真っ白な扉―――
その向こうにあった、彼の
部屋。
ドアをあけると、小さな書斎が
あった。書斎には、デスクとラ
ジオが置かれていた。
寝室の奥に、広い部屋がふたつ、
直角に折れ曲がるような形で
つながっていた。
手前の部屋は、アトリエ。その
続きには、彼の作品や画材や
画集がところ狭しと並べられ
ていた。
絵具のにおいがした。
窓の外にも、うちにも、広がって
いた、サムシング・ブルー。
幾度、訪ねたことだろう。はち
切れそうな情熱と、あふれる愛
の言葉を抱えて。
わたしはいつも、大きく広げら
れた彼の腕の中に、飛び込んで
いった。
あの部屋で、交われさた会話、
抱擁、口づけ。流れていた時間、
空気、風、季節。結ばれた約束。
聞かさえれた旅の計画。ふたり
で見つめた、ひとつの未来。
ふたつの心の映った鏡。
それらは今、どこにあるの。
どこへ行ってしまったの?
あなたは、わたしを置いて・・・
今、どこにいる?
どんな空のもとで、誰のこと
を思っている?