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風邪をひきました、ニュースは(小室正○氏)の声で

2020-10-17 22:56:27 | 二次小説

 二週間も宿に泊まるなんて、生前、いや、あっちで生活していたときもなかった、これが海外旅行と珍しくないけど、とにかく、あまり外出せずにおとなしく過ごそうなんてことを思っていたのに、一週間目にして風邪をひいてしまった。
 
 「先生、本当に風邪でしょうか」
 医者であるマルコーの言葉を疑うわけではないが、思わず尋ねてしまう。
 「この国の人間じゃないし、もしかして悪い病気じゃ」
 昨日も、この質問をされたなあと思いながら、マルコーは、ただの風邪だよと笑いかけた。
 「鼻水はとまらないし、くしゃみはたまにだけど、全身だるくて」
 いや、それは風邪の症状、普通だからとマルコーは思ったが、彼女の恨めしそうな視線にやれやれと思った。
 「昔は普通の風邪なら寝てれば、すぐに治ったのに」
 「何も食べてないからだ、寝ているだけでも体力は消耗するからね」
 そう言ってマルコーはパンがゆをスプーンで掬って彼女の口元に運んだ。
 ベッドから焼き上がるのも疲れる、だるいという彼女は食べる気力がないという、そして寝込んでから限界がきたのか、食べさせてくださいとと言ってきた。
 いや、そんな子供みたいな事をと思ったが、今では慣れてしまったというか、仕方ないと言わんばかりに食べさせているのだ。

 ドクター、客だ、スカーの声がして入ってきたのはラストだ、見舞いに来てあげたわよという彼女はマルコーの手にしたスプーンを見るとニヤニヤと笑った。
 「あらー、甘えまくりじゃない」
 普通なら恥ずかしがるのだろう、だが、ラストの言葉に彼女は、いいでしょうと、どこか自慢げだ、風邪のせい、病人だから大丈夫という思考になっているのかもしれない。
 「そのうち下の世話もさせられるわよ、ドクター」
 何を言うのかと、むっとした顔で睨む彼女だが、ラストは気にする様子もない、ただ、ちらりとマルコーを見た、呆れたような顔で甘やかしすぎよといわんばかりに。
 
 見舞いのラストが帰ると、そろそろ寝なさいとマルコーの言葉に彼女は首を振った。
 「お願いがあるんです」
 退屈だから本、いや、新聞でもいいから読んでくださいと言われて、ああ、退屈なのかと思ってしまった。
 
 軍の医療室で治療をしているときに付きあっている恋人の話を軍人達はたまに漏らすことがある、外食、豪華なレストランで美味しい物が食べたいとか、プレゼントが欲しいとか、高官ならともかく、安月給の下級軍人ともなると決して楽ではない。
 そんな話を聞くと羨ましいというより気の毒だと思ってしまうくらいだ。
  彼女、美夜のお願いなど些細なものだと思ってしまうのだ。

 「先生の負担にならない程度に、でも、我が儘ですよね、あたし」
 「どうしたんだね、急に」
 生憎と読書用の娯楽といった本はないので、新聞でも読もうかと考えていたが、そんな事を言われてマルコーは、はあっという顔になった。
 「ご飯食べさせてくほしいとか、退屈だから何か読んでくれとか、赤の他人が図々しいと思いませんか」
 確かに言われてみれば、我が儘と撮られても不思議はないかもしれない、だが、あまり嫌だと思わずに自分はきいてしまっているのだ。
 「別に構わんよ、ただ、他の人には、あまり、こういうことは、我が儘というか、誤解されかねないから、気をつけなさい」
 これを男にやってしまうと、いや、あらぬ誤解をされてしまうかもしれないというと、女は真顔になった。
 「大丈夫です、先生以外に、こんなこと言えません、というか、お願いしたり、甘えたりしません、そんなことしたら大変ですよ」
 ああ、一応分かっているのか、ならいいんだがと思いつつ、いや、それは本当にいいのだろうかと思ってしまう。
 「少し待ってなさい」
 マルコーは部屋に戻ると、ここ数日の新聞を盛って部屋に戻った。
 
 「先生、眼鏡、かけてましたか」
 ベッドのそばの椅子に座り、新聞を手にすると驚いた顔で彼女が尋ねてくる。
 軍で働くからと作ったんだよとマルコーは説明した、歳のせいか、細かい字か段々と見えづらくなってきたからねと説明すると、彼女は、じっと自分の顔を見ている。
 「なんだね、そんなにじっと見て」
 「その、先生、かっこいいなと思って」
 マルコーはぎこちない笑いを返した。
 「はは、嬉しいね、こんな顔だが」
 いや、先生は男前ですという、断言するような力の籠もった声にマルコーは少し照れた鰐委を浮かべた。
 
 まるで、ニュース番組、渋いニュースキャスターの声で朗読されているようだ。
こういうのを耳福というんだろう、それに眼鏡をかけた先生の顔というのも初めて見る。
 見ているだけで新鮮で眠るのがもったいないと思いながらも、いつの間にか眠ってしまった。
 
 
 新聞記事、ニュースだけでは退屈だろう、明日、帰りに本屋にでも寄ってみようとマルコーは思った、ただ、どんなジャンルがいいのだろう、まさか、自分の分野、医療知識、技術の本を延々と読み聞かせるというのは聞いているのも退屈だろう、本屋に行けばなんとかなるだろうと思った。
 だが、それは思っているほど簡単な事ではなかったのだ。
 
 大きい本屋なら大丈夫だろうと思ったが、色々と沢山ありすぎて迷うというよりも困ってしまった、自分よりも高い棚に並んだ本を見上げていると首も疲れてきた。
 恋愛物がいいのか、いや、色恋ごとに関してあまり、積極的ではないというか、いい思い出もなさそうだ、だったら推理、謎解きなどの本がいいのか、ホラーな内容は眠れなくなったら考え、悩んでいると声をかけられた、振り返ると、そこにはラストが立っていた。
 マルコーはエプロン姿の彼女を不思議そうに見た、バイトしてるのよと言われて、驚いたのも無理はない。
 「結構楽しいのよ、色々と出会いもあるし」
 「そうか」
 「で、何をお探しですか、ドクター」
 医学書かしらと尋ねたラストだが、マルコーの話を聞くと難しいわねという顔になった。