福島原発の事故収束への道のりは遙かに遠い。汚染された稲わらによる肉牛の問題など、新しい課題が絶え間なく出ている。菅首相の退任問題をめぐる、醜い政局の動向は被災者そっちのけの感がしてならない。
今まで長い間、安全神話の旗振り役を担ってきた歴代の政府、財界、安全神話の御用学者などなど推進派の面々は、今回の東電事故に直面し、いったい心の中で何を思っているのか正直な心根を吐露してほしいものだ。
ウラン235などの原子核に中性子をぶつけるとそれを吸収して質量数が1つ増えたウラン236になり核が2つに分裂する。この時、大きなエネルギーと放射線、2個の中性子を放出する。これを核分裂という。この時、分裂前の質量(ウラン235+中性子1個)と、分裂後のウランと中性子2個を合わせた質量を比べると、分裂後の質量の方が分裂前のものより僅かに減少している。この、減少した質量の分がエネルギーとして放出される。これが、アインシュタインが発見した物質とエネルギーの関係である。彼は特殊相対論の帰結として、放出されるエネルギーは E=MC^2 という方程式で表される事を発見した。この式でE はエネルギー、Mは物質の量、Cは光速で唯一の定数である。ここで、距離の単位を 「光速×秒」、すなわち、m/sec×sec と表現すれば、E=MC^2 は E=M と単純化された式になる。この方程式は物質MはエネルギーEと等価であることを簡潔に示している。これが原発や原爆の基本的な理論であり、物質そのものがエネルギーに変わる事を示している。
ウランの核分裂によって生じた2個の中性子が、近くにある2個のウラン235に衝突、吸収されてそれぞれを分裂させると.........、このように核分裂が連続的に起こる事を連鎖反応と呼んでいる。連鎖反応が急速に、一瞬のうちに起こるのが原爆であり、コントロールされながらゆっくりと進んでいくのが原発である。
ところで、今回の東電事故が起こる前までは、運転中の原子炉が非常事態に緊急停止すれば安心だと思っていたが、そうではないことが実証された。いったん原子炉に火が入るとウランなどの核反応は急には収まらないし、核燃料が安全な状態に戻るためには、長期間にわたる冷却が必要である。その冷却系の仕組みが破損すると、水蒸気爆発や放射線をまきちらすなど多くの危険を内蔵している。今回の事故は、原子炉に火が入ると常に暴走の危険性を想定しなければならないという教訓を鮮明にした。そして、この暴走をくい止める技術は確立していない事も明かになった。
福島原発事故は収束どころか新たな危険を露呈しながら依然として現在進行形である。何故なのだろう。それには一定の訳がある。もともと原子力は戦争目的の技術として開発された。戦争に勝つために、相手国に驚異的な打撃を与える技術を追求したのである。E=MC^2 で、物質量Mは少量でも光速C^2は非常に大きな値になるので、発生するエネルギー〈破壊力)は巨大なものになる。広島、長崎に投下された原爆は僅か200g、1円玉2個分のウランがエネルギーに変わったものだという。このように、原子力は戦争目的であったから、爆発させて大きなエネルギーと放射線を発生させるまでの技術で十分であった。その後の放射線など安全対策としての技術は全く考えられる事はなかったのである。原子力は未完の技術と言われる所以はここにある。
原発も原爆と同じ原理である。ただ核連鎖反応が瞬時に起こらないように水などを利用して中性子の速度を制御するなど、核連鎖反応がゆっくり起こるようにコントロールしたものである。だから原爆同様にエネルギーを取り出した後の安全対策としての技術は考慮されていないと言っても過言ではない。原発は技術的には未完なのだ。
お花畑で蜂が蜜を求めるように、歴代の政府、財界、安全神話をふりまく御用学者など推進派は E=MC^2 を執拗に追求し続ける。