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 鋼の錬金術師 一  タッカーの協力と電車事故、何故、三人は呼ばれたか、キンブリーとスカー、そ してマルコー

2021-04-24 08:03:03 | 二次小説

 ハガレンの二次です、少しシリアス風味になっています。

 

 

自分は眠っていたのか、そう思ったのはベッドに寝ていることを確認したからだ、いや、死んだ筈ではなかったか、死刑になった筈だ、なのに何故生きている。
 
 「あれは人形、身代わりをたてたのだ」
 
 男の声がした。
 自分は処刑されたはずではなかったか、人間と動物を掛け合わせて合成獣を作った罪で、違法だからという理由で、だが、自分の中では正義だ、動物は良くて人間は何故、駄目なのか、人間も動物ではないか。
 
 「君の行為を悪だと決めつけたのは浅はかな連中の愚行だ、君は愛していた家族を、妻と娘を」
 
 男の目が大きく見開いた。
 
 「だからこそ、私は」
 
 「知っているよ、奥方のことを、君は違法な実験に踏み切った、娘のことにしてもだ」
 
 「誰だ、あんた」
 
 「君と同じだ、失いたくない故に違法と知っていても手を出した、見せてあげよう」
 
 ついて来いと言われて男はベッドから起き上がると部屋を出た、長い廊下、空気がひんやりとする、着いた先のドアを開けて中に入ると、そこには大きな水槽が、そして中に入っているのは大きな魚かと思ったが、ばしゃんと水音がした。
 
 「ああ、お客を連れてきたんだ、驚かないでくれ」
 
 水槽から顔を出したのは女の顔だ、よく見たまえと言われて男は近づいた、水音がし、しぶきが男の顔にかかったが、そんなことは気にならなかった、水の中から現れたのは鱗に包まれた魚のような半身は、まるで小説やや映画に出てくる人魚だ。
 
 「彼女は事故に遭って動けなくなった、足がね、ただ、それだけだと思っていたんだ、だが、年を追うごとに弱っていく、原因が分からない、どんなに金がかかっても、命が助かるなら何でも、たとえ、禁止されていることで、だが、道が見えた、石だ」
 
 「もしかして、賢者の石」
 
 「ああ、軍が大量の石を作る為に、人間を犠牲にしたことは知っているかい、随分と昔のことだけど」
 
 「少し前に、囚人をという話を聞いた」
 
 バンッッ、何かをたたきつける音がした。
 
 「駄目なんだよっ」
 
 男の心と気持ちがざわりと揺れた。
 
 「協力してくれ、ブリックスなら最適だ、扉を開く、石があれば、君の妻と娘を取り戻すこともできるんだ」
 
 そんなこと、死んだんだ、すると、笑われた、賢者の石については詳しくないんだねと、男の心が、気持ちがざわりと揺れた。
 
 「軍も間抜けだ、いや、わざとかな、あんなものを賢者の石だというのか」
 
 「どういう、ことだ」

 「ただ、彼女を助けたいだけなのに、君だってそうだろう、妻と子供を、ショウ・タッカー」
 
 男は頷いた、かけていた眼鏡を外して拭ったが、それが涙などとは思いたくもなかった。

 

 葬式なんてまっぴらだというのが祖母の口癖だった、大勢の人間に集まって貰って亡くなった自分のことを、あの人はいい人だった、いや、結構、意地の悪い人だったよとなんて笑い話や酒の肴にされて、とんでもない、体の血が凍りそうだ、だから自分が死んでも葬式だけはしてくれるなというのが遺言だった。
 だから葬式はしなかった、というか先立つものがなかったというのもある。
 
 そんなある日、祖母の友人だったという女性が尋ねてきた。
 
 「頑固なんだよ、まあ、無理もないけど、葬式なんていいんだよ、それよりも、あんたに話したかなと思ってね、若い頃、突然いなくなったんだよ、家出って噂がたったけど」
 
 「そうなんですか、初めてです、祖母とは、あまり会うこともなかったし」
 
 「初めての時は大学、その後も何度かね」
 
 旅行ではというと相手は首を振った。
 
 「春はね、神隠しみたいだと言ってた、亡くなる前にあたしを呼んでね、だから、自殺したんだ」
 
 でも、病院で(老衰)と言いかけた自分に老婦人は首を振った。
 
 「連れて行かれたら大変だって、あんたのことを心配してた、ひどく、一度、誘拐されたろう」
 
 子供の頃のことだし、よく覚えていないんです、その言葉に老婆は笑った、忘れた方がいいこともあると。
 
 

