思って時間もかけるようになった、最近になって知ったが、街でもこういう商売、マッサージとかかはあるらしい、医療には入らないらしく、免許が無いと駄目という訳ではないらしく、これはグレーゾーンなんだろうなあと思いながら外に出ようとすると女が呼び止めた。
「忘れてたよ、これ、前、欲しがっていただろ」
茶色の小瓶を差し出された。
「この間、行商人が来てね、シン国の人間なんだよ」
思わず笑顔で受け取ったミヤは疲れも吹き飛んだ気がした、瓶り蓋をわずかに開けて匂いを嗅ぐと、甘い匂いがする、もしかしてラベンダーと女に聞く。
「ああ、その人も驚いてたよ、イシュヴァールで欲しいという人がいるなんてびっくりだって」
シン国は日本と似たところがあるのかもしれないと思いながら外に出ると、おいと声をかけられた。
「スカーさん」
サングラスをかけて、大型バイクに跨がって、正義の味方じゃなくてアメコミに出てくる未来の悪役だと思っていると乗れと言われてしまった。
「いえ、もう一件、それが終わってから帰ります」
すると、待っていると言われて驚いた。
外に出ると本当に待っていてくれた、びっくりしたよ、もしかして先生、マルコーさんに言われたのかと聞くが、無言だ、気を悪くしたと思っていると。
「いいか、これだけは言っておく、マルコーを騙すな、何かあったら許さん」
怖い目で睨みつけてくるので正直、驚いた、何を言い出すのか、だけど考えてみたら知り合いが危惧するのも当たり前かと思ってしまった。
マルコーさんは、いい人すぎる。
「そんな事しませんよ、好きなんですから」
ここはきっぱり、はっきりと伝えておかないと駄目だと思い、断定するようにいうとスカーさん驚いた顔になった。
変な事を言っただろうかと思ったけど、ここは外国というイメージだ、だから、はい、いいえ、好き、嫌いは伝えておくべきかと思ったのだ。
「スカーさんの事も好きです、先生のご友人ですし」
今日で一週間になるが、居候状態でも先生は気にしていないので付き合いも長そうだし、信頼もあるのだろう、今まで必要最低限の会話しかなかったけど言っておいたほうがいいだろう。
砂に水が染みこむようにというのは、まさに、これだ、乾燥しているなんて言葉では足りないわというぐらい、マルコーさんの顔はぐんぐんとオイルを吸収している。
顔全体の皮膚が怪我、火傷跡みたいに引きつれたみたいになっているので、寒くて空気が乾燥したときは、バリバリに強ばってしまうんではないだろうか。
顔のマッサージをしますと言ったときは断られた、けど、オイルマッサージというのは自分のいたところて男女、関係なく行っていたし、効果があるなら村の女性にも、いわば最初の実験ですと言って強引にやらせてもらう事にしたのだ。
ホットタオルで顔を拭いて両手にオイルを馴染ませて、顔全体をぐりぐりと触っているのだけど楽しくなってきた。
友人にやってあげたとき、極楽、幸せー、天国にいるみたいーと、男女関係なく言ってたなあと思い出した。
襟元のボタンを外して首に触れると堅い、いや、張っているという首周りも堅い、医者は大変だなあと思ってしまった、体力だけでなく、気力とか、精神的にもと思ってしまった。
だから、婚活女子は医者、弁護士とかを狙うんだ、そんな事を思いながらそばで見ているスカーさんに声をかけた。
「後でスカーさんもやりますから、オイルあるし」
「いや、遠慮する」
即答だった。
顔を洗うとき冷たい水でも痛くないとマルコーさんの言葉にほっとした。
オイルはシン国の行商人から買ったと言ってたけど、だったら、そこに行けば手に入るんだろうかと思ってしまった。
シン国は遠いんだろうかと思って聞くと徒歩と交通機関を使えば三日ぐらいで行けると聞いて考えてしまった。
スカーさんのバイクに乗せてもらえばと思ったが、いつまでここに居るのか分からないし、それほど親しくもないのに乗せて連れて行ってくれとは、さすがに言えない。
うーん、こうなったらマッサージでお金を稼いで旅費を作る、いや、村で自転車を借りてヒッチハイクという手もあるのではと考えた。
目を開ける事ができないのは恥ずかしいからだ、何事にも初めていうのはあるが、まさか、この歳になって自分の顔を触られるとは思わなかったとマルコーは、ただじっとしていた。
最初は緊張して、だが、時間がたつうちに段々と顔が熱くなってきた、血の流れが良くなってきているのだろう、初めて背中を触られたときもだ、正直、悪くない気分だ。
「寝てていいですよ」
彼女は笑っているなと思った、声からもだが、いや、指先からも感情が伝わってくるような気がしたからだ。
溶けてるというか、無防備といってもいいくらい、されるがままの男の顔というのは見ていて、うーん、これはなんだろうと思ってしまう。
普通なら赤の他人で年上の男性は、こんなことはさせてくれない、笑いたくなってきた。
「寝てていいですよ」
返事は小さくてよく聞こえないが、多分、寝落ちしかけているんだろうと思ってしまった。
(可愛い、いや、男性に失礼か)
言葉に出したら否定されるだろう、だから、言わないことにした。
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