 

 「お久しぶりです、先生、お元気でしたか」
 
 振り返らなくても声でわかる、正直、このまま無視していきたいところだが、そういう訳にもいかず、ティム・マルコーは振り返ると変わりはないわよ短く挨拶を返した。
 
 「傷の男、貴方も元気そうですね、しかも相変わらずの仏頂面だ」
 
 大きなお世話だと思いながら口には出さず、スカーは完全無視を決め込んだ。
 
 「しかし、何故、おまえさんが、ここに」
 
 キンブリーは死んだ筈だ、そんな疑問が顔に出たのかもしれない、すると、こちらこそですよとキンブリーは笑った。
 
 「シン国の医療術の進歩も大変なものだ、驚きですね、先生の顔も元通りだ、いや、以前より若返ったんじゃないんですか」
 
 「なんだね、お世辞のつもりかね」
 
 「嘘ではないですよ、ところでここに来たのは」
 
 「何も知らされてはいないよ、ただ、軍からの命令で来ただけだ」
 
 キンブリーはマルコーを見ると、そうですかと頷いた。
 
 そのときドアが開いた、飛び込んで来た女性は息を切らしながら部屋の中を見回した。
 
 「た、大佐は」
 
 我々、三人だけですよというキンブリーに女性は顔を曇らせた。
 
 「実は捕獲していたホムンクルスが逃走しましたっ、見張りの隙を突いて」
 
 「そのホムンクルスは、どこへ」
 
 「エンヴィーは」
 
 女性の言葉に三人の表情が、えっとなった。
 
 「死んだ筈じゃなかったのか」
 
 スカーの言葉に不思議ではないでしょうとキンブリーが笑った、自分でさえ生き返ったのだ、ホムンクルスの彼が、そうなっても不思議はない。
 
 「どこに行ったのかわかりますか」
 
 女は迷った様子で大佐はと言いかけたが、観念したのか小さな声で呟いた。
 
 「ブリックスです」
 

 

 祖母の知り合いは小説好きで沢山の古い本を自分にくれたので、それをスーツケースに詰めると準備は整った、海外旅行は初めてなので緊張する、電車に乗って空港まで行くのに一時間以上はかかるので余裕をもっていかないと。
 母親は少し不安そうな顔になった、何かあったら連絡してねといって送り出してくれたが、一週間ぐらいなら、よほどのことがない限り連絡はしないよというと、仕方ないわねといいたげな顔で送り出してくれた、どこか不安そうなのは昨日、祖母のことを聞いたからだ。
 
 「おばあ、祖母が若い頃、家を出て帰ってこないなんてこと、よくあったんだって、教えて貰ったんだけど」
 
 「ああ、教えて貰ったのね、最初は驚いたけど、何度もあると慣れてきて、もしかして帰ってきたくなかったのと思ったわ」
 
 何故か、母の言葉をあっさりと受け止めてしまう自分がいた。
 
 「貴方のこと、誘拐されたときは凄く心配して」
 
 もう大人、いや、おばさんだよ、いい年なのに彼氏も、結婚もせずに。
 
 「結婚しろとか、言わないよね、祐子(ゆうこ)さん」
 
 「まあ、遠慮してるのよ、これでも」
 
 遠慮、それに気づいたのはいつだろうか、そんなことを考えてバスに乗って、駅まで行く、何事もなくそこまでは。
 
 だが、電車に乗ろうとしたとき、思い切り背中を押された。

 悲鳴が上がった。

 「落ちたっっ」
 「いや、飛び込んだんだ」
 「女の人だわ」
 
 だが、確認しても死体は見つからなかった。
 事故ではない、自殺でもない、見間違いだったということで一時間ほどの遅れで電車は運転を再開した。


 「ああ、よかった」

 線路を見下ろした笑みを浮かべたのは眼鏡をかけた一見、どこにでもいる平凡な容貌の男だ。

 「さて、ブリックスからセントラルまでは時間がかかる」

 男は線路に飛び降りた。
 
  
 
 



